手鏡の行方
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〈手鏡の行方〉
「それでは、どこに行ったのか分からないと言うのだな?」
石造りの部屋の中で男と女が向かい合っていた。男性は青みがかった金髪で、その碧眼は目の前の女性を見据えている。着ている服は白地に橙色と金色の刺繍で文様が飾られており、整った顔つきとスラリとしたその体つきから見るに、貴族であるのを窺わせた。そして、その男性に見据えられている女性は、赤紫の髪を結い上げ、紺色のブラウスとフレアスカートを着ている。その耳には銀の耳飾りが光っているが、あまり目立たないような、それでいて目立つような、奇妙な存在感を放っていた。
「はい、誠に情けない事ながら、先日の山賊に襲われた時に、奪われてしまったのかも知れません」
「シェラ、そのような嘘を重ねて、どうしようと言うのだ?」
「嘘ではありません、お兄様」
「先日の事件は近衛の者から聞き及んでおる。正体不明の男に助けられたと言うではないか? その者に奪われたのではないか?」
「あの方は、そのような方ではありません!」
兄の言葉にシェラは激昂した。語気も荒く彼女はキッパリと否定する。しかし普段の彼女らしからぬ態度に、兄は不審なものを感じ取った。
「随分とその男の肩を持つのだな。もしや……?」
「お兄様、それは考え過ぎです。わたくしはただ……」
「もう良い。お前の結婚相手は既に考えてある。何も考える必要はない」
シェラの言葉を遮り、兄王ジュリアス三世は取り付く島もないように彼女を突き放す。
「下がれば良いぞ」
言われるままに彼女は兄の私室を後にしていた。
セントリフテリア皇国。緩やかな王政を布くこの国は豊かで争いもほとんどない。隣国との関係もさほど悪くなかった。そのようなセントリフテリアの皇都リフティアの王宮に於いて、彼女は先程のような追及を受けたのだ。
事の発端は三日前に遡る。兄に呼ばれて皇都の西にある皇族の別邸に向かった彼女は、山賊に襲われ手荷物のほとんどを捨て置いて逃げた。その後、助けられて無事帰還したものの、彼女はその日の朝まで持っていた手鏡を失くしていた。その手鏡は、彼女の為に皇王自らが特別にあつらえさせたものだ。それ故その扱いには神経を使う。一日費やして王宮中を捜索したが見つからず、結論として山賊に襲われた折りに失くしたのだろうとされていた。
しかし騎士団の報告によって、ある男に渡したとの情報が皇王の耳に入った。彼女もそれなりに情報封鎖を行って来たが、やはり皇妹としての権限では皇王に対抗できず、かなりの情報が漏洩していた。そうでなければ三日も経ってから呼び出されて尋問される事態には至らないはずだ。
「できれば穏便に済ませたかったのですが……」
彼女は一波乱起こしてしまいそうな状況になったのを悔やんでいた。それでも自らの私室に帰る途中で、見知った近衛の騎士を見付け、声を掛ける。
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