第54話 肉食ウサギ
木々が生い茂り、足場も視界も悪い道のり。
のはずなのに、まるで平地のように何の苦も無く進んでいる。
通るべき道があるかのように茂みを潜り抜け、緩やかな階段を進むように急斜面を難なく上り下りする。
森の加護。あるのとないのでは雲泥の差だ。
いくら獣人たちが森の生活に慣れているとしても、加護を失っては生きていけないのが分かる気がする。
例えるなら現代人から石油を取り上げるようなものだろうか。生活のレベルは低下し、経済も回らなくなり、食料と資源の奪い合いが始まる。この森ではそんなことはなかったようだけど。
なんて、堅苦しい話はいいんだけど。つまり、加護って便利で有り難いね。ドリさんありがとうってこと。
危険な魔物はタルトがいち早く察知して教えてくれるし。避けて通れる。
いや、ま、戦ってもいいんだけど。聖剣もあるしね。
…。えーと、やっぱり聖剣はいいか。やめておこう。俺はもう聖剣はあきらめて魔剣に賭ける事にする。
陽が傾くと一気に辺りが暗くなる。それでも方向感覚を失わないのは森の加護のお陰だろう。
道程的には半分くらい来たかな?
「タルト、今日はここら辺でキャンプにしよう。」
「そうですね、陽が完全に沈む前に準備をしてしまいましょう。」
僅かに開けた場所を探し、ハウスタートルを生成する。
巨大亀に間取りのスキルを付け、部屋を作る。寝台は2つ。上下2段ベッドにする。
キッチンと、ダイニング、風呂も付ける。
「さて、今日は肉を焼いて食うぞ。」
「ヒトシさん、毎回で申し訳ないんですけど、何なんですかこれ?」
「ハウスタートル。俺のスキルで作りだしたんだよ。」
「見たことも聞いたこともないスキルばっかりなんですけど。」
「ユニークスキルってやつなのかな、分かんないけど。
俺が持ってるスキルはクローンて言うスキル一つだけだよ。」
「クローン、ですか…。」
「魔力で作った分身体で、いろんな性質を持たせることが出来るから、いろんなことが出来るんだよ。
さっきのドザエもんも、この亀も。隠密スキルを見破ったのも全部俺が作ったクローンだよ。」
「まるで神話の中に出てくる無の精霊使いみたいですね。」
「うん?」
「神に仕える、無から有を造る、創造の使徒です。
この世のあらゆるものは精霊使いが創造したと言われています。」
そうなんだ、世界を作ったのは神様じゃなくて神様の使徒なんだね。
普通は創造神とか言われる、一番偉いところに来る存在じゃないのかな?
「そんなすごいもんじゃないよ。何でも作れるわけじゃないし。」
「それでもすごいです。」
「あ、ありがとう。
さあ、夕飯の準備をしよう。」
オーク肉を厚切りにして、塩で味付け。
他にも香辛料とか欲しいな。後でドリさんにでも聞いてみるか。森にも何かありそうだし。
さて、焼いていこう。
フライパンにオークから搾った油をひき、かまどで熱する。
すぐに油は香ばしい匂いを出し鼻先に届く。
そこに厚切りのオーク肉を乗せ、両面をこんがり焼いたら、蓋をして弱火でじっくり中まで火を通す。
タルトのお腹がキュ~っと可愛い音を出す。お前さん、完全に女子やんか。
と言うか、兎人族って草食じゃないんだね。今更だけど。
パンを取り出し、さらに乗せる。はちみつの瓶を横に置きスプーンを用意。
「さ、肉が焼けたら食べよう。塩味しか付いてないけどね。」
後で女将さんにでもソースとか、香辛料について聞いてみよう。
塩味でも全然美味しいんだけど、やっぱり他の味も楽しみたいし。
「い、いいんですか?こんなご馳走いただいて。」
「ただ肉を焼いただけだよ。」
「ハチミツまでありますよ。」
「そう、ジャイアントビーって言う蜂が集めた蜜で、とても栄養があって美味しいんだよ。
あ、そろそろ肉も焼けたかな?」
ナイフを一番分厚い部分に刺して、透明な肉汁が出てくればOK。
よし出来た。
皿の真ん中にどーんとオークの肉を乗せ。
「「いただきまーす!」」
厚めにスライスし噛り付く。うーん、贅沢。
柔らかく焼けてる。もともと硬くなりにくい肉なんだけど、上手く焼けると。
外はパリパリと香ばしく、中はプリッと歯ごたえと、
中に閉じ込められた肉汁が噛むたびに染みだしてくる。
至福の時だ。タルトはどうかな?
スライスした肉をさらに一口大に切り分け、小さなお口でぱくりと。
女子だ、完全に女子だ。喋らなければ。
こっちを見て、ニコッと。しないで、変な気分になるから。
「どう、おいしい?」
「はい!こんなお肉初めてです。美味しすぎます!」
「それはよかった。実は、オークの肉なんだけどね。」
「え…。」
食べていたフォークとナイフを思わず落とす。
「ど、どうしよう。もう飲み込んじゃった。」
さっきの笑顔とは対照的に、一気に青ざめる。
「大丈夫、魔力は全部抜けてるから、魔物になることはないよ。」
「そうなんですね、よかった。じゃあ、食べます。」
何事もなかったかのように再び食べ始める。うん、素直でよろしい。
小さく切って食べてるから小食かと思いきや、ナイフ捌きがヤバい。
リズミカルにスルスルと切り分けて、どんどん口の中に消えていき、
無くなった。
思わず見とれてしまった。まるで剥ぎ取り士のクローンを見ているよう。
「すごいね。」
「兎人族は意外と食べるんですよ。」
「そっちもだけど、ナイフ捌きが。
あ、よかったら俺のも食べていいよ。」
ステーキを差し出す。
「え、いいんですか?」
そんなにキラキラした目で見つめないで。
「どうぞ、良いものが見れたからね。」
タルトのさらに移してあげると、ペロリと完食。
恐るべし兎人族。
「さ、そろそろ寝ようか。おやすみ。」
「…。」
相当寝心地が良かったのか、ベッドに入った瞬間に寝てしまったようです。
さて、今晩は何をしようか。クローンでドレイクのザルバさんに会いに行こうかな。
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魔王、いつになったらなれるんだろう。




