第89話 ウルの初テイム
ジグの魔人昔話を聴いて立派な大人に育ってきた私ですが。
と言う訳もなく、魔人についてはもちろん初耳だったわけで。
「さて、ウルさん。あなたのステータスを教えてください。」
「レベルは49で魔力レベル?は39になりました。」
「ふふふ、魔力レベルが解放されたようですね。」
そう、人族にはステータス欄に魔力レベルの「表示」が無いのだが、
実は隠しステータス的に成長点と言う見えない形で魔力レベルが存在し、
魔力レベルが一定以上に上がると急に「表示」されて確認できるようになる。
しかし、人間・獣人などの人族には魔力を吸収する力がほとんどなく、
魔力レベルが表示される事は特殊なスキルを持たない限りありえない。
「あの、努力もしないでいきなり強くなっちゃっていいんでしょうか?」
「努力はね、強くなろうがなるまいが、
する人はするし、しない人はしないんだよ。
そして君はきっと努力できる人だよ。」
ジグが当たり前だと言う顔でこっちを見てる。
「さて、こっからはウル次第だ。この馬達をどうするかだけど。
できそうかな?」
「はい!やってみます。」
さっきの朗らかな表情とは打って変わって厳しい表情になるウル。
どうやらさっき襲われたときの恐怖心はないようだが、
騙し討ちの様に襲われた事で学ぶ事は多かったようだ。
そう、相手は気性がとても荒く、
自分よりも格下だと判断した相手には容赦なく牙を剥く「魔物」なのだ。
それを本能的に感じ取り、どう対応すればよいか瞬時に理解する。
レベルも上がったせいか、後姿が少し逞しく見える。
ウルは一頭の巨大馬に近付き見つめ合う。
馬の瞳は恐怖と敵意に満ちているようだった。
俺が咆哮で無理矢理抑え付けたからだね。
じっと見つめ会うウルと巨大馬。
ウルの手は固く握られて、馬は鼻を鳴らしたり
蹄で土を掻く仕草をしていて落ち着かない様子だ。
しかし馬は耐え切れなくなったのか、ついに動いた。
ウルに噛みつこうと口を開く。
「ウル!」
「待て!」
駆け出そうとする俺に声が掛かる。
「はいっ!」
「あ、馬に言ったのか。」
待ての手は動こうとした馬に向けられていた。
ウルが肩で笑っている。
「ふん、どうやら緊張は解けたようだな。」
ウルと馬は再び膠着状態に戻った。
馬は顎から力を抜いていない。いつでも襲い掛かれる状態だ。
一歩また一歩とにじり寄り鼻の頭に手を置く。
馬はその手を振り払おうと左右に首を降るが、離れない。
だんだんと振り幅が小さくなる。
ウルが力で押さえている?
「どう見える?」
黙って様子を見ていたジグが警戒を解いたのか話しかけてきた。
「どうって、上手くいってるんじゃないですか?」
「ああ、そうだな。しかしあれは力だけでねじ伏せている訳じゃない。
意思の力で抵抗する馬を抑えているんだ。
いくらレベルが上がったからといって、
あの巨体の膂力を簡単に押さえられるわけがない。」
「身体能力的には格上を相手にしているってことか。」
「そう言うことだ。
本来テイムと言うものは弱い魔物から手懐け始めるものだ。
経験を得てスキルを磨き徐々に強力な魔物を服従させるのが正しい道筋だ。」
「じゃあこのやり方は間違って…。」
「いや、あながちそうとも言い切れない。魔獣使いの壁さ。
上を目指す者はいずれ自分より格上の魔物を
テイムしなきゃならない時が来る。
そしてその時に必要なものが…。」
「意思の強さ、ということですね。
そしてウルにはそれがある。そして優しさも。」
「どうやら我の説明は不要だったようだな。」
「いえ、分かりやすかったですよ。」
「ふん。だが魔物使いが一番命を落としやすいのも今だ。
もしもの時は我と魔王とで全力でウルを守るのだ。」
「はい!」
馬は何度か手を振りほどこうと抵抗を見せる。
ウルは全身汗でびっしょり。相当な体力と気力を消費しているはずだ。
「あやつもなかなか粘るな。」
ジグが段々と焦れてきた。
「そろそろウルの体力も限界だ。助けに入る準備はしておいてくれ。」
「はい。」
俺は気を引き締める。危ないと思ったら躊躇しちゃいけない。
…
始めてから一時間は経ったか、段々とふらつく場面が増えてきた。
ウルも頑張ってはいるが中々上手くいかないようだ。
こっからでは状況がよく掴めないけど、
群れのリーダーが近くにいるからかも知れないな。
と、その時、ウルの膝か折れ前のめりに倒れた。
と、同時に馬も動きを見せる
「ウル!」
ウルの手が上がり、こちらに待ったを掛ける。
どうやらウルが倒れないように、馬が鼻先を貸してくれたようだ。
ゆっくりと優しく撫でるウル。
「ありがと、やっぱりあなたは群れで一番優しいみたいね。」
数十頭いる馬の中からウルは一番大人しい馬を瞬時に選び
テイムすることを決めたのだ。
ウルはこっちを向くと覚束ない足取りで立ち、
満面の笑みで拳を高く挙げた。
「やりました、魔王様…。」
「おめでとう、ウル。」
「ちょっと、疲れました。
でも、魔王様のお陰で緊張が解けたので、
リラックスしてテイムに集中できました。」
ふらつくウルをジグが支える。
「ジグもありがとう。」
ジグは首を曲げウルにすり付ける。
「魔王様。聞いてください!
私今のテイムに成功してたくさんスキル覚えたんですよ!
従属に懐柔に威圧に挑発に包容に魅了に叱責に。」
どうやらウルは強敵をテイムすることで急激に成長したようだ。
「うんうん、嬉しいのは分かったから今は体を少し休めて。
はい、クローン特製のポーションだよ。」
無限収納からポーションの瓶を取り出しウルに渡す。
「ありがとうございます。」
「一気に飲むと大変なことになるから少しだけだよ。」
「はい?」
ウルが手に持っていたのは滋養強壮よろしく、
ファイト一発!した、空の瓶だった…。
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ヒトシの冒険も溜ってた分を更新したのでよかったら、見てみてください。




