第71話 俺の魔王城
俺はやっと魔王様になった。
やっと…?
何でだ?
とにかく、世界評議会とか言う王様達が集まる会議で
魔王にされてしまったわけですが。
悲壮感はないようです。
何故って、魔王になってからすぐに、
宣誓しろとだの、やれダンジョン作れだの、
やれ謎の魔王システムがどうだこうだだの、
やれ他の魔王集めて挨拶しろだの。
いきなり忙しすぎませんか?
感傷的になったり、激怒したり、戸惑ったりしたいのに。
別の意味で戸惑ってるわ、今。
ていうか、この世界での魔王の立場ってなんなの?
世界に向かって宣誓させられたり。
ダンジョン作らされたり、
…ダンジョン作りはやってもいいけど。
皆そんなもんなの?
『魔王様達を招くために会議室を作ることをお勧めします。』
そうだよね。
まさか、スライムの巣に魔王様達を招くわけにはいかないよね。
俺は手に握られた透明な魔結晶を見つめた。
「これが俺専用のダンジョン。」
冒険者の時に見たゴブリンダンジョンの魔結晶より大きく、
オークのダンジョン魔結晶より少し小さい。
『ほう、それは純粋な魔結晶。
それがお主の願望を叶えてくれよう。』
俺の、願望かぁ。
こっちの世界に来てクローン作ったり冒険したり、
いろんな人に会ったな。
俺は俺が出会ってきた人達が大好きだ。
皆一生懸命に自分の世界で自分の役目を果たそうと生きてる。
そうだ、俺はそんな皆の役に立ちたい、
大好きな人たちが笑って幸せに暮らせる世界にしたい。
その為には、おれ自身も強くならなきゃいけないし、
色々と準備をしなくちゃいけない。
いろんなものを揃えなきゃいけないないな。
『難しい話ではあるまい。お主ののぞむままじゃ。
素直になればよい。』
「そうですね。難しく考えることはないのかもしれない。」
肩肘張らずに、そのまま自然にした方が案外うまくいくかもしれない。
あ、…そうだった、今は会議室を作るのが先だった。
魔王様達を迎えるための。
うーん、和やかな感じにしたいよね。
見張らし良く、解放間がある感じで。
自然の中がいいよね。気持ちいいし。
自然と肩の力も抜けて、会議も和やかに進むように。
俺の感情と共に魔力が流れ込んでいく。
緑色の優しい魔力。
これはドリさんにもらった森の加護の力だな。
真っ暗なダンジョンの中に空が開ける。
空だけじゃない。
眼下にはだだっ広い緑の森が地平の果てまで広がっていく。
どこまでも、どこまでも。
その森の中心に巨大な木が。
世界樹よりも高くそびえる大樹。
その頂上付近。
大樹の上に平らな広い床がある。
雲が目線の高さをゆったりと流れていく…。
大木の一枚板でできた20人は座れるであろう円卓に、
木で出来た暖かみのある色味のシンプルな椅子。
「…いいわ、ここ。
こんな所に住めたら嫌なこと全部忘れて、幸せに暮らせそう。」
あ、俺の理想を再現したのか。
こりゃ、ダンジョンから出たくなくなるわ。
しばらくボーッとしていると、
床の縁に紫色の粘液が這い上がってきた。
『ほうほう、こりゃすごい。』
「あ、スライムお爺。」
あ、いつも心の中で呼んでる名前で呼んじゃった。
『ほほほ、お爺か。こりゃまたいい。』
でもなんだか気に入ってくれたみたい。
「どうやってここへ?」
『お主が空間の裂け目に吸い込まれて行ったのでな。
その裂け目を通って、後を追って来たんじゃ。
まさかワシのダンジョンの中にさらにダンジョンを生成するとはの。
正に常識破りじゃわい。』
「そういうつもりはなかったんですけど。
魔王様達を招待するのに
会議室があった方がいいって事で急遽ですね…。」
俺は勝手に不味い事をしたと思って必死に言い訳をした。
『わかっておる。別に怒ってなどおらんよ。
ただダンジョンの奥に作ったダンジョンなど聞いた事が無いのでな。
まあ不便なら別の場所に繋ぎ直せばよい。』
「そんなこともできるんですね。」
『ああ、ダンジョンの成り立ちに関する特別な事情がない限りはな。』
「確かに、考えてみれば
ダンジョンの中のダンジョンなんて不便極まりない。」
「でも繋ぎ直せるならとりあえず一安心だ。よかった。
この考え無しに行動するのは俺の悪い癖だ。
悪い癖はすぐに治すようにしないと…。」
『良いのではないか?面白いものも見れたしの。
それにこの景色じゃ。
不思議なもんじゃな。
洞窟のような暗くてじめじめした場所が
わしらに適した場所だと思って
誰にも知られずこっそりしておったが。
まさか引きこもりスライムに
こんな素晴らしい景色を見せてくれようとは。
なんとも雄大な風景よ。
自分の存在がいかに小さいかよく分かる。
悩みなど空に溶けて流れていくようじゃわい。』
お爺は大樹の上からの景色を見渡し
しばらくふるふる震えていた。
「今のところは繋ぎ直す必要もないんで、
しばらくはそのまま繋げておきます。
いつでも来てください。」
『そうかそうか、ほほほ。』
お爺は嬉しそうに笑っていた。
『さて、今日のところは魔王どもが来る前に、おいとましようかの。』
さっきも「最近の若いもんは…」的な感じで
魔王達の事を話していたけど、
顔見知りなのだろうか?
「魔王様達と知り合いなんですか?」
『ほほほ、それは秘密じゃ。』
なぜか秘密にされた。
『いずれわかることじゃ。それじゃあの。
今日はよい日じゃった。ほほほほ…』
スライムお爺は会議室の床の縁に立つと、スルリと姿を消した。
自分で作ったダンジョンだけど、構造が全く不明だ。
あとでクローン達と探検だ!
それに生命力ソースも、魔力ストレージも空っぽだ。
まだ溜まり始める様子がないと言うことは
今もまだ生成中なんだろうか。
会議室の隅、空間が黒く歪む。
黒い歪みが姿を消すと
そこにはもち肌ほっぺの小さくて可愛らしいぷっくり王子が現れた。
するといきなり、
「同胞の恨みはやがて鋭い牙となり貴様を食い殺す!」
?!
早速物騒なことを言われた。
やっぱり魔王。一癖ありそうな感じです。




