第43話 不老のヴォルフガング
滅茶苦茶に破壊し尽くされた訓練場。
壁も扉も鉄格子も、何もかもが原形を留めておらず、そこに立つ男の糧となっていた。
腕にまとっていた薄いベールは今や全身を覆う強固な鎧と超重量の鎚となっていた。
「な、バカな。大魔法にも耐えるほどの障壁魔法を施しているのだぞ。
魔獣の一匹や二匹簡単に抑え込める…」
黒いローブの男が狼狽える。
「お前の基準としている魔獣様がどれほどのモノか知らんが、
それじゃいつまでたっても俺は捕まえられんぞ。
なにせ、俺はその魔獣どもの王、獅子なんだからな」
「ダンテさん、上手いこと言いますね」
「う、うるさい。今カッコよく決めてた所だろうが。」
あ、ちょっと照れてる。
「はい、カッコよく決まってましたよ。
頼りになりますね」
「お前もやるんだよ!」
「はいぃぃ!」
背中を巨大な腕でズン、とこずかれた…。
完全に任せる気でいた。いつもクローン任せにしてるから、その悪い癖が出てたみたい。
とは言うもののどうしようか…。
ま、結局使うのはクローンなんですが。
スキル『不在』を付けてあるアサシンクローンを転移させてきて、
兵士の首を絞めあげる。
それと同時に俺も遠くから首を絞める動作をする。
傍から見ればまるで「見えない力」で首を絞めているように見えているはず。
「ヒ、ヒィ……!」
「あ、あいつだ、あいつ妙な力を使うぞっ!」
似非エスパーはパニックになる兵士たちを次々と無慈悲に絞殺していく。
あ、気絶させているだけですよ。回復もちゃんとさせてるし。
と言うか、このアサシン。
俺がスキル付与した訳じゃないのに、回復魔法から、なんと蘇生魔法までデフォルトで備わっており、お手の物なのである。
きっとあれだよ。拷問とか捕獲で「やっべ、やり過ぎちゃった」的な時用だと思うんです。
なんだか最近クローンさんが怖いんです。
そう、例えば後ろから……、ずーっと見られてるような気がするんです。
丸々した体で、緑色の、最終兵器チートタヌキに…。
ゾクっ!
殺気を感じ、身震いを一つ。
そうだった。タヌキは禁句だった。
さてさて、お次はいよいよ大臣殿の番ですよー。
あれ、兵士たちがパニックを起こし次々倒れていく中、なんかすごい余裕ですね。お大臣。
もしかしてこれの事かな?
どさり…。
物陰から二人の黒装束が意識不明で床に投げ出される。
兵士よりも先におねむでしたよ。
大臣殿にこき使われて、大分お疲れのようです。
驚愕の大臣!って感じ。
目を見開き口をあんぐり、顎の肉がフルフルしてる。
チワワじゃないんだから、可愛くないっすよ。
「ヴ、ヴォル!早くやれ!」
次の瞬間、背筋に悪寒を感じ、一歩後ずさる。
と、目の前を通り抜ける何か。剣圧が前髪を揺らす。
そして金属同士がぶつかる音が鳴り響いた。狙いはダンテさんの方か。
「お前は、ヴォルフガングか!」
「……久しいなダンテ。こうして刃を交えるのは何年振りだろうか。」
掠れた唸るような声。黒髪黒い軍服のような出で立ち。ダンテさんより二回りも小さく見える。
釣り目で立派な口髭を生やした50才過ぎのオジサマだ。
「ギルドの長は気苦労が絶えないと見えるな。やはり少し老けたか。」
「当たり前だ。あれから10年以上たつんだ。何一つ変わらないお前がおかしいんだよ。」
「おやおや、それは心外だ。まあ、いいか。
今は王国に使える身にて、不穏分子の排除が最優先事項だ。
それにしてもあのお方はなぜこのような不確定因子を野放しにしておられるのか。
理解に苦しむところだ。」
ちらりと俺を一瞥する。あ、俺?今の俺に向かって言ってたの?
「だが、ここで潰えればそれまでのこと。あのお方も理解なさるであろう。
今の最優先は国政の保護。大臣に倒れられてはこちらの計画に狂いが生じる。
ここで消えてもらうか。」
なんか一人で喋ってたけど…。自己解決できたのね。よかったよかった。
で、結論は俺を殺すと。一人で解決しようとするからそうなるんだよ。相談して相談。
「ヒトシ、そいつは厄介だ。何度かやりあったことがあるが、底が知れない。」
「そうみたいですね。あのスピード。すごく厄介そうです。」
「それだけじゃない。やつの本領は巧みな駆け引きだ。俺が一番苦手な相手だ。
来ると思わせておいて来ず、
フェイントだと思った時には既に回避不能な状態に陥っている。
俺みたいに考えなしでぶん回していようが、難なく懐に入ってくる。
しかも入ってこれないだろうと思った瞬間にするりと、だ。」
あー、たぶんスキルだね。おそらく魔眼系の。未来視とか、感情を読み取るとかそっちの方のヤツ。
生憎、俺には対抗する手段はないな。
来たよ、ヌルりヌルりと意識の隙間を縫ってくるのが分かる。
ちびっと高速思考使いますか。
無限の攻撃軌道を隙間なくシミュレート。
驚いた顔して止まった。効果あり!
少し仕掛けてみるか。
所々に意識の隙間を作ってみる、と。
おー、意識の隙間に移動した。やっぱりこっちの意識が分かるみたい。
また移動した。…また。…次も。…もう少し近くに。…あ、止まった。
「…貴様、何者だ?
これほどの危険因子。必ずや計画の妨げになる。
もしや気づいておられないのか?
そうか、今はこちらにおられないのだな。それならば納得だ」
あ、逃げられた。罠だってばれちゃった?
あと少しで回避不能の一撃を叩き込めそうだったのに!
どうやら向こうも本気じゃなかったみたい。
「貴様…。これは彼の方に報告せねばならぬぞ。」
あぁ、いなくなってしまった。
彼の方とか、計画とか何とかいろいろ一人で喋ってバラしていったけど、大丈夫だったかな。
後で彼の方に怒られないといいけど。
とにかく、独り言の多いオジサマはお帰りになられたようです。
あ、大臣もいなくなってるし。やられた……。
「話し合いは失敗のようですね。」
「ああそうだな。まあ、あちら側に話す気が無かったようだからな。
だが、生き残ったこちら側の勝ち、という事だ。
ギルド本部にこの事は報告してある。
万が一に備えて代理のギルドマスターも用意してもらっている。
さ、帰るぞ。」
「え、帰るんですか?」
「大臣を捕まえたとしても、何の証拠もなければこちら側が反逆罪で捕まる」
「じゃあ、何をしに来たんですか?」
「宣戦布告だ。国と、ギルドのな。
こうなった以上、冒険者ギルドは話し合いが済むまで国には協力しない。
依頼は受けないし、王都防衛の出動要請も受けない。
冒険者ギルド本部が交渉のテーブルを設け、
今回の事についてと、これからの事について国と話し合う。」
「それって大ごとになるじゃないですか。」
「当たり前だ。そもそも、新しいダンジョンを発見した大功績に対して、
褒賞が金貨一枚とは、冒険者をバカにしている。
当時ヒトシは冒険者ではなかったが同じことだ。
冒険者の利益を守ることが俺たちの仕事。冒険者ギルドとはその為に存在する組織だ。
過去にもこうやって俺たちの先輩方が何度も国とやりあってきたのさ。
問題はねぇよ。」
ダンテさんは俺と言う冒険者を守るために戦ってくれたんだ。
「俺はしばらく表立ってギルドマスターの職務は出来ないがな。
話し合いが済むまで、大人しくしていなくてはならない。
ま、今回の事が公になれば大臣もただでは済まない。
しばらくは火消しに奔走することになるか。そのまま失脚か。
あの大臣がそのまま消えるとは思えんがな。
とにかく、こっちもそれまでに準備を整えればいい。
話し合いで済むのか。国と戦争か。大臣とやりあうのはその時だな。」
ダンテさんよ。今日ほどあんたの事が大きく見えたことはないよ。
「じゃ、その時まで力を蓄えておきます。」
俺とダンテさんはそのまま王城を後にした。
いつもありがとうございます。ここ何話か、冒険出来て無いっす。早く冒険したい。
パソコンに向かう時間が取れず。下書きばかりが貯まっていく最近です…。
そして下書き46話までいってまだ冒険出来て無いです。早く冒険行きたい。




