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清き風は麗しく舞う  作者: 斎木伯彦
耳飾りの徴
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耳飾りの徴

「余は、あの者にお前を嫁がせようと思うのだ」

「え?」

 彼女は驚きのあまり絶句してしまった。兄の話を総合するとこうだ。伯爵は今回の功績により恩賞を賜ることになっている。しかし皇朝の財政はやや逼迫しており、彼には充分な恩賞を与えられない。そこで伯爵に彼女を嫁がせて侯爵として封じ、その穴埋めをしようと言うのだ。

「そ、そのような馬鹿げた話、皇朝が始まって以来、一度としてありませんわ!」

 彼女は激昂のあまり叫んでいた。その直後に気を失って倒れてしまう。配下の者が彼女を寝室へと運び込み、介抱にあたった。そのような騒ぎがあったとは露知らず、夕方には祝いの宴が張られている。

「う……ん?」

 遠くから聞こえる騒ぎの声に彼女は目を覚ました。既に彼女は楽な服装に着替えさせられている。

「わたくし……?」

 彼女は記憶の糸を辿った。それから憂欝な表情で俯く。

「あのような理由で、降嫁させられる……」

 泣きたかった。一人の人間としてではなく、半ばは物として扱われている己に、存在理由が有るのかどうか。

「イアール様、貴方様の許へ行きたい」

 唯一、身分を考慮せずに付き合える相手であった。今すぐにでも連れ去って欲しくなり、彼女は窓辺に佇む。

「今すぐ、いらして下さい」

 両手を組んで、一心に祈った。しかし彼女の祈りも虚しい。扉をノックする音と共に、勝手に開かれる。

「殿下、お目覚めでしたか」

 オースティンだ。彼は速やかに扉を閉めると、誰かを呼びに行った。彼女はこの後の運命をほぼ予測出来た。案の定、兄が先程の伯爵を伴ってやって来る。

「シェラ、心配したぞ。もう体調は良いのか?」

「……、陛下には、ご心配をお掛け致しました」

「何を他人行儀になっておる。我々は兄妹ではないか」

「それも、もう終わりです。わたくしはこの方に嫁がされ、臣下として過ごさなければならないのですから」

 彼女は芝居がかった様子で顔を両手で覆った。

「そのように悲しまなくても良いであろう。伯爵はとても気さくな男だ、お前を大事にしてくれるぞ?」

「そのように仰られましても、わたくしは……」

「未だに、その男を思うか! 今までは大目に見て来たが、今日と言う日は許せぬ。その耳飾りを、捨ててしまえ!」

 彼女の両の耳たぶを飾るのは、宝石をあしらった小さな銀の耳飾りであった。それは王宮内の誰も知らない間に、彼女の耳たぶに着けられていた曰く付きの物である。皇王にはそれが誰からの贈り物であるか、見当がついていたのだ。

「お止め下さい! これだけは!」

「ならぬ!」

 彼女は必死で耳を覆い、それを奪われないようにしゃがみこんだ。けれども皇王は手を緩めない。彼女の手を無理矢理押さえ付け、ついにその耳飾りに手を触れようとした。その刹那であった。

「待て!」

 不意に部屋の中に声が響き渡る。ギョッとして彼は動きを止めた。しかし室内には三人以外は、誰もいない。

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