第57話 兎人の村
界樹の苗木から兎人族の村は10分位歩いた場所にあった。
深い深い茂みを抜けると、集落らしき場所が見えてきた。
樹木の根本にかわいらしい丸窓が付いた苔や蔦に覆われた土壁の家がいくつも並んでいた。
ザ・ファンタジーって感じだな。
いや、メルヘンか?
しかし土壁にはたくさんのヒビか入り、所々崩れている。
「世界樹の力が弱まって、建物が維持できなくなってしまったんです。」
兎人族の建物は土魔法と樹霊術を組み合わせて建てたものらしく、
木が成長してもそれに合わせて建物も形を変える仕組みになってる。
森の自然とともに生活する者の知恵だろう。
「これだったら樹霊術で直せるかな?」
家を支えている木に樹霊術で魔力を通す。
土壁の中に伸びている根を伝い魔力が土壁まで届く。
すると弾性を失ってカサカサになっていた壁が潤いを取り戻す。
ヒビが塞がり滑らかな表面に変わった。
木も葉が瑞々しく繁っている。
「いけたね。全部やっちゃおうか。」
うわっぷ。タルトが抱きついてきた。
襟元がたわんで胸元が見える。そこに谷間は、存在しない。
はぁ。
「すごい、すごいですひとしさん!みんなに知らせなきゃ。」
「そういえば誰もいないみたいだけど。
隠れてるだけ?」
「いえ、ここには誰もいないみたいです。何かあったのかな?
族長の家に向かいましょう。」
「うん、急ごう。」
村の奥。大木の下にひときわ大きな家があった。
「あれが族長の家です。みんな集まってる。」
「族長に何かあったのかな?」
扉を開ける。
「ただいま。」
「おお、タルトか!チルトよ、タルトが戻ったぞ。」
「ババ様。いったい何が?」
「チルトはもう長くはない。なので今後の事について話し合っていたのじゃ。」
ババ様と呼ばれた兎人は白髪であったが、シワもなく、
美しい40半ば位の女の人だった。美魔女だ。
「タルト、それは人間ではないか?
なぜ人間を連れてきた。掟を破りおったか?」
「ババ様。この方はドリアード様が話していたヒトシさんです。」
「なんと!」
「そして、僕は掟を破ってません。
ひとしさんは森の加護の力を使い、
世界樹の気配を頼りに自力でこの村まで辿り着いたんです。 」
「なんと!」
「すいません、立て込んでるところに急にお邪魔して。」
「よいのです、よいのです。よくお出で下さった救世主様。」
なんだか大層な呼ばれ方だな。
「あの、名前で読んでもらってもいいですか?」
「わかりました。ヒトシ様がそうおっしゃるのならば。
もてなしの席を設けたい所なのですが、今は一族の大事。」
「はい、構いません。ただ、族長に話があるんです。
これからの兎人にも関わってくる話なので。」
「わかりました。では、ヒトシ様、タルトこちらへ。」
広い集会所。みんなそれぞれ腰を下ろし。
真ん中にはベッドに寝かされた一人の兎人が。
「私がチルトです。よくおいでくださいました。
救世主様。いや、ヒトシ様とお呼びしましょう。
申し訳ありませんな、このような姿で。」
チルトはシワだらけで生気の無い顔をしていた。
「病を患ってしまいましてな。
村の様子は見ていただけたでしょうか?」
「はい。家が崩れかけていました。」
「樹霊術でなんとか維持していたのですが。
魔力を使い過ぎてしまいまして。こんな体になってしまいました。
世界樹様が復活なされて、徐々に森の木々にも生気が宿り始めました。
もう少しと言うところでしたが、この有り様です。」
「父さん。それならさっきヒトシさんが全部直してくれました。
樹霊術の使い手なんですよ。」
「なんと、そうでしたか。
タルトはまだ兎人族としては幼く、樹霊術を使うにはまだ早い。
私が何とかしなければと…。
そうでしたか。これで思い残すことはなくなりました。
あなたは本当に救世主だ。
ありがとう…ございます…。」
兎人族の長はタルトの話を聞くと安心したのか安らかな顔になり、
一筋の涙と共に息を引き取るのだった…。
…すやすや。
あ、眠っただけだった。とにかくよかった。
魔力が枯渇し、生命力も回復できなくなって、死に至る病気で、
ポーションなんかで延命はできるみたいだけど。
根本的な解決にはならないみたい。
ポーション高くて買えないしね。
「よかったら僕のポーション使ってください。」
鞄からガラガラとポーションの入った小瓶を取り出す。
「おお、なんと。これで半年は行き長らえる。」
周りからも感嘆の声が漏れる。
ついでに壁から見えている家を支える幹に手を添える。
幹を伝い魔力が壁に染み渡る。
潤いを取り戻し壁のヒビか塞がり、きれいな土壁に戻った。
ざわめきが大きな歓声に変わる。
「救世主様!やはり救世主様!」
盛り上がる兎人たち。
あや、てれますな。
「…うぅ。」
あ、チルトさんが起きちゃった。
「な、なんと。これが救世主様の力。世界樹を救った力か。」
「チルトよ。救世主様がポーションまで下さった。」
「なんと!」
「飲めるかチルト?」
「ああ。飲ませてくれるか。」
一口、口に含む。
「っ!
なんだこれは。からだのそこから力がわいてくるようだ!!
ばばさま、もう一口、もう一口だ!」
「う、う、うぉー!」
ベッドの上、急に立ち上がるチルト。
さっきのしわしわ老人の面影はなく、
タルトによく似ているが美丈夫といった感じの兎人が現れた。
「ヒトシ様。これはなんの秘薬でしょう。
今なら何でもできそうな気がしますぞ!」
そうなんだよね、不思議とやる気が漲るんだよ。
「これ、病人が行きなり動くんでない。」
「何を言うかババ様。俺はもう病人ではない。
ヒトシ様より新たな生を授かった兎人、チルトだ!
さあみんな、力を合わせて村を元の姿に戻すぞ!」
「「「おぉー!」」」
凄いテンションだな。とにかく元気になってよかった。
はは、タルトも嬉しそうに叫んでいる。
そうだ、ダンテの手紙を渡さないと。
でも、もう少しだけ、元気になった兎人たちを見ていよう。




