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第3話 集う、5人の妊婦たち(前編)

 礼拝堂ではディーネの言葉通り、3人の女が待ち構えていた。


「――エレン? あなた、エレンじゃありませんの?」

 

 まず1人目は、長い金髪が印象的な、背の高い女だった。

 腕組みをしながら、驚いたような顔をして私の方を見ている。


「……イヴリン? まさか、どうしてキミがここに?」


「――? エレンさん、イヴリンさんとお知り合いなんですか?」


「――わたくしたちは知り合いなんて浅い付き合いじゃありませんわ、ディーネさんとやら」

 

 私が何か言うより先に、イヴリンが鼻を鳴らして答えた。


「敢えて言うなら、宿敵同士かしら。わたくしとそのエレンは、これまで幾度となく刃を交えた間柄ですの」

 

 煌びやかなドレスに身を包み、一目でディーネと同じ上流階級の人間だと分かるが、受ける印象は彼女と真逆だった。

 声に張りがあり、眼差しも力強く、意図せずとも相手を委縮させるような圧力を放っている。


「宿敵?」

 

 ぽかんとした表情を浮かべるディーネに、私はこっそりと耳打ちをする。


「子供の頃からの顔なじみなんだ。家同士の付き合いがあってな」

 

 イヴリン・エルメンヒルデ。

 剣のアイオライト、槍のエルメンヒルデと並び称される、伝統ある槍術流派の跡取り娘だ。

 友人というほど仲も深くないが、名門の跡取り娘同士として、これまで何度も手合わせしたことがあった。


「イヴリン……キミも私と同じ目に遭っていたとはな。驚いたよ」


「それはこっちの台詞ですわ、エレン。そちらの家で何やらゴタゴタが起こっていると聞いてはいましたが、まさかあなたも、とは思いませんでしたわね……まあわたくしの家も似たようなことになっていますけど」


 イヴリンは不愉快そうに顔を歪めながら、自らの腹を撫でる。


「まったく、おぞましいったらありませんわ。こんな得体の知れないものを孕むなんて」


 よく見ると目元に酷い隈が出来ていた。

 あまり眠れていないのかもしれない。

 

 2人目は気怠そうに壁にもたれていた。

 深紅の髪をした、華奢な女だ。

 私に視線を向けられていることに気付いたのか、もたれたままで片手を掲げて、


「あー、あたしはプリシラな。よろしく、青い髪のねーちゃん」

 

 と挨拶してきた。


「ああ、私はエレンだ。こちらこそよろしく」


「知ってるよ。今、そっちの金髪のねーちゃんと話してるの聞こえてたからな」

 

 ふわぁ、とプリシラと名乗った女は退屈そうに欠伸をする。


「見る限り、あんたもいい所のお嬢様なんだろ? あたしみてーな田舎モンの魔術師とは話が合いそうにねーな」

 

 掴み所のない、独特の雰囲気を纏った女だった。

 粗暴な言葉遣いだが、童顔に口元から覗く八重歯も相まって、どこか小動物のような印象を受ける。


「……魔術師? キミが?」


「なんだねーちゃん、魔術師を見るのは初めてか?」

 

 私の問いかけに、プリシラはおかしそうに笑う。


「ま、無理もねーか。普段はあたしら、里に引きこもってるからな。今日はそこの緑の髪のねーちゃんに呼ばれて出てきたけど」

 

 魔術師――何もない所から炎や雷を生み出す、恐ろしい存在だと聞いている。

 実際に見るのはこれが初めてだ。

 どんなおどろおどろしい連中なのだろうと思っていたが……見る限り、ごく普通の少女にしか見えない。

 本当にそんな凄い力が使えるのだろうか?

 

 彼女の下腹部も、やはり大きい。

 プリシラのような幼い雰囲気の少女の腹が膨らんでいるというのは、アンバランスというか、奇妙な感覚だった。


「……ふわぁ」


 しかし眠そうに欠伸を浮かべる本人には、緊張感のようなものは一切窺えない。

 イヴリンと違って隈など出来ておらず、顔色も良かった。


「…………」

 

 そして3人目は、先ほどから一言も発さず、礼拝堂の隅で大人しくしている。

 

 その少女を一目みた瞬間、私は自分の瞳がおかしくなったのかと思った――どう見ても10歳くらいの紫髪の女の子が、腹に手を置いて無表情で佇んでいるのだ。


 子供っぽいというレベルでなく完全に子供だった。

 少なくとも、赤ん坊を孕めるような年齢には絶対に見えない。


「……14歳」

 

 と、こちらを見ないままで、少女が唐突に声を発した。


「え?」


「私――スズは14歳。子供ではない。身長が伸びなかったというだけ」

 

 ……反応が全くなかっただけで、こちらに見られていることには気付いていたらしい。

 

 変わった子だ。

 声にもおよそ抑揚というものを感じられない。

 スズと言う名前らしいが……14歳というと同い年だが、にわかには信じられない。

 唯一、胸だけは身長に不釣り合いなほど成長しているようだが、妊娠の影響だろうか?

 

 そして――いやに隙のない佇まいをしている。

 ただ突っ立っているだけに見えて、誰かに攻撃されたら即座に反撃の体勢に移行できる構え方だった。

 恐らく、武術の心得がある。

 見る者が見ればそういうことはすぐに分かるのだ。

 一体何者だ……?


「さて、これで皆さん揃われましたね」

 

 ディーネが場を仕切り直すように掌を合わせる。


「まずは呼びかけに応じてくださり、感謝いたします。今日皆さんをお呼び立てした理由は他でもありません。私たち5人の身に突如として起こった、この怪現象について話し合う機会を設けるためです。

 

 エレン・アイオライトさん。イヴリン・エルメンヒルデさん。プリシラ・フロックハートさん。スズ・リヴィングストンさん。そして私、ディーネ・ストラトスの5名は、立場や境遇こそ異なりますが、全員14歳で純潔のまま妊娠をしたという共通点があります。

 

 なぜこんなことが起こったのか、これからどうすべきか……同じ悩みを共有する私たちなら、きっと身のある話し合いができる筈です」

 

 私は改めて周囲を見渡してみた。

 私と同じ年の少女たち(1名はそうは見えない)が、一様に大きな腹を抱えている……まさか自分と同じ境遇の少女が、4人もいるとは思わなかったが、今さら驚くようなことでもない。

 そもそも処女で妊娠するという現象自体がおかしいのだ。

 それが2人だろうと5人だろうと大した違いはないだろう。

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