手鏡の行方
平日毎朝8時に更新。
「オースティン」
声を掛けられたのは青年の域に達したばかりの金髪の騎士だった。彼は実直そうな表情で彼女に対して恭しく頭を垂れる。
「おはようございます。皇女殿下に置かれましてはご機嫌麗しく、今日もお美しい限りであります」
「社交辞令はいいわ。これから出掛けますから、供をお願いしたいのですけれども?」
「殿下のお召しとありましたならば、いついかなる用件でありましてもお供致します」
彼は皇女直属の騎士で、その性格故にいつも損な役回りを押しつけられていた。先日も本来ならば彼が同行するはずだったのだが、折り悪く書類整理に追われる羽目になって同行していない。そして彼は内心密かに彼女を慕っていた。それを表に出すような性格ではない為に、未だに彼女に気付いて貰えていないが。
「それでは着替えて来ますから、離宮の入り口付近でお待ちなさい。貴方一人で待っているのですよ」
「畏まりました」
供を彼一人にして城下に赴くのは今に始まった事柄ではない。今までも何度も同じように行っているし、それに彼の剣技を信頼している皇王は、黙認している風だった。しかもこのような真面目な性格である、間違いを起こす確率も極めて低い。
彼女が支度を整えて指定した場所まで赴くと、オースティンはほぼ直立不動に近い姿勢で待機していた。その様子に彼女は忍び笑いを浮かべる。
「こちらへ」
シェラは笑みを消しながら彼に声を掛けた。恭しく頭を下げた彼を見たのか見ないのか、彼女は先頭に立って歩いてゆく。王宮の通用口から堂々と外に出て、街中へ分け入った。彼女の後ろをオースティンがはぐれないようについて行く。勿論、周囲への警戒は怠っていない。
彼女は皇都の東側、王宮からはほとんど目と鼻の先とも言える距離にある、小さな家の前で立ち止まった。
「ここですわ」
何かを確認するかのように大きく頷くシェラ。オースティンはそれとなく周囲に厳しい警戒の目を向けた。幸い、彼の警戒心を呼び起こすような気配は、家の中も含めて、付近には感じられなかった。彼がそのような行為を行っているなどとは露知らず、シェラは家の扉を開いて中に足を踏み入れている。慌てて彼は彼女の後を追った。
人一人がやっと通れるような階段を昇り、再び目の前に扉が立ちはだかる。彼女は躊躇する様子もなくその扉を開けた。部屋の広さは十メートル四方か、その部屋の中に椅子やタンス、テーブル、食器棚など生活するのに必要なだけの調度が置かれている。扉で隔てられた部屋の更に奥にはキッチンも備え付けられており、そこで誰かが調理をしているようだった。




