第3話 クローン、合流始めました
スライムたちの輪の中心を見る。
幸いこちらにはまだ気づいていないようなので、
俺は一度引き返すことにした。
あれはまずい。
きっとあれはこのスライムの洞窟のボスだ。
あいつに勝てるイメージが全く浮かばないし。
あんなのに体当たりでもされたらマジ終るわ。
本体ほったらかしにしてきたことも、
心の片隅でずっと引っかかってたんだ。
楽しすぎて忘れかけていたけど。
などと考えながら、途中で見かけたスライムを蹴り転がしながら、
スライムは友達していると、本体の場所まで戻ってきた。
「あ、よかった無事みたいだ。」
本体は出発した時と全く同じ体勢で
微動だにしていなかった。
全く同じアホ顔で、目とか口とか開きっぱなし。
「おにいちゃん目ぇ悪なんでぇ。」
このままではドライアイまっしぐらである。
それよりもこんな森の中で、
本体を無防備なままで放置なんて、
よく考えたら恐ろしいよね。
帰ってきたら、内臓が食い荒らされてたとかさ。
一生クローン生活になっちゃうよね。
そもそも本体なくなったらクローンも消えるよね普通。
この森に魔物がいないとも限らないし、
間違いなくいると思うけど。
襲われたらひとたまりもないよ。
俺は冷静に考え、青くなりながら、
次からは見つからない場所に身を隠すか、
安全な場所を探すと心に誓った。
せっかくこんな安全な能力をもらったのに、
凡ミスで本体やられてたら、
せっかくの異世界ライフ満喫が一瞬で終わってしまう。
ここは安全な世界ではないのだ、
日本にいたころとは危機管理の概念を
全く一新しなければいけないのだ!
それにしても目と口くらいは閉めていけばよかった。
これ絶対本体に戻ったら目とか喉とか痛いヤツだよ。
「うぅ、しょうがないか…」
本体の目の前に立ち、意識を本体に向ける。
一瞬視界が切り替わり、目の前に白い自分がいた。
・・・・目とノドは?全く痛くない。
目も乾いてる様子もないし、ノドも乾いていなさそうだ。
どうやって合流するのかとクローンに手を伸ばすと、
クローンが青白く輝き、モヤになり手の中に吸い込まれていった。
[クローン魔力量は84です
回収量は30%の25です]
魔力の回収率は30%か。
あとの魔力はどこに行くんだろうか?
もったいない。
もったいないばあさんが来るぞ。
でもでも、魔力と言うモノの初回収。
嬉しくないわけがない。
これからもガンガン魔力をゲットし、
てこの世界で生きていくぞ!
異世界でもやっていけそうだと安心感とともに、
希望がみなぎってくる。
目の前に広がる異世界。(目の前は森だけど)
どんな景色が広がっているのだろうか……
[スキル<クローン>のレベルが上がりました Lv.2]
最大生成数 1 → 3
魔力回収率 30%→ 50%
最大魔力 10%→ 15%
操作性 10%→ 30%
[派生スキルが発現しました]
自立思考Lv.1
クローンが自動で行動を行うようになる
行動範囲行動方法を指定することで行動を制限する
魔物化
クローンの魔物化により魔力の吸収率を大幅に上げる
吸収率 10%→ 80%』
なんか一気に成長したな。
とりあえずクローンを3体作れるようになって、
しかも勝手に魔物倒してくれるわけだね。
さらには魔力の吸収と回収率も上がって、大幅に効率が上がった。
そうだ魔力の量ってどうやって確認するんだ?
自分の体に意識を集中してみる。
LV.1
生命力 300/ 300
魔力 295/ 300
筋力 30
体力 30
敏捷 30
魔臓 30
魔導 30
クローンのステータスから、推察した通り全部30だったね。
生命力と魔力量は体力と魔臓に依存するのかな。
クローン体でもそれなりに動けてたから、
この体はもしかしたら向こうにいた時よりも
身体能力上がってるのかも。
いや、魔力のせいかな?
魔力ってすべての能力に影響与えてるみたいだし。
どっちにしてもこの体でもなんとか戦っていけそうだ。
もちろん基本はクローン操作でいくけどね。
でも魔力減ってる。ってことは微妙に赤字だったのか…。
あんなにこれからの冒険に胸熱してたのに…。
ちょっとショック。
でもスキルレベルも上がったし、
魔力がもっと簡単に手に入るようになりそうだ。
スライムって魔力量が2だと思ってたけど。
10%しか吸収できてなかったんだ。
本来は20ってことなのね。
でもこれからは一気に16も回収できる。
人より魔物化したほうが魔力の相性がいいってこと?
8倍だよ?
さらに回収率も上がったから12倍以上
これは面白くなってきたぞ。
ニヤニヤが止まらない。
声『総魔力量が一定値を超えたのでレベルアップしました
Lv 1→ 2
生命力 300→ 600
魔力 300→ 600
筋力 30→ 60
体力 30→ 60
敏捷 30→ 60
魔臓 30→ 60
魔導 30→ 60
総魔力 25/ 30
おう?レベルアップした。
魔力を手に入れただけで簡単にレベルアップした。
トレーニングも戦闘も実際にはしてない。
それなのにこんなに簡単に強くなっていいの?
いいんですよね異世界様!?
いやいや、遠慮なんていらないよね。
死んだらおしまいだし。
思った以上にいろいろ世界を旅して周れそう。
「ふふふ、ふふふ、ふははははは!」
なんだこの高揚感は!今なら何でもできそうだ!
よし、レベルアップしたクローンの力を見せてやる!
「いけー、クローンども!」
イメージをしてクローンを作る
1体目
2体目
3体目
目の前に現れた俺、俺、俺……
不思議な感覚。
全部同じ姿だもん。
どうせなら装備なんかもさせて、強化出来たら面白いよね。
いずれどうにかなるか考えてみよう。
木の棒とか持てたから、装備自体は問題ないと思うんだけど。
とりあえず今は当てがないから、木の棒くらいでいいや。
ふう、さすがに3体連続で作るのはちょっと疲れる。
そうだ、ちょっと休憩にしてクローンたちに働いてもらおうかな。
なにしろ自立思考のスキルを手に入れたのだから!
これでわたくしも不労所得者の仲間入りですなぁ。
ふぉふぉふぉふぉふぉ・・・
さて、どうやって動いてもらうんだろうか。
ためしに『スライム倒せ』と命令してみる。
すると3体同時にクローンが動き出した。
全員振り返り洞窟に向かって歩き出した。
スライムのいる場所を知っているかのように。
行動は俺の記憶知識に依存するのかもしれない。
つづいて『木の棒を探せ』と命令すると。
あたりを探し始め、それぞれに手頃な木の棒を拾い。
また洞窟に向けて歩き出した。
後をつけていって行動を見ようと思ったけど
あることを思いついた。
行動は自動で、意識だけ移動できないだろうかと。
物は試し意識を背を向けているクローンの一体に移す。
できた!
体が勝手に動いている?
気持ち悪い感覚。
これは長時間は無理そうだ。
だんだんと慣れていけば、何とかなるかもしれないけど。
あ、でも動かそうと思えば全然動かせる。
自動よりこっちの行動が優先されるのか。
ふむふむ、力を抜いてリラックスすれば、
このままいけそうだ。
ちょっと待った、また本体のこと忘れてたよ…
「君だけちょっとストップね。」
自分のクローンに君っていうのも変な感じだけど。
他の2体が洞窟に向かっていくのを見送りながら、
本体の前に戻る。
「お、前より体が相当軽い。反応もいい。」
ホイホイと本体を抱え、岩と岩のくぼみの中に横たえた
「よし、これで大丈夫かな」
触れてみて気が付いたけど
本体は薄い膜でおおわれているようだった。
スキルによる防衛行動なのかもしれないけど、
これはとても有用そう。
クローン出してる間は、
本体を守る薄いバリアが張られるようになっている。
いよいよチートになってきた。
この子達便利すぎる。
さてさて、俺は頭の中でクローンたちを見学していようかな。
自動運転開始30分後、俺は大あくびをしていた。
意識だけだからあくびなんて出ないんだけど。
クローンたちはスライムを次々と見つけては蹴り飛ばし、吸収していった。
すぐに魔力量が最大値に達しレベルアップをさせること数回。
他の2体はレベルアップできず、魔力が満タンになっていたので、
意識を移しレベルアップさせた。
『勝手にレベルアップしてくれればいいのにな』
と思った次の瞬間、
奴ら勝手にレベルアップし始めやがった。
なんて便利なんだこの機能。
というわけで30分後、俺は何もすることがなくなった。
奴らはそれぞれに情報を共有しているらしく。
洞窟をマッピングしながらくまなく探索していった。
そしてたどり着いた場所。
そう、さっき俺が巨大スライムを見つけて、
引き返したあの場所。
俺の記憶があるためか、避けるようにして行動しているように見える。
あのアフリカゾウよりもでかいスライム。
プルプルと可愛い容姿ではなく、
でろでろとした紫色の醜い姿だった。
あの紫色の奴、明らかにポイズン的なヤツだよ。
バブリー的なヤツだよ。
しもしも~で、ワンレンボディコンだよ。
…
あれがキングスライムなのか?
いや、普通のスライムと比べてもデカさが異常すぎる。
エンペラースライムとか大王スライムとか?
よくわからんけど、
こんなスライムしかいない洞窟にあのデカいのは、
ゲームにしたらバランス崩壊してるのである。
だって、スライム1万匹倒して死に物狂いでレベル上げても、
あれには絶対手も足も出ないから。
そもそもあれ一体でスライム何万匹分あるんだって話。
あんなんいたら攻略できないから。
仕方なく周辺をうろついてスライム狩りを続けていると、
大王の部屋からスライムがぞろぞろとあらわれた。