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清き風は麗しく舞う  作者: 斎木伯彦
手鏡と耳飾りと
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手鏡と耳飾りと

平日毎朝8時に更新。

「せめて、わたくしの成人まで、待っては頂けなかったのでしょうか?」

 この世界での成人は十八歳である。成人を済ませれば後は本人の自由意志が尊重される。それまで待って欲しいと彼女は願っていたのだけれども、それも叶わないようだ。馬車は軽快に走る。暫くして、馬車が停止した。目的地かと思い彼女が窓を開くと、護衛の騎士の一人が馬を寄せて来る。

「殿下、街の関所でございます。今暫くお待ち下さい」

「そう、有難う」

 一言返礼して、彼女は窓を閉めた。すると馬車は再び走り始める。石畳の皇都を抜けて街道に出たのであろう、車輪から伝わる振動が柔らかなものに変化した。

 馬車の外では、騎士たちが取り囲むように馬を走らせている。五人の騎士が守護する様子を見れば、この馬車を襲おうという不敬の輩も遠ざかると思っての警護だ。しかし、世の中には何事も例外という事態が存在する。

「きゃっ!」

 突然、馬車が止まった。物思いに沈んでいた彼女は床に投げ出され、したたかに膝を打ち付ける。その膝を撫でながら窓を開けようと手を伸ばした。馬のいななきが聞こえた。続けて金属同士がぶつかり合う音。瞬間的に何が起こったのかを理解して、彼女は窓を開けようとした手を止める。それでも外の様子を窺おうと、ゆっくりと窓を開いて覗き見た。

「そんな!」

 馬車の外では五人の騎士たちが悪戦苦闘を演じている。三十人ほどと思われる人相の悪い男たちが馬車を取り囲んでいた。山賊だ。騎士たちは彼女が座乗する馬車には指一本すら触れさせまいと奮戦しているのだが、多勢に無勢、五人ずつに囲まれて一人、また一人と馬車から引き離されて行く。

「野郎共、お宝を拝むとするか!」

 全ての騎士が馬車から遠ざけられると、山賊の頭目らしい髭の男が彼女の乗る馬車に近づいて来た。どう考えても友好的な話し合いなど無駄だと彼女は瞬時に判断する。それで彼女の心は定まった。相手を油断させようと、相手が扉を開こうと手を伸ばすまで身動きせずに辛抱する。まさに扉が開く刹那、彼女は中から勢いよく扉を開けた。目論み通り、扉は頭目の顔面を痛撃する。

「頭!」

 慌てて取り巻きたちが彼に駆け寄った。その間隙を衝いて彼女は飛び出すと、馬車に繋げられている馬に飛び乗る。それまで馬車の陰に身を潜めていた御者は、彼女の意を察して、馬が繋げられていた綱を断ち切った。

「殿下、どうぞご無事で」

 御者は馬の尻に鞭を当てる。驚いた馬は彼女を乗せたまま走り出した。驚いたのは山賊たちもだ。あまりの展開に思考がついてゆかず、対応が遅れる。彼らが追い掛け始めたのは彼女の後ろ姿が、かなり小さくなってからであった。

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