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清き風は麗しく舞う  作者: 斎木伯彦
手鏡の行方
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手鏡の行方

平日毎朝8時に更新。

「さあ、冷めない内に」

「はい」

 イアールに勧められるまま、彼女は匙を手に取り、目の前に用意されたスープを飲み始めた。ほとんどフルコースに近い種類の料理が所狭しと並べられている食卓。彼女の食欲を考えてか、イアールの用意した量はあまり多くなかった。それでも彼女は充分に満足する。食卓へ匙を戻し、口元を拭った。

「オースティン」

「は、はい」

 シェラに呼び掛けられ、オースティンは意識を現実に引き戻した。

「この人の存在を知っているのは、わたくし以外では貴方だけなのです」

 彼女の言葉にオースティンは首を(かし)げそうになった。確かに王宮内でこの男を知っているのは二人だけだろう。しかしこの男の故郷や、周辺に住む人々は知っているはずだ。

「つまり、貴方以外でこの方とわたくしがこうして密会しているのを知る人はおりません」

 皇女の言葉を聞いて、オースティンは目眩いを感じていた。彼以外の誰も知らないと言う事実は、事が露見した場合に、彼も共犯になり兼ねないからだ。皇女の為には命を捧げる覚悟ができていても、得体の知れない男性の為にまでは無理だ。彼は皇女の傍らに座る男性を睨みつけた。

「貴方には、王宮内で囁かれている噂を揉み消して欲しいのです。辛い任務だとは思いますが、よろしく頼みましたわよ」

「畏まりました」

 皇女の頼みとあれば、オースティンには受ける以外の選択肢はない。その彼にイアールが手を差し延べた。

「これを」

 彼が差し出したのは、一粒の水晶だった。さほど大きくもないその結晶は不思議な光を放っている。

「危険が迫ったのならばこれを握り、私の名前を呼ぶがいい。必ず助けに行こう」

「使う機会はないと思うが、有り難く受け取っておく」

 オースティンは皇女の手前、それを受け取った。その彼を確認して彼女は立ち上がる。

「それでは、わたくしは戻ります」

 シェラはイアールの手を握り、潤んだ瞳で彼を見詰めた。彼も彼女を見詰め返す。立ち上がったイアールと彼女の身が近づくのを見るに耐えず、オースティンは目を閉じて顔を背けた。

「シェラ、貴女のように気高く美しい方はこの地上には他にないでしょう。そのような方から寵愛を得るとは身に余る光栄。このイアール、いや、イア・ルーセスの名に賭けて、貴女を生涯見守りましょう」

「ありがとうございます」

 目を閉じ、顔を背けても会話は自然と耳に流れ込んで来る。オースティンは他の事柄を考え、二人の会話を素通りさせた。

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