第95話 女将の意地と期待
コンコン。
俺の部屋のドアを叩く音。
「…ヒトシ、帰ったのかい?」
あ、銀緑亭の女将だ。
「はい、戻りました。開いてますよ。どうぞ。」
そろりと入ってくる女将。
部屋に置いてある小さなテーブルに持ってきたお茶を置き
二つのカップに注ぐと椅子に腰かける。
「魔王ってやっぱりあんたのことなんだろ?」
「そうですね。自分で名乗った訳じゃないですけど。」
「そりゃそうだろうね。あんたの柄じゃないよ。
体の方はなんともないのかい?」
「はい今のところは大丈夫です。
何だか魔王としてのめんどくさい約束ごとなんかもありますけど。」
「そうなのかい、けどとりあえず元気そうで安心したよ。」
女将はため息をつきながら安堵していた。
「ご心配お掛けしました。」
「レイもしばらく留守にするって、
ジーノとか言う中年の魔法使い風の男と出ていっちまうし…。」
「それなんですけど、女将はジーノって名前に聞き憶えありませんか?」
「ジーノねぇ…。」
女将は全ての事が繋ったのか、驚きと焦りの表情を見せた。
「ま、まさか、死霊術士がレイを迎えに来たのかい!?
何てことだ…、何で気づけなかったんだ、アタシは!
ヒトシ!レイが!レイが!」
予想以上の取り乱し方だ。
もったいぶらずに先に説明するべきだったな。
「安心してください、女将さん。」
俺は今までの経緯を話し、
ジーノさんが悪者ではない事を伝えた。
「そんな、信じられない。
あの子が死霊術士に救われた大昔のエルフの姫で…、
本当の悪者は国王だったなんて…。」
女将は考えがまとまらず呆然としていた。
「信じられないかもしれませんが全部事実です。」
「でもそんな話あたしにしても大丈夫なのかい?」
「だから今この話をしたんですけど、
大丈夫も何も、もう大丈夫な状況じゃないですよね。」
「あ、ああ、変なやつらが何度かやって来たね。
あたしを連行するだのなんだの。
クローンが守ってくれたから何事もなかったけどね。
「全部国王が絡んでます。
すいません、俺のせいで危険な目に…。」
「何言ってんだい、これくらい大したことじゃないよ。」
女将はいつものはつらつとした笑顔を見せた。
大したことじゃないってそんな訳ないのに…。
「その事で相談があるんですけど。」
「なんだい、問題ないっていってるじゃないか。」
「はい、だからこれは俺からのお願いです。
俺は今、ある計画の為にスラムの西側で活動しているんです。」
「ああ知ってるよ。今はどこもその話題で持ちきりさ。
スラムの西に巨大な砦が突然姿をあらわした。
魔王が何かやらかすつもりだってね。」
「やらかすって、そんな…。
まあ、やらかすつもりなんですけど。」
「本当に面白いねあんたは出会った時からそうさ。
突拍子もない話を持ち出して、
予想もつかないことを簡単に成し遂げちまう。
大したもんだよ。」
「そんな大した事は。」
「大した事なんだよ。あたしら普通の人間にとってはね。
大きな力ってのは時に意図しない影響を与えるもんさ。
それがいい事であれ悪い事であれ、
自分達にはどうする事も出来ないんだからね。
そりゃ不安にもなるもんさ。」
「そうかもしれませんね、
何だかんだ王都の人達には不安な思いさせてるようだし…。」
「だがそれ以上にみんな期待してるのさ。
つまり、ヒトシに不安以上の希望を持ってるってことだよ!
これはヒトシがやって来たことの結果さ。
胸を張っていいことなんだよ!」
「ありがとうごさいます。」
「おっと、つい話が逸れちまったね。
で、お願いってのは何なんだい?」
「スラムの西に銀緑亭を移転しませんか?」
「はっはっはっ!また予想もしない話が飛び出したよ。
あたしを心配してくれてるのかい?」
「はい、俺のそばならあいつらも
簡単に手出しは出来なくなると思って。」
「心配してくれるのはありがたいけどね、
今やこの場所にもあたしの料理を待ってくれてる人たちがいるんだよ。
その人たちを置いていけると思うかい?
そもそもあたしはこの場所に骨を埋める覚悟で商売をしに来たんだ!
そんな奴らに負けてられないんだよ!」
「そうですか…。」
「それに、あんたが守ってくれるんだろ?」
「それはもちろんです!」
これは一日も早く問題を片付けなくちゃな。
「ああ、たのんだよ。」
「解決して戻ってくるのでもう少しだけ待っててください。」
その後、女将の昔話を聞きながら遅めの夕食をご馳走になり
部屋に戻り床についた。
現在ペンレシア国内の近場のダンジョンにフィールドシーカーが到達。
ペネトレーターを生成してダンジョン攻略中である。
ペネトレーターに乗り移って操作してみたけどすごかった。
半径100メートルのダンジョン内の構造と敵の位置が
把握できるので効率よく探索できるし、
移動速度が物凄く早いので、
階層を踏破するだけなら数分もかからない。
これは攻略急ぎたい俺にはぴったりだ。
でもダンジョンマスター生成する時に経験値と総魔力使って
ステータス下がってるからそこだけ気を付けないと。
ペネトレーターもジョブレベル10の上級職だから魔力の消費も半端無いし、
とりあえず、ランクの低いダンジョンから順番に攻略だな。
-地底神殿-
草原にぽっかりと空いた大穴。底無しの様にも見える光の届かない最深部。
岩壁をくり抜いたかの様な巨大な扉。
まるで巨人族用にでも造られたかのような様相だ。
だがそれにそぐわない扉の脇に開いた穴を塞ぐように
朽ちた木戸が打ち付けられていた。
むしろよく原型をとどめていたと言ってもよい。
なぜなら、ここ500年この神殿を訪れた記録がなかったからだ。
しかしこの神殿で採れる聖白石は希少な鉱物で魔を退ける効果があると言う。
これまでに二度聖白石を見た。
一つはダンテさんと王城の訓練場でダンテさんが
瓦礫を巻き上げた時に反応を示さなかった白い石だ。
もう一つはドワーフの鉱山跡。
災厄を封印している場所だ。
あの砦の扉が聖白石でできていた。
どういう仕組みかはわからないけど、
魔力を抑える力があるのかもしれない。
神殿の天上は入り口の巨大扉の倍の高さがあり、
中には純白の彫像が立ち並んでいた。
「恐らくこれが例の動くと文献に書かれていた像だな。」
二本の腰に下げているダガーに手を掛け警戒をする。
だが敵の気配は無い。索敵に引っ掛からないのだ。
そのまま奥まで進む。
「やたらと奥が深いな。」
ペネトレイターでも奥が見通せない。
ここは警戒を解いて一気に進むか。
ダガーを一本だけ手に持ち、前進。前進。
ペネトレイターはものすごい速度で前進している。
縦穴も深かったけど、これ縦穴の何倍の距離あるんだ?
ズゥーン…。
後ろで何かの倒れる音がした。
振り返ると神殿を支える柱が倒れていた。
「崩落?いや違う。」
柱が持ち上がっていく。
柱を抱えているのは白い戦士だ。
「ついに来たな。」
ダガーをしまい、背負ったロングソードを抜く。
1メートル強の刃渡りがある両手剣だ。
構えたロングソードは徐々に形状が2メートル以上ある大剣に変わった。
わざわざ武器持ち替えないでダガーを変形させたらいいのに。
て言ってる奴!
その通りだ。はっきりいってただの雰囲気だ。
雰囲気大事。あと効果音も大事。
持ち換えた武器を変形させる時点で雰囲気ぶち壊しですけどね。
ちなみに、弓とか、鎖ガマとか、巨大ブーメランとかに変形する
何とか忍軍の魔導具の暗器的な事は出来ませんよ。
あ、それイタダキだな。
柱をぶん回しこちらに向かってくる白い戦士。
全長5メートルはあろうかと言う。
巨大な柱を軽々振り回す様は異様だ。
無表情だし。
なんかうちのクローンみたいですね。
おっと射程圏内に入った。
構えた剣を降り下ろす。
「ぐわっとぉ!?」
弾き飛ばされた。
この程度ならいけると思ったんだけど。
そうか、ダンジョン生成に経験値取られてステータス爆下げ中だった。
生成の時は本体ステータスを基準に
クローンのステータスも決まっちゃうから
強いクローンが作れなくなっちゃうのだ。
ここはとにかくクローンをレベルアップさせて凌ぐしかないな。
魔力を使ってクローンをレベルアップさせる。
ズガンッ!
おし、膂力は大体拮抗したか。
こっちは全力でなんとか凌ぐ感じだけどね。
これくらいのバランスの方が面白いな。
何度か打ち合いタイミングを計るけど、
打ち終わりからの次の攻撃への繋ぎがスムーズで隙が無い。
というか無機質な動きでまるで機械だな。
柱を振り回す軌道が全くぶれない。
予備動作もないから攻撃が読みにくい。
けど逆に攻撃のリズムが単調過ぎるな。
相手のリズムに合わせ攻撃の軌道を逸らしながら徐々に接近する。
しかし臆するでも警戒するでもなく、ただひたすら柱を振り続ける。
これはあれだな。
ただ簡単なプログラムを施された動く石像だ。
対象に向けて移動し狙いを定め柱を振り回して攻撃することが
プログラム的に簡単かどうかは知らないけど…。
ボコッ!
攻撃を凌ぎつつ胴を一薙ぎ。
抱えていた柱を落とし他の像を巻き込み壁に激突する。
…
どうやら動く気配は無い。
「ふう、動きが単調でよかった。」
索敵に反応しないのは困るけど。
ドドドドォォォーン…!
回りの柱すべてが倒れ一斉に白い戦士たちが動き出した。
「え、柱全部…。」
構造的に大丈夫なの?
崩壊しないかの方が心配です。
初めての方、初めまして。
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