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モザイクロール

作者: 鍵ネコ

人は皆、モザイクである。そう指摘するのはベンチに座る御老人だ。髪の毛が白くなり、薄い。でもシワシワで、ヨボヨボと言う言葉が似合う位の御老人。


「あ……はあ…? モザイクですか?」


私は、決してその御老人と話すつもりはなかった。ずっと集中しすぎて疲れた気晴らしに散歩しているだけだ。ただ、公園を横切っているだけ。

途中に近所の人と会話することも、コンビニに寄って喋る事もするつもりはなかった。だが、黒光りするステッキをベンチに掛けながら座る御老人が突然私に声をかけてきたせいで、反射的___必然的___に会話をする事となった。


「そう。モザイク。貴方もモザイクだ」

「私もですか……」


しかし、よく分からない。言葉の意味が全く分からない。そもそも、モザイクには三つの意味があり、それぞれ意味が似ているようで似ていないそれだ。

一体それはモザイク柄の事なのか、遺伝子の事なのか、解像度を落とした映像なのかか分からない。だから、私はそれとなく聞くことにした。


「それは……どんなモザイクなんですか?」


御老人はそんな私の問いに、シワシワの手で皮が余った首皮を摘み小さく唸る。


「逆に俺はどんなモザイクだと思う」


そう聞き返されてしまい、私は言葉に詰まった。よく分からないから聞いたのだが、中々どうして。凡そ、私の言葉は「私自身が持つモザイクは何なのか」という捉え方になったのだろう。遠回しに言ってしまった分、労力を費やさなければなくなった。


冷たい風がヒューッと吹くと、細かく髪を掻きあげて枯葉が舞い落ちる。


その一連の動作を___目を泳がしていた為に___見ながら私は言葉にならない言葉を吐き、再び御老人に焦点を当てた。


赤いマフラーに黒いコート。中はヒートテックなのかコートの袖口からセーター以外に白い服が見える。手袋は嵌めておらず、冷たく震える手が露見していた。しかし、存外寒そうには見えず、否、寧ろその寒さを好んでいるようだった。


「そうですね……」


外見的で当てずっぽうだけれど、答えたほうがいいと思い私は言葉に躓きながら口を動かす。


「貴方の、モザイクは、暗そうですが暖かい梅干し? です……かね」


その表現の方法は些か良いものだと思えない。自身で言っておきながら、何を言っているのか分からない位だ。けれど、御老人の強張っていた頬が幾分か緩んだ気がした。


「そうかぁ……。暗そうで暖かい梅干し。貴方が見えている俺は、そういう形なのか」


やはり、嬉々とした声色だ。嬉しそうていて、誇らしそうで。


「形……」


そして、御老人はこのモザイクという言葉の意味を漸く口にした。モザイク、つまりは形らしいが……。成る程、そう解釈すると何か言葉に深みが出てきた。

モザイクの形、歪であるが形はない。貼り合わせて作られた模様という形。持論だが、人の経験というのは継ぎ接ぎだ、と定義したとして当てはめれば御老人の皆モザイクだという見解に納得がいく。


だが、質問の意図だけは組めなかった。ただ、通りすがりの男に謎なぞのような問いを投げかける意味、それは何だったのか。


ハッと意識に埋もれ掛けた意識を現実に戻してくると、御老人はベンチから起き上がっていた。右手にステッキを持ち、左腕を腰に添える漫画のような老人ポーズ。そして、御老人はカンッとステッキで地面を叩くと「そうだ。貴方のモザイクも教えてあげよう」と言って、私の双眸をまじまじと見つめた。


そんな事をされると恥ずかしい。そっぽを向きたいという感覚があるのだけれど、どうも御老人の黒い瞳に吸い込まれるような感覚が強い。


少しずつ、少しずつ意識がフワフワとして、身体の力が抜けていくような……。


「貴方のモザイクは『燃え尽きそうな黒い星』だ」

「燃え尽きそうな、黒い星……。何ですかそれ」


御老人はその問いには答えず、ステッキの持ち手部分を心臓に向けてこづくとゆっくりと公園を後にした。


そんな御老人の姿を見ながら、こづかれた心臓を撫でる。丁度、肋骨と肋骨の間に出来る溝の部分。時々、ドクンドクンと脈打つ心臓の音を感じながら空を見上げる。


空は青く快晴だ。こんな寒い時期なら珍しいものでもないけれど、私にとってはとても珍しいもののように、目に移った。霞のような雲がそれとなく浮かんでいるのが見える。太陽が昇り始めた朝。

どんどん青色を濃くしていく空を見つめて、息を吐いた。


「黒い、星」


()にある星々の一つ。その輝きは黒く、今にも燃え尽きそうだと、自分なりに解釈してみる。

これは最後の謎なぞなんだろう。そして、何となく今までのものより簡単かもしれない。


「もう少し、ゆっくりしても良いのだろうか」


私は少し焦りすぎていたのかもしれない。

頑張りすぎていたのかもしれない。

私は死に急いでいただけなのかもしれない。


もう少し、休憩を知ってもバチは当たらないよな……。


それに気づけただけなのだけれど、何処か気分が楽になった気がした。今日も仕事だと、いつものように疲れた気持ちではなく、頑張るという張り切る気持ちに。

以上となります。

無形という形もあれば赤色という形があります。そのどれもが単品というわけではなく、継ぎ接ぎで、モザイク模様のように粗い形という、タイトルをなぞった話でしたが。皆様はどんなモザイクの形がありますか?

頑張りすぎたり頑張らなすぎたり、人それぞれ形はあります。この主人公の『燃え尽きそうな黒い星』のような人もいれば『真っ赤な太陽』のような人もいるでしょう。宜しければ感想にお書き下さい。


因みに、ローファンタジーであった。と言う考えも入れると、物語の不完全さが補えるかもしれません。


お読みいただきありがとうございました。

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