第86話 黒くてデカくて違うヤツ
スレイプニルだと思って連れて帰った馬が
スレイプニルではなかった訳で。
バリアントホース
…巨躯に強靭な筋肉を持ち、
強脚で地を蹴り鋭い牙で噛み付き獲物を仕留める。
森の絶対王者。見た目通りの狂暴さで
気性の荒い危険な魔馬である。
あー、何か別な凄いの連れて来ちゃった?
こいつで、テイムいけるかな?何か無理な気がしてきた。
「やって、見る?」
「やります!」
「だよねーいきなりこんなの無理だよね。
え、やるの?!これだよ?」
俺は後ろに黙って立つ黒くてデカい馬を指さす。
「はい、頑張ってみます!」
ウルは凄いやる気を漲らせている。
「え、じゃ、じゃあ、どうする?」
「そこに伏せさせてもらってもいいですか?」
「分かった。ひれ伏せ…。」
巨大馬はゆっくりと静かに膝を折り伏せた。
「ふふ。魔王様すごいですね。
こんなに大きな馬を簡単に、手なずけてる。」
「いやこれは単なる支配のスキルだよ。
支配を解けばきっと襲いかかってくると思うよ。」
「そうなんですね。じゃあ気を引き締めていかないと。」
「うん、まあ危なくなったらすぐに止めるから。」
「はい、もしもの時はお願いします。」
「じゃあ支配を解くよ。」
支配を解くと、巨大馬は緊張が解けたのか大きくため息をついた。
こちらを一瞥するとウルに鼻先を向ける。
「よしよし、いい子ね。」
鼻の頭を撫でられ、気持ち良さそうに目を細める巨大馬。
そして、再びこちらを一瞥する。
「私を背中に乗せてくれる?」
優しく語り掛けるウル。
馬はゆっくりと立ち上がり、
バキッ!
馬の後方で木が根元から折れる音がした。
「なんだ馬の尻尾か。」
…まずいっ!
バグンッ!
さっきからこっちをチラチラ見てたのは隙を伺ってたからか!
さっきの支配の仕返しか?!やられた!
ウルはまだ助かるか?!早く助けないと!
「くそ、こんな危険なとこに連れてきたから…。」
…ダメだ焦って思考がまとまらない!
「とにかくこいつを…、」
パンッ!
炸裂音と共に、巨大馬の黒い頭が弾け飛んだ。
その勢いのまま轟音と共に沈む頭無し馬。
横たわる馬の傍らには銀色の毛並みが輝くスラリとした馬と、
その背に必死にしがみつくウルの姿があった。
やがて輝きが収まると、銀色は灰色の毛並みに変わった。
ウルに降りるように促しこちらに歩き出した。
体長は2メートルにも満たないこの馬が
巨大馬の頭を吹き飛ばしたのか?
まだ子供のようだけど…。
何か言いたそうにこっちを見ている。
仲間になりたいのかな?
「ジグでしょ?ねえ、ジグなんでしょ?」
灰色馬の隣を歩いていたウルが話し掛け始めた。
「やっぱり!どうして?」
…
「うん、いつも一緒だって…。憶えてるよ。」
…
「うん、無事王都までたどり着いたよ!」
馬は喋っていない様だけど…。
「ウル、知り合い?」
「はい、さっき話していた馬たちのリーダーのジグです。」
「え、でもこの子、まだ子供だよね。しかも、魔物の。」
「でも間違いありません。
姿は変わってもジグの強くて優しい心を感じます。」
ウルは何の迷いもなくそう言い切る。
そして俺を睨み付けるジグ。
「待って、それは違うの。私がダメだから…。」
ウルはまたジグと話し始めた。
会話できないと不便だな。
これはスキルで何とかならないだろうか。
獣語とか?いや、そもそもジグは喋ってないしな。
全く話が掴めないのでウルに説明してもらう事にした。
まず、「ウルをこんな危険な目に遭わせるとはどう言うことだ」と。
すいません…。こんな予定じゃなかったんで…。
じゃ済まないよねこれは。反省します、助けてくれてありがとう。
話の内容はこうだ。
ジグは引き渡されウルと別れる時に魂の欠片をウルに預けた。
そのあとすぐに死んだけど魂は欠片を探して彷徨いウルの元へ戻った。
ウルの中に入り力を与え瀕死の状態からは回復させたが、
ジグの魂は力を失いウルの中で眠りについた。
しかし、二つ目の魂を抱えたウルにかかる負担は大きく、
体は二つの魂を維持する事にエネルギーを使っていた為
本来の力の半分も出せなくなっていた。
ウルの能力が低いのはそのせいだった。
ウルのレベルアップにより何とか目覚めることに成功し、
ウルの危機を感じ子馬に魂を移し助け出すことに成功した。
子馬はダンジョンから迷い出てきた魔物で、
ダンジョンの魔物は魂を持たないので魂を移す事は簡単だそうだ。
「そもそもジグは何者なの?
魂を移すとか、普通の馬にそんな能力はないでしょ?」
「獣神。昔はそう呼ばれていたそうです。
獣に宿りその獣に力を与える存在で、
宿った獣は聖獣として人々に崇められていたそうです。
でもいつしか信仰は失われ、力を失い彷徨い歩いていた所、
生まれたばかりの私に引き寄せられるように
そこの家の飼い馬に乗り移ったそうです。」
「テイマーの資質ってそんなに凄いの?」
「どうなんでしょう…。」
…
「あ、私の資質はテイマーじゃなくて「獣神の巫女」だそうです。」
何かまた凄いの来たよ。
獣神の巫女
…獣神の意思の代弁者。
獣神の力を得て力を振るい、
また獣神の意思の代弁者として啓示を行う。
獣神と巫女は一心同体の存在。
ウルが辺りをキョロキョロし始めた。
「どうかした?」
「今声が…。獣神の巫女が解放されましたって…。」
「スキル憶えたのかな?それとも、称号?」
「いえ、ステータスには「資質」ってなってます。」
「資質、解放。眠っていた資質が目覚めたってことになるのかな?
すごいよ。テイマー以上の資質じゃないか。」
「でも私なんかが、こんな資質扱い切れない…。」
「でもジグの話だと獣神の魂から解放されて、
本来の力が戻ったっんじゃないかな。」
「本来の力…、でも私戦いはやっぱり。」
「ほら、戦いは任せろっていってるよ。」
ジグは足を蹴りあげ鼻息を荒くしていた。
そして、ウルの股の下に首を通し再びウルを背に乗せた。
「俺がウルの力だって。俺がついてるって。」
「フフ、魔王様にもジグの声が聞こえてるんですね。」
「いや、そんな風に見えただけだよ。」
「そうなんですね。大体合ってましたよ。
…ただジグは女の子ですけどね。」
ジグの方を見ると、フンと鼻息をひとつ。
そっぽを向かれた。
『獣神の加護を獲得しました。』
そしていきなり獣神の加護を獲得しました。
あれ?以外とツンデレさんかもしれない。




