第31話 本体、実はS級冒険者
約一ヶ月王都で冒険者として過ごす中で、色々と考えることがあって
俺はギルドマスターのダンテさんに相談することにした。
「ヒトシ、まさか1ヶ月でC級になるとはさすがに思わなかったぞ。
いや本来ならギルドへの貢献度から考えると
S級でもおかしくはないんだけどな。
B級以上になるとギルド本部の審査と承認が必要になってくるんでな、
申請は出しているんだが、なかなか時間がかかるんだ。」
素材の買い取りとか、ポーションの納品とか、他の冒険者のサポートとか、いろいろ頑張ったもんね。
クローンさんがね。
「冒険者のことなんですけど、少しお休みしようかと思ってるんです。」
「…そうか。そろそろ、そんなことを言い出すんじゃないかとは思っていたんだけどな。」
ダンテさんは俺がこう言いだす事を分かっていたようだった。
「はい、ちょっと厄介なことになってるみたいなんですよね。」
「うむ、大臣のことだな。錬金術ギルド、商業ギルド、そして大臣お抱えの冒険者。
大臣の息が掛かっている者たちと事を構えてしまった以上、大臣が黙っていないだろうからな。」
そう、そいつらの悪事を暴いて企みを潰していたら、全部大臣とつながっていた、と言うことだ。
「はい。路地裏で変なのにからまれたり、怖いおじさんたちに声かけられたり、
ついには寝ているときに、襲われそうになりました。」
「なにかされたのか?」
「いえ、“まだ”なにもされていません。でも、そろそろ周りに迷惑がかかりそうだったんで」
全部タダの脅しで何ともなかったけど。
その脅しの中に、「ギルドにも何かあるかも」とか、
「ロズウェルはどう思ってるんだろうな」とか、
「この宿屋に何もなければいいな」とか。
俺の知り合った人たちに関するものが含まれていた。
「あの野郎、汚い手を使いやがる。」
「なので、一度王都を離れて、どこかダンジョン探索の旅にでも出ようかと。
新しいダンジョンが見つかれば、そこの素材を売って、生活できますからね。」
「そうだな、ヒトシの移転魔法があれば、
協力者さえいれば誰にも見つからずに依頼をこなしたり、
素材を収めたりすることは可能だろう。
そして、もちろん俺も協力者の一人になるつもりだ。」
流石ギルドマスター。話が早い。
「ありがとうございます。話が早くて助かります。」
「まあ、こちらにもメリットがある話だからな。
何せヒトシの依頼消化率と、素材買い取りの利益は。
今やこのギルドの20%を占めているからな。そんなやつを簡単に手放せるか。」
流石ギルドマスター。計算が早い。
でもそんなに利益上げてたんだね。
さらに、魔物倒して取りきれない素材は置きっぱなしにしてたから、
それを持ち帰る冒険者が増えて、ギルド自体の買い取り料も相当増えたみたい。
お世話になるんだから一生懸命頑張ろうと思ってやった結果が認められた
と思うと嬉しいモノです。頑張ったのはクローンだけども。
「はい、これからも頑張らせていただきます。陰ながら。」
俺は冗談ぽく笑いながら言った。
「ヒトシ、これは笑い事じゃない。
お前と、お前の周りに危害が及ぶようなことがあれば、
もはや冒険者ギルドは黙っているつもりはない。
これは、冒険者を守るギルドとしての務めだ。」
正直、冒険者ギルドは大臣や、大臣の息のかかった者たちにとって厄介者である。
何か自分たちに有利に働くように、冒険者に圧力をかけようものなら
すぐにギルドが口を挟んでくる。
そして、冒険者ギルドは大臣側に傾くことはなく、
常に冒険者側に立つため。大臣とは常に対立する立場にあるといってもいい。
対立するほどの力を得るために、利益を上げ税を納め、
王国内での発言力を増す必要があるのだけど、
俺が活動し始めてから、相当な利益を上げているようだった。
そりゃほかの冒険者のサポートなんかもしてるからね。
そしてそれによって国の税収や、収入は相当なものになっているようだった。
これからは身を隠すから表立ったサポートは出来なくなるけど、
それでもできる限り依頼の達成や、素材の買い取りはしてもらうつもり。
「ありがとうございます。でも危害が及んでからじゃ遅いですからね。ちなみに、東の森の奥に一つダンジョンを見つけたんで、王国内なんですけどとりあえずそこの素材を収めていきたいと思います。」
ダンテさんが顔をひきつらせながら笑っている。
「ヒトシ…。お前、4つ目のダンジョンをすでに見つけていたんだな。」
正直、東の森の探索はなかなか進まず、やっとこさこの前、トレントの森を見つけたのだ。
スライムとオークとリザードの沼をすぐに発見できたのは、奇跡と言ってもいいんじゃないだろうか。
と思えるほどだった。
そして、やっと新ダンジョンを見つけたので、
今度は誰にも内緒にしてダンジョンを独り占めしようという作戦である。
また報告すると取られちゃうからね。
自分で攻略するんだから報告するメリットなんて一つもないからね。
探索のために相当な魔力を消費したんだ。多分2億以上は使ってる。
途中でオークとリザードのダンジョンは取り上げられちゃったから
魔力集めるのにだいぶ苦労した。
しばらくはトレントの森で使った分の魔力を回収しながら、
新しいダンジョンを開拓しようと思う。
クローンの維持には相当な魔力が必要なので拠点を構えて、今後のことを考えたい。
「東の密林のさらに奥、霊峰ガルガド。ドラゴンが生息する高山地帯だ。」
ドラゴン頂きました。やっぱり異世界と言ったらドラゴンっしょ。
ドラゴン会いたいわ~。そして俺も加護欲しいわ~。テンペスト欲しいわ~。
「何をニヤニヤしてる?」
おっといけない、ドラゴンと聞いてついニヤニヤしてしまっていたみたい。
「あ、すいません。ドラゴン、憧れますよね。お友達になれたらいいな~と。」
「霊峰に住んでいるのは、下級のドラゴンで、会話なんかはできないぞ。
凶暴で、こちらを見つけると、すぐに襲いかかってくる。餌としか見てないぞ。」
そうか、狼と羊は友達になれないのか。
「霊峰の頂には、聖なる竜が住むともいうがな。
誰も辿り着いたものはいない。それだけ過酷な環境と言うことだ。」
そんな危険な場所に私を行かせるおつもり?
獅子ですか?あなたは谷底に子供を突き落す獅子ですか?
「そんな場所で生きていけるでしょうか?」
「何を言っている。ヒトシなら何とでもなるだろう。」
いえいえ、ご冗談を。
わたくし、しがない異世界人でございますよ。
異世界歴1ヶ月と半分ですよ。
まだまだ新生児です。ママ、おっぱいくだちゃい、えへへ。
…。
「多くの魔力がいるなら強力な魔物が生息する地域の方が何かといいと思ってな。
普通の奴ならそんなところで生活なんかできない。
だが、お前の能力があれば、どんなとこでも生きていけるだろう。
いざとなったらここに戻ってくれば、こっちで何とかサポートできるしな。」
俺はクレイジーなサバイバル野郎なんかじゃないですよ。
「クローンがあれば何とかなると思いますけど。やっぱり危険な場所は。」
そうか、俺はトレントの森で隠れて
クローンだけで今までみたいに、探索とか討伐とかすればいいのか。
「わかりました。ありがとうございます。そっちの方面で探してみます。」
「ああ、さすがにそこまでは大臣も追っては来るまい。」
いずれは大臣もぎゃふんと言わせてやりたいけど、
今は一度身を隠したほうがいいと思う。
「それに、ドラゴンの素材なんてなかなか手に入らないしな。」
流石ギルドマスター。計算高く、腹黒い。
「俺、ダンテさんに利用されてます?」
「…。ははは、…そんなことはないぞ。」
はい、腹黒いくせに、嘘が下手ですね。
「いいですよ。どれくらいかかるかわかりませんが、
ドラゴンの素材バンバン送りますよ。
ちゃんと金貨と売り先確保しておいてくださいね。」
「ははは、なんか目が笑ってないぞ、ひとしくん。」
ダンテさん、額に汗が。
「それでだな、ギルドに新たな買取場所を増設しようと思ってる。ヒトシ専用のだ。」
まさか、俺そこまで期待されると、プレッシャーで胃に穴が開いちゃいそうなんですけど。
「ははは、そんな、マジで?」
「おう、期待してるぞ。担当にはシェロルともう一人、アヤがいいだろう。
あまり人に口外できないことだからな。
この二人なら仕事もできるし、ギルド内のことは人には絶対に漏らさんだろう。」
アヤさんとは、ギルドの受付嬢で、
グレーのショートカットの目がくりっとした、丸顔の可愛いらしい美人さんだ。
シェロルさんと対照的な見た目通り、愛想がよくて明るい女性だ。
直接会話らしい会話をしたことはほとんどないけど、
人懐っこく、人当たりもよく、分け隔てなく人と接することのできる、
ギルドのムードメーカーでもある。
ただ、最近冒険者の一人と付き合いだしたと話を聞いた。
あんな明るくてかわいらしい人の彼氏なんて、
うらやましくも何ともないんだからね!
うん、モゲーロ!
…。まあ、兎に角ばれない様に上手くやってくれるようだ。
王都を離れる今、お金を稼ぐことにあんまり意味を感じないけど、
期待されているようだし、皆さんの役に立てるなら、おいら頑張っちゃうよ。
「それでは、数日のうちに準備して、出発しようと思いますんで。準備の方宜しくお願いしますね。」
「おう、任せておけ。一週間以内には準備してみせる。
そしたらまたギルドに来てくれ。ギルド長室に“直接”な。」
俺はダンテさんと別れて、旅の準備をすることにした。




