第66話 死霊術士ジーノ
ジーノさんは俺を強大な理解者と言っていたけど、
そんなことは全然ない。
俺には理念もなければ目標も特にない。
力を持っていても、使い道がなかったり、
使い方を知らなければ無いのと一緒だ。
逆に持て余して人を傷つけるかもしれない。
俺に言わせればジーノさんの方がよっぽど偉大だ。
誰に評価されることなく、
誰に見られることなくとも
ただ黙々と自分の信念を貫き継続してきたのだ。
そして、前王はおそらくよき理解者だったのだろう。
ジーノさんは前国王に仕え、
失い、今の傾いた国を憂いているんだ。
「この国を救ってくれなどと、大それたことは言わない。
ただラウラ…、今はレイだったな。
彼女を守ってくれ。
いや、既に一人でも身を守れるほどの力はあるか。
それでも、頼んだぞ。」
「はい。
ジーノさんはこれからどちらに?」
「ひとまずレイを救うと言う目的は果たされたからな。
王国との伝も失ってしまったし。
しばらくは来るときに備えて味方を集めたい。」
「味方を増やす?」
「そう。迷える死霊たちを救い、協力を得る。
そして魔力を集め、成長させるのだ。」
「今はどれくらいの仲間が?」
「7人ほどいる。」
「その死霊集めと成長。協力できるかもしれません。」
「なに?それはどういう。」
「ガルガドの麓にドラゴンの巣と、
古代遺跡と、鉱山跡を見つけたんです。」
「なんと、あのガルガドを探索しているのか?」
「麓だけですけどね。」
「何を言うか。
あそこにはドラゴンが群れを成して棲んでいる。
それの相手をしながら探索など、容易ではないぞ。
よりにもよって巣まで発見するとは。」
「ドラゴンの来る方向に向かって行ったらあったみたいですよ。
たぶん一番簡単に見つかったんじゃないかな。」
「ははは、ドラゴンの巣を一番簡単とはな。
レイよ、お前の主は恐ろしい男だな。」
「こんなんですけどね。」
「しかし、そこまで難易度の高いダンジョン、
残念ながら私では力不足だ。」
「それなんですけど、
死霊たちと血肉の契約を結んでるんですよね。
つまり、死霊達に生命力を送ってるんですよね。」
「ああ、その通りだ。」
「逆の契約ってないんですか?」
「逆とは。死者達から生命力を貰うのか?」
「いえ、魔力の方を貰うんです。」
「魔力…。どう言う事だ?」
「「成長点」知ってますよね。
それって、実は魔力に起因してるって事、知ってますか?」
「いや、初耳だ。」
「つまり死霊たちが集めた魔力を貰う事が出来れば、
成長点を超えることが出来ると思うんです。」
「授肉の契約か。…確か魔族の書物で読んだことがある。
配下の体に自らの肉体の一部を埋め込み、
配下の血に魔力を含んだ水を混ぜ
それを飲み干すことで契約を結ぶと。
しかし、元は人間と言っても今は既に魔の物。
どのような悪影響があるか。」
「確かに。」
考え込む俺とジーノさん。
「ヒトシさん。これ。」
レイちゃんが差し出したのは青く光るリング。
ジーノさんが血肉の契約に使った指に
嵌められていたリングだ。
「ムムッ。」
ジーノさんが驚きの声を上げる。
「これは…、生命力が流れて来ておる。」
ジーノさんの再生された指も同じ様に青く光っていた。
「レイちゃん。これって…。」
レイちゃんが強く頷く。
「これは行けるかもしれない。
レイちゃん魔力は送れないかな?」
「やってみる。」
今度はリングが赤く光り始めた。
そして、ジーノさんの指も。
「レイちゃんストップ。ジーノさん、どうですか?」
「なんともないようだ。」
左指を動かし、何ともないことを確かめる。
「いや、これか…。なんだ?魔力レベル28。
ステータスが6倍に跳ね上がっておる!」
「魔力レベルが現れた?人間にはないはずじゃなかったのか?」
「力が漲る!なんだこれは!
この歳でこんなに活力がみなぎることがあろうとは!
ははは、これは愉快だ!」
魔力で活性化された肉体は80歳を過ぎた老人の姿から、
みるみる若さを取り戻し40代前半にも見えるほどに若返っていた。
「これは、エルフや魔族共が長生きする訳が分かった気がするぞ。」
「死霊達は、7人それぞれに契約の指輪があるんですね?」
「そうだ。」
「じゃあ全員呼び出してみて下さい。」
「分かった。ここでは狭いかの。場所を移そう。」
-王都外れの森の中-
魔方陣が開かれ死霊召喚が行われた。
骸骨戦士から生きる屍、レイス、リッチ。
様々な死霊が7人。
「ではそれぞれジーンさんの体の一部を返してください。
いや、待って。このまま再生しましょう。」
「このままとは、欠損部位をどうやって?」
「さっき全部再生できると言いましたよね。」
ポーションを手渡し、ジーノさんに飲ませる。
指や足先が光り始め、再生を始める。
「なんと言うことだ!正に神薬のごとし!」
「きっとリングより体の一部の方が相性がいいはずだと思ったので。
さ、皆さん。ジーノさんに魔力を送ってみてください。」
それぞれが契約の証を握り、魔力を込め始めると、
ジーノさんの指が赤く光り始める。
「おお、わかるぞ!お前さん達の魔力が流れ込んでくる。」
「はい、もういいですよ。
どうですか?」
「うむ、これなら彼らと共にさらに上を目指せるやも知れん。
死霊術は術者の力量で死霊達の能力も上がる。
これならばドラゴンも仕留められるかも知れんな。
でもなぜこんなことを知っている?」
「ジーノさんはずっと死霊達に生命力を流してきました。
つまり、死霊達の体はジーノさんで出来ているんです。
自分の体から自分の体になら
魔力を取り込んでも何も問題無いって事でしょうかね。」
「ワシの能力も常識外れだとずっと思ってきたが、
さらに常識外れがここにおったわい。」
ジーノさんは長年の付き物が落ちたかのように、
気持ちよく笑い続けた。
きっと自分の行いを信じつつも、やっている事は魂への冒涜。
そんな葛藤を抱えながら生きてきたのだろう。
そんな気持ちを少しでも軽くすることが出来たのなら、
俺も少しは役に立てたのだろうか。
俺たちもそんなジーノさんを見ていたら
可笑しくなってきて一緒に笑った。




