第85話 ウルの過去
「えっと、私たちなんで森の中にいるんですか?
今スラムの地下にいたのに…。」
いきなり場所が変わったのでウルは辺りを見回しながらかなり狼狽えている。
「これも、魔王様の能力なんですか?」
「うーん、魔王様の能力の能力かな。」
???
頭の中はハテナ?だらけだ。ですよねー。
「クローンの能力だよ。」
「クローン…。あの白い使い魔ですね。」
「使い魔とも少し違うんだけどね。
それはいいとして、ウルをここに連れてきたのは
スレイプニルを手懐けるためです。」
「ス、スレイプニル?!無、無理ですよー!」
「ウルちゃんはまだテイマーのスキルは習得してないんだよね。」
「はい、まだです。すいません。」
「いいのいいの。」
「でも、お父さんもお母さんもお前には資質があるからって。」
「君の両親は?」
「二人とも病気で寝たきりです。」
「そうか、それで君が…。」
「あ、でも魔王様のお陰で、住む家も貰えて、
ゆっくり休ませてあげられてます。」
そういうとウルは、白い歯を見せ優しく笑った。
すべてを包み込むような笑顔。
包み込まれると敵意を削がれ好意に変わる。
動物たちは、それを敏感に感じ取り警戒を解くのだろう。
「よかったらウルの今までの話を聞かせてもらえないかな?」
「私の、ですか?」
「うん。」
「あんまり、いい話じゃないですよ。」
そういうと、ウルはゆっくりと語りだした。
「私が小さい頃うちの両親は小さな村の外れで
馬を育てる仕事をしていました。
私は物心つく前から馬の背の上が大好きだったそうです。
気性が荒くて手がつけられない馬も私を見ると、
急に大人しくなって私が飽きるまで
黙って背に乗せていてくれたそうです。」
「資質ってそういうことか。」
「はい。でも私が6才の時、
村は魔物の群れに襲われ壊滅しました。
近くの村を回り、受け入れてくれる場所を探しましたが、
どこの村も冒険者不況で余裕がなく、
仕方なく王都を目指しました。
途中の村で何度か馬を売り
食料を調達しながら長い旅を続けました。
王都への道のりを半分ほど過ぎた頃、
峠の中腹で山賊の待ち伏せに合い、
馬を全て盗られてしまいました。
お父さんが「なんとか荷を運ぶ馬だけは」とお願いして、
一頭だけ残してもらいました。
あと残されたのは、旅の途中で魔物に襲われて怪我をした馬数頭でした。
馬を失い旅はさらに過酷なものになりました。
幼い私には余計に厳しい環境で、よく体調を崩したそうです。
あまり覚えていませんが。
その為、旅の荷物を売り薬草を手に入れていたので、
積み荷もどんどん減っていきました。
怪我をした馬たちも傷の手当てもしてやれず、
一頭また一頭と歩けなくなりその度に私達の生きる糧になりました。
馬たちもそれをわかってくれて、大人しく従っていました。
今でもその時の優しさと悲しみのこもった目が忘れられません。
旅の終盤、ついに食料も尽き、
沢水のみでなんとか生き長らえて旅を続けていたそうです。
その頃私は栄養失調で常に意識がほとんど無く、
危険な状態だったそうです。
近くの村に立ち寄り、食料を分けて貰おうにも
どこも食料不足でそんな余裕はなかったと言います。
しかしある村で馬を譲ってくれるならと、
食料と馬の交換を持ちかけられたそうです。
父は私のために最後のその馬を売りました。
気性が荒く、「誰にも懐つかないから」と、
山賊から返してもらった子でした。
でもこの旅では怪我した馬たちをまとめあげ、
リーダーとしてみんなを導いてくれました。
何よりも、私をずっと背に乗せて、
守るように運んでくれていたんです。
意識の無いはずの私は引き渡されるその子にしがみついて
離れなかったそうです。
でも、その子が鼻先で優しく私の背中をさすって言ったんです。
「離れても一緒だよ」って。
意識なかったはずなのに、おかしいですよね。
きっと夢だったんだと思います。」
「そっか、それで無事に王都に着けたんだね。
はい、今私たちが生きているのは、
あの子達のお陰なんです。
だから精一杯頑張って生きなきゃいけないんです。
でも私何をやってもダメで。」
「そんなこと無いと思うよ。
きっとウルにも得意なことがあるはずだよ。
俺がスレイプニル捕まえてくるから、
とにかくやってみよう。」
「は、はい…。」
さっきの話を聞いてる感じだと本人には自覚無いみたいだけど、
動物たちの気持ちを理解して手懐ける能力があるんじゃないかな?
俺は森の中に足を踏み入れた。
森の加護があるからスレイプニルはすぐに見つかった。
「おお、こいつか…。でかいでかい。」
黒くて毛艶のよい巨大な馬だ。
スレイプニルはなにかを食べているようだった。
「狼を食ってる。体長3メートルはあるかな。
こっちも普通の狼から比べたら
巨大狼って言えるくらいのデカさだけど、
スレイプニルに比べたら全然小さいな。」
巨大な馬が牙を突き立て狼を食らう!と言う光景に唖然としていると。
こっちに気づいた!
ゆっくりと首をあげ、こちらに近づいてくる。
近くでみると盛り上がった胸筋と、
強靭そうな脚がすごい迫力だな。
やっぱりあの巨大馬車を引くにはこれくらいの巨体が必要か。
支配発動…。
「よし動かなくなったな。ごめんね食事の邪魔して。
あとでたくさん餌あげるからね。」
そのまま森の入り口まで誘導する。
俺の後ろを黙ってついてくるデカい馬。
支配が効いているとはいえ、威圧感が凄いです。
緊張します。
そしてウルの居る場所まで戻ってきた。
「こ、この馬は?」
「え、スレイプニルだけど?」
「聞いた話だと、スレイプニルは綺麗な灰色毛の馬のはずですし、
もっとスマートなはずです…。」
確かに、胸筋バキバキでスマートとは言えないですけど…。
えー、…じゃあこの子だれ?




