第72話 魔王集結 前編
「我が名はライム。ライム王子だ。」
一番最初に現れたプニチビ魔王はそう名乗った。
「魔王様ですよね?」
「いかにも。同胞の恨みはやがて鋭い牙となり貴様を食い殺す!」
うん、さっきも聞いたよ。
「新魔王のヒトシです。よろしくお願いします。」
俺は右手を前に差し出した。
「ふん。よかろう。」
ぬっと差し出された手と、ガッチリ握手。
ぷにすべだー、きもちよかー。
すりすり…。ぷにぷに…。
「や、やめぬか。気色の悪い男だ!
同胞の恨みはやがて鋭い牙となり貴様を食い殺す!」
うん、三回目だね。流行らせたいの?
「すいません、気持ちよかったのでつい。」
「ま、まあ、当然だ。それなら仕方あるまい。」
あ、ちょっと照れてる。
「どうやら我が一番乗りだな!」
「はい。皆さんすぐに集まるのでしょうか?」
「さあな。我の時は最後の魔王が訪れたのは3年後だったかな。」
「さ、3年?!」
「ちょうど勇者に封印された頃で
慌てて封印を解いて駆けつけてくれたのだ。」
頑張れば封印って早く解けるんだ。
「魔王は忙しいからな。
征服したり、災厄したり、討伐されたり封印されたり。」
討伐と封印が日課みたいに聞こえるけど…。
不安です。ものすごく不安です。
「にしても、お前は強そうに見えんな。」
「あ、ええ、あんまり強くはないかもです。」
「ふふん、だろう。
ま、そのうち魔王としての自覚と威厳もでてくるだろう。」
「ほう、いつからそんな立派なことが
言えるようになった?下っ端魔王。」
「ぐぬ、誰が下っ端だ!げ!?黒の魔王!」
両頬を引っ張られて顔が横に延びている。
「やへれ!それはやへれくらはい!」
「あなたは…。」
「まさかこんなにすぐに再会することになるとはな。
しかも、魔王としてな。」
「この前は助かりました。」
そう、黒の魔王。
その名の通り肌も髪も目も口も全身真っ黒な男。
俺のドッペル回収作戦を中断させドッペルを連れ去った男だ。
「助かったとは、俺はお前のドッペルを連れ去ったのだぞ。
それとも、すでに意味を理解したか?」
「はい。」
「そうか…。やはり、魔王に認定されるだけのことはあるようだな。
そして、ドッペルのことだが…。」
「好きに使ってください。
野放しにしないのなら、どう使ってもらっても構いません。」
「わかった。そうさせてもらう。」
「なんだなんだずるいぞ二人だけで。我にも何かくれよ。」
「何かって言われてもなぁ。」
また空間が歪む。
次に姿を表したのは妖艶なお姉さんだった。
出た、お色気担当!
セクシーダイナマイトだ。
そしてなぜそんなに布面積が少ない。
いや、鎧面積か。
もはや膨らみの先端と大事な部分に
金属製の黒い羽の防具が張り付いてるだけですよ。
いくら硬度のある素材を使っても
その被覆面積じゃ防御力は皆無ですね。
嬉しい限りです。
「…何かしら、その待ってました!
みたいな反応は。
お待ち頂いてたところ悪いのですけど、
…私、男性には興味がないの。」
そうか百合か!
「ちょっと、来ました大好物!
みたいな反応もやめて…。」
全て顔に出てしまっていたようだ。
「すいません。悪意はないので、許してください。」
「好意も要らないわよ。」
ツンデレさんかしら?
「残念ながらデレはないわよ。」
「ナゼワカル。すべてを見透かされているのか?!」
「だって、いちいち顔に書いてあるもの。」
そうか。不味い不味い、ここはとにかくスマイルだ。
俺は最大限の笑顔を彼女に向けた。
…すると、ライム王子がうろたえた。
「お、お前!何者だ?本当に人間か?」
「いや、魔王になるだけの男だ。
やはり本性を隠していたのだろう。」
黒の魔王が返す。
魔王二人の反応がおかしい。
そしてお姉さんも、びくっとなって固まっているし。
え、ショックなんですけど。
と思ったら、突然跪いて
「私、アークデーモンのリリスと申します。
よろしければ、リリーとお呼びください。
このように下賤な悪魔ではごさいますが、
以後お見知りおきを。」
あれ、お色気お姉さんの様子がおかしい。
顔は上気し唇はしっとりと濡れ、瞳は潤んでいた。
何があったのお姉さん…。
「あの、リリーさん?」
「はい、魔王様。」
やけに艶っぽい声で上目使いで返事をくれた。
ズキュンですよ、お色気お姉さん。
跪かれるとまるで全裸です。
元々ほぼ全裸ですけど。
でも魔王様って、あなたも魔王様でしょ?
「何かありました?」
「申し訳ございません。何かとは、どのような?」
「いや、急に態度が変わるから。」
「いやですわ、本性をお隠しになられていたなんて、
その表情ひとつで理解しましたわ。
わざわざ隠さずとも、もっと堂々としていてほしいものですわ。
…はっ、申し訳ございません、口答えなど。
どうかこの私めに罰をお与え下さい。
罰と言う甘美な苦痛を。
ああ、甘美では罰になり得ません。
死の、…そう死の苦痛をお与え下さい。
私は貴方に忠誠を誓い、
下僕として死ねるなら本望です。
いえ、私ごときの死にヒトシ様の手を煩わせるなど…。
でも、自分の手で死を迎えたのでは
ヒトシ様に捧げる魂が。
あぁ、私はどうすれば…。」
…あの、デレない宣言してましたよね今。
デレてますよ。むしろヤンデレてますよ。
暴走ヤンデレ魔王ですよ?
悪魔ってみんな忠誠誓いたがるよね…。
「リリーさん。落ち着いてください。
さっき男に興味ないって言ってましたよね。」
「はっ…。申し訳ございません。お見苦しいところを…。
その件についてですが、
ヒトシ様は男女の垣根など既に越えた尊き存在。
そんな小さな問題など失笑ものですわ。
最強の魔王様に使えることこそ、
悪魔の至上の喜びと今日知りました。」
「いや、俺悪魔じゃないですからね…。」
「そんなはずは、いえ例えそうだとしても
そんなことは関係ありませんわ。」
「ひひひ、今度の魔王はよっぽどの女たらしと見える。」
気がつくと、円卓の椅子に腰かけた
老婆がこちらの様子をうかがっていた。
宵闇色のガウンをまとい、銀河をあしらったような三角帽、
深淵を縁取るような首飾りに、不可視だが確かに存在する杖。
しわがれた声には、恐ろしいほどの魔力が込められていた。
「バハア、我が主を愚弄するか?」
リリーさん…、さっきと全然声が違うんですけど。
立ち上がる老婆。
「色欲の魔王が獣のように発情しておるわ。
恐ろしいねぇ。ひひひ。」
なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「あ、あの、あなたも魔王様ですか?」
老婆は話しながらこちらに歩み寄ってくる。
「ああ、そうさ。西の大魔女、
魔導女帝ヨギ・ドルイドだよ。
あんたと同じく元人間さ。」
「元・ですか。」
「魔王と呼ばれた時点であたしらは
人間でなくなったのさ。
この不老の体でね。」
「魔結晶の不老の効果ですよね。」
「ほう、若いのにずいぶんと、詳しいんだね。」
「あの、ヒトシ様。私のことは…?」
「ああそうだった、ごめんなさい。」
「人の話に割って入るとは、ずいぶんな下僕だね。」
「黙れババア、私が先に話していたのだ!」
だからリリーさん変わり過ぎ…。
「なんだいその口の利き方は、年寄りは敬うもんだよ。」
「ぬかせ人間風情が年ならば私の方が何倍も上だ!」
「ほうほう、それじゃあ、お前さんの方がババアということだね。」
「いいおったな?その醜い容姿で私をババア呼ばわりか?」
「ほう、この姿が本来の姿に見えるか?この節穴が!」
「どうやら命が惜しくないようだな。」
「それはこちらの台詞だよ。」
やめてー、新築ダンジョンで喧嘩しないでー。
「まあまあまあまあ、お二人とも、
席に座ってまずは落ち着いてください。」
ふう、魔王同士の喧嘩とかマジで洒落にならないから。
あと二人くるんだよね。大丈夫かな?
ものすごく不安です。




