第39話 奪われたもの
ギルド長室。
俺はダンテさんと二人、向かい合って座っていた。
「まさか、ギルドから情報が漏れているなど。
しかしロズウェルがそう言っているなら、間違いなのか…。
いやしかし、どこから…。」
ロズ隊長ことロズウェルさんは元冒険者で、ギルドマスターのダンテさんとも知り合い。
国王軍の兵士、士官には、名前の知れた元冒険者が多くいる。
冒険者として実績を上げ実力が認められると、
士官学校や、軍隊学校に推薦枠で向かえ入れられる。
「こんなこと言いたくないですけど。
俺は、シェロルさんかアヤさんじゃないかと思ってます。」
俺は正直に今の考えを伝えた。
「…まさか。いや、俺もそれしか考えられないと思っているんだが。
どうしても身内びいきになってしまうな。
俺の甘いところだ。」
ダンテさんはすごく難しそうな顔をしていた。
そりゃ信頼していた部下が、裏切っていたなんて思いたくはない。
「そこで、少し試したいことがあるんです。
それの許可をもらえないかと思って。」
「何をするつもりだ。」
ダンテさんの表情がさらに曇る。
「あんまりやりたくはないんですけど。
人の心の中をのぞくというか。
あんまり気持ちのいいもんじゃないんで。」
俺は曖昧に濁して伝えた。人の心を読むなんて、本当はやってはいけない。
そんなことしたら今まで築いてきた信頼関係を否定している事と一緒だから。
でも今はそんなことを言っている場合ではない。
ギルドと、俺に関わる全ての人に、犠牲者が出てしまうかもしれないほどの大事だから。
情報を漏らしている人を見つけて、裏で糸を引いてるやつを引っ張り出して来なきゃならない。
「仕方ないか。情報が漏れているとなると、
ギルドの重要な機密まで漏れている可能性もあるからな。
ギルドの危機でもある。頼めるか、ヒトシ。」
理解が早くて助かる。
「わかりました。では、すぐに始めます。」
ギルド一階
俺はシェロルさんに気づかれないように背後に立った。
そして、
(レイちゃんお願い。)
(わかった、彼女が他の誰かと会ったりしてないか調べればいいのね。)
たのんだよ。
レイちゃんはシェロルさんの後ろに立つと、スゥ、と姿を消した。
レイちゃんの能力、憑依。相手に取りつくことで、相手の感情、記憶を読み取ることが出来る。
レベルが上がると、意識を乗っ取り操ることもできる。
1分もたっただろうか。レイちゃんはムスッとした顔で、シェロルさんから出てきた。
(どうだった?)
(知らない)
えー。何?知らないって…。
(でもあの人気を付けた方がいいよ、ヒトシさん)
(そうか、シェロルさんの方が黒だったか…。)
(あんな顔して、凄いこと考えてるわよ。そう、彼女は今日、黒よ!)
(今日、黒…。どういうこと?)
(鈍いわね、察しなさいよ!しかもかなり際どい奴よ。
「ヒトシさんと」って何を考えてるのよ
びっちよびっち!)
なんのはなし?スパイは?
(…。もういいわ、次行きましょう。)
なんか、諦められた。色々と。
(次は彼女ね。)
アヤさんの後ろに立ち憑依した。
一分後。
(見つけたわ。彼女、男に情報全部喋ってるわ。)
アヤさんだった。いや、間違いなく、情報漏らしてる人はいるんだろうけど。
実際にそう判ってしまうと、それを受け入れるまでにはしばらく時間が掛かった。
(ヒトシさん、続けてもいい?)
(あぁ、頼む。)
(彼女、何かおかしいの。感情を無理やり捻じ曲げられているって言うか。
強引に引っ張られてるっていうか。とにかくおかしいのよ。
ヒトシさんの力で何とか調べられないかな。)
どういう事だろう、何かの状態異常にかかっているてこと?
それとも何かに操られてる?
(わかった。鑑定解析で調べてみる。)
(ありがとう、レイちゃん。)
(お安い御用よ。何かまた聞きたいことがあったら呼んで。)
そういうとレイちゃんは消えていった。
忍びを一人転移させて。鑑定解析をかける。
状態:操心
他者に心を操られている状態。操心術など。
そういうことか。誰かに術を掛けられて操られていたんだ。
これどうやったら解けるんだ。
とりあえずギルドマスターに相談だな。
ギルド長室に戻り、犯人がアヤさんであったこと。
操心術を掛けられていることを報告した。
「そういうことか。ギルド職員の身辺調査はおれの仕事だったんだが、
あいにく俺はそういうのが苦手でな。クソ、また俺の責任だ。」
ダンテさんは悔しそうに歯ぎしりをした。
「操心を解く方法ってないんですか?」
「かけてるやつの上を行く操心を掛けるか。
それ以上の精神的負荷を与えるしかない。
トラウマってやつだな。」
マジか、他に方法はないのか。魔法の世界だろ?何とかならないのかよ。
…。何とかなるか。操心の上を行く、か。
そうだ、支配のスキルは使えるかな?
多分操心の上を行くスキルだと思うんだけど。
でも、支配のスキルは今は加護としてクローンのスキルに取り込まれちゃったから持ってないんだよね。
そうだ、オークダンジョンの勇者が支配のスキルを持ってるはずだ。
すぐに、オークダンジョンから勇者を移転させた。
さて、取り込んで支配のスキルレベルを上げますか。
勇者を取り込もうと手を伸ばすが、
「あ、ひとしさん!いらしてたんですね。」
シェロルさんがこっちに気づいて走って来た。
「たいへんなことになり、あっ…!」
デスクのフックにスカートのすそが引っ掛かりまくれ上がった。
黒だった。しかもかなり際どい奴。黒ってこれか。
おいらは目が釘付けですよ。貴方の衝撃からもう目が離せません。
「ち、違うんです。これは違うんです…。ああもう、取れない!」
違いませんよ。素敵なお姿ありがとうございます。
俺は思わず手を合わせた。
次の瞬間引っ掛かりが外れ、バランスを崩し。そのまま勇者様へダイブ。
スカートどころか、上着まで捲れ上がっちゃいましたね。
上も黒ですね。スレンダーなボデーによくお似合いですよ。ホント。
これは勇者様に感謝ですね。ホント。
幸運最高!こーうんこ!何て言ってごめん。ホント。
おっと、こんな姿をいつまでも人目にさらしておく訳にはいかない。
俺はささっと駆け寄り、シェロルさんを抱き起すと、服の裾を整えてあげた。
「何も見てませんよ。何も見てませんとも。
ただ何やらとても良いものを見た気がします。」
「ち、ち、ち…。違うんですぅ。」
真っ赤になって俯いてしまった。
もう少しシェロルさんにお付き合いしたいけど。
やるべきことをやらなければ。
シェロルダイブを喰らって仰向けになっている勇者を吸収する。
魅惑Lv.3 13/400
繁殖Lv.4 152/250
支配Lv.2 62/600
よし、とりあえず魅惑と繁殖は分解して。
スキルポイント 632 に変換しました。
これを支配に振って。
支配lv.3 94/800
よし。これで操心を解いてみよう。
「アヤさん、少しいいですか?」
「あ、ヒトシさん、大変なことになってますね。
とにかく無事で何よりです。
ギルドは全力でヒトシさんを守りますよ!」
笑顔のガッツポーズ。
やっぱりアヤさんはアヤさんだな。
自分が情報を漏らしてるってこれっぽっちも思ってないんだ。
「ありがとうございます。
アヤさん、少しいいですか?」
「はい、なんですか?」
背が小さいので上目遣いで見上げてくる姿が何とも愛らしい。
こんな人の心を操って好き放題しているなんて、絶対に許せない。
「俺の目を見てください。」
「こうですか?」
真っ直ぐ見つめてくる瞳が輝いている。
可愛い。可愛過ぎるぞ。どこぞのアイドルですか?
く、これではこちらが支配されてしまいそうだ。
「目を離さないでください。」
俺はそのまま支配のスキルを発動する。
「今からあなたは、私の下僕だ。」
一瞬でアヤさんの瞳の輝きが薄れ、感情の無い瞳に変わる。
「はい、私は今から。ヒトシ様の下僕でございます。
この命ヒトシ様の思うままにお使いください。」
完成してしまった。下僕一号が。これって成功でいいんだよね。
解析鑑定をしてみる。
状態:絶対服従
おう、四字熟語出てきましたよ。重々しい。
こんなんで人を好きにして、何が楽しいのだろう。
元々のアヤさんが一つも残ってないんだけど。
さっさと解除しましょこんなの。
「アヤさん、貴女を開放する」
再び瞳を見つめ、解放の言葉を口にする。
力なく崩れ落ちるアヤさん。
急いで鑑定解析だ。
状態:疲労
操心と支配と解放と、一気にやり過ぎたか。
負担がかなり大きかったみたい。
「アヤさん、これ飲んで。ポーションです。」
「あ、ヒトシさん。ありがとうございます。」
ポーションに口をつけ、こきゅこきゅと飲み始めた。
そして、グレーの瞳からは一筋の涙が。
「どこまで理解してますか?」
俺は、問いかけた。
「全部です。全部今、理解しました。
私、利用されていたんですね。」
「ギルド長室に行って、ダンテさんに話してくれますか?」
アヤさんは一瞬俯き、顔を上げると、強い意志を持った瞳で強く頷いた。
そして、アヤさんは事の始まりから、すべてを話し出した。




