第81話 悪魔の黒騎士団
馬車職人バフルさんが去った後現れた黒い甲冑の一団は
威圧的な声で語り掛けてきた。
「魔王、ヒトシだな。
国王の目の届く所で堂々と歩き回るとは舐められたものだな。」
「あなた方は?」
「王国第1軍1番隊、黒騎士だ。
国王陛下の命だ。王城まで来て貰おう。」
国王命令か。
そりゃこれだけ堂々と活動してたら目に余るよね。
よし、ここは魔王っぽい感じで行こう。
「ほう…、魔王である我に命令するとは、
…命が惜しくないらしいな。
…ごごごごごごごごぉぉぉ!
と、言ってみるテスト。」
やっぱり無理、効果音自分で言っちゃったしね!
「ふ、ふざけたことを!」
黒騎士さん、声が裏返ってますよ。
それなりに効果的だったみたい。
「どけ…。」
黒い甲冑の男を押し退けて現れたのは、
おお、これまた黒い甲冑の強そうな雰囲気の大男だ。
「断れば、我らはここで暖を取ることになる。
丁度よく燃えそうな焚き木もあるしな…。」
スラムの木造長屋を一瞥し、男は続ける。
「絶叫と悲鳴を肴に、篝火に照らされた血と臓物の饗宴。
と言うのも悪くないか…。」
なんかさ、この人の方が魔王っぽくない?
いいよいいよ、その悪者感の半端無さ。
よかったら譲りますけど、魔王。
「いいですね宴会。じゃあ王城でやりましょうそれ。
俺はオーク肉出しますよ。お酒の用意をして待ってて下さいね。」
「ふん、腰抜けが。もう少し骨のあるやつかと思ったが、
貴様らは、こんなヤツに何をビビるってんだ?
もう用は無い、さっさと帰るぞ。」
大男は踵を返し歩き出した。
「そういえばここに来る途中に
いい声で哭きそうなメスをスラムで何匹か見かけた。
捕まえて帰って今夜の晩の楽しみにするぞ。」
「でもよ隊長、スラムの女共はクセぇからな、
ひん剥いて俺の舌でキレイにしてやらねぇと。」
「かかっ、相変わらずきたねぇ趣味だな!
お前の舐めくり回した女なんか俺に回すなよ!
俺は、そのままぶち込むのがいいんだからよ!」
「そりゃ俺と大して変わらねぇじゃねぇか!」
「そうか?そうだな!」
「「がはは!」」
「み、みんなぁ。オ、オイラにはぁ引きちぎった耳たぶをくれよぉ。
後、女の子ぉ。小さな女の子がいい。」
「だまれ豚が。でしゃばるな。
お前は食い散らかすから餌は最後だ。さあ、狩りの時間だ。」
「待てよ。」
異様な気配を感じ振り返る大男。
「ヴォルフガングに伝えろ…。
こんなクソ共をスラムに二度と近づけるな。
それから王城で待っていろ、とな。」
最後はドスの利いた声に、満面のスマイル。
「ひっ!」
あー、大男さん。甲冑の隙間からホカホカの液体が漏れてますよ。
「王城への急なお誘いが入ってしまったので
予定が詰まって忙しいんでもう行きますね。
それから、真っ直ぐ帰ってくださいよ。それじゃ。」
俺は黒い一団に背を向け歩き出した。
「殺れ!スラム毎燃やし尽くせ!」
背後から大男の怒号が聞こえた。
と同時に俺とスラムへ向けて放たれる無数のフレイムランス。
「断空…。」
一瞬のうちに掻き消える燃え盛る槍。
黒騎士たちは驚きの声を上げるが、音は無い。
寒いのか暑いのか、体が沸騰し凍り付き干乾びる。
真空の中で黒く輝く甲冑はその醜悪な中身を隠すように
以前の姿のまま存在していた…。
独り言を呟くような呪文は彼らに届いていたのだろうか。
…
俺はこの日、初めて殺意をもって人を殺した。
そこにあるのは人の命を玩具のように弄ぶ者への怒りだけだった。
後悔は、一欠片もなかった。
『殺人数がカウントされました。 殺人数 17』
これは、魔王の方のシステムだな。
このカウントになんの意味があるのかはわからないけど、
まるでゲームのアナウンスのようで、感傷的にはなれなかった。
「ふう、これこのままにはしておけないよね。」
俺は死体を無限収納にしまった。
「こんなこと平気でできちゃうなんて。俺、いかれちゃったのかな?」
あれ?やっぱり少しは感傷的になってるのかも。
いやいや、スラムは守ったし、やることやって王城に乗り込むぞこのやろう。
そういえば、カウント17なのに死体は19体。
死んでないヤツがいる?
いや、全員死亡状態だ。
…これか。グレーターデーモン。
大男と大男に豚と呼ばれていた男だ。
どうやら悪魔はカウントされないらしい。
こいつらが兵を煽動して暴挙を働いていたんだな。
ヴォルフガングの使い魔か。本当にクソ野郎だな。
何でそんな奴らに魔王認定されなきゃならないんだよ。
なんだか今さらだけど無性に腹が立ってきた。
それよりも今はやることをやらなくては。
車庫の裏にさらに巨大な倉庫を作り
車庫から直接荷降ろし積込が出来るようにして、と。
その下に同じくらいの地下空間を作ろう。
倉庫と地下空間はあっという間に完成した。
次は車庫の反対側を掘り下げて、
さらに車庫を作り倉庫を二層構造にする。
素材の運搬に必要なものは輸送路と馬と御者だな。
まずは御者の募集か。
張り紙や、宣伝して回ってもいいんだけども。
もっと便利なモノが最近使えるようになったのだ。
これはあれの出番ですな。
魔王コマンド「布告」。
普通は、布告と言えば宣戦布告だよね。
「我が魔王軍はペンレシア王国に侵攻を開始する!」的な
ザ・魔王様って感じで使うんだろうけど。
いやはや、物は使いようですね。
「布告」を選択して、効果範囲をスラムに限定して、
『皆さん、突然すいません。魔王に就任してしまったヒトシです。』
ワァー…!
スラムの方で歓声のような音が聞こえた。
何かイベント中だったかな?
邪魔しちゃ悪いから手短にね。
『えーと、忙しいところすいません。
すぐ済みますので聞いてください。』
あ、シーンとなった。皆聞いてくれてるのかな?
『皆さんの中で、御者の経験のある方。
テイマーのスキルを持っている方。またどちらにも興味がある方。
馬車を無料でお貸ししますので、運送のお仕事始めてみませんか?
また未経験の方も、スキル開発からお手伝いをします。
お気軽に王都西スラムの外れの四角い建物に
受付がありますのでお気軽にお訪ね下さい。』
オォー…!ヒトシ…!ヒトシ…!
スラムから聞こえる割れんばかりのヒトシコールに困惑気味ですよ。
ヒトシコールは暫く鳴り止まなかった。
「よし、受け付けにクローンをセットして。
じゃ、ちょっと王城まで行ってくるから。
申し込み者が来たら対応宜しく。」
「かしこまりました。お気を付けて行ってらっしゃいませマスター。」
俺はクローンに見送られて王城へと向かった。
そういえば王様にあったこと無いし、いい機会かもな。
お望み通り魔王ヒトシとして、会いに行ってやるよ。
俺はその時醜悪な笑みを浮かべていたと思う。たぶん。




