第18話 本体、ひげモジャさんに会う
俺は茂みの中から現れた、ひげモジャの山男と見つめ合っていた。
あれ?もしかして言葉が通じないやつかな?
「ハロー?
最大限のスマイル!
「お前、人間か?
言葉は通じるようだけど、凄い訝しげな態度をとられた…
人間以外の何に見えるというのだろうか。
まさか、本気の友好スマイルがエンジェルにでも見えたのか。
それはないか。
「もちろん、ただの人間ですよ?
「こんな森の奥深くで、何をしている?
しかも一人のようだし、怪しい奴だ…
めちゃめちゃ怪しまれてる。せっかくのスマイルが台無しだ。
俺は、笑顔を崩さないように答える。
「そんなことありませんよ。ただ、森の中で迷ってしまいまして、
その途中でオークの巣を見つけたので、
そこで食料を調達して助けが来るのを待っていたんですよ。
流石に異世界から来たなんて言えないからね。
ここ何日かで人に出会ったときに何て答えるかは、あらかじめ決めていた。
もしかしてこの格好か?さすがに異世界の服装じゃ…あれ?
この麻っぽい素材の服、地球の物じゃないな。いつからこんなの着てたっけ?
…まあ、いいか…。前も、こんな事があった気がするけど…。
「!?
オークの肉を食っただと?バカなことをいえ!
オークは何でも食いやがるし、魂が汚れていやがるから、
肉なんて不味くてくえやしねぇ。やっぱりお前魔物か何かだな?
俺は騙されねぇぞ。
おーい!お前らこっちだ、こっちに怪しい奴がいる!
オークの肉なんて食ってやがるぞ!
あれ?なんか、思わぬところで怪しまれてしまった…やれやれ、上手くいかないものだ。
同じ釜の飯、いや、同じ焚火のオークを食べた仲になれると思ったのに。
山賊仲間ですか…?俺なんか襲っても何もお金になるものなんて持ってないのに。
あ、私の体が目的なのね!?この野蛮人どもが!恥を知りなさい!
物騒だなぁ。今のうちにトンズラしますか。
とりあえずクローンたちのことは知られない方がよさそうだな。
身を隠しておいてもらおうか。
「いやだな、おじさん。僕が怪しい奴なわけないじゃないですか、
さっきも言ったでしょ。ここで生き残るのに必死だったんですよ。
「城の魔導士が、東の森の奥で大きな魔力の動きがあったから調調べて来いって言われたんだ。
来る途中に気味の悪い白い亡霊が何体もいやがったし、
さっきはでけぇ火の玉が空に向かって飛んで行っきやがった。
近くに来てみりゃ、誰もいないはずの森の奥で焚火の煙が見えるじゃねぇか、
そこに来て、オークの肉を食ってる怪しい奴がいる。
ただの人間なわけがねぇ。
さらによく見りゃ、オメェ、さっきの亡霊に似てねぇか?
はい、それ大きな魔力以外全部俺ですね。でも、その魔力とやらは関係ないと思うんですよ。
はい、心当たりはなくもないですけどね。あの黒いモヤとか、あの黒いモヤとか。
て、全部俺じゃん…
「えー、そんなことがあったんですかー。きずかなかったなー。
亡霊に似てるなんてまさかー。そんな恐ろしいこと言わないで下さいよー。
ヤバい、言い訳がきつくて、だんだん棒読みになってきた。働け、俺の高速思考!
こういう時に働かないでいつ働くんだ!少しは役に立て…。
いえ、いつもお世話になっております。だから何とかして、お願い!
そうしている間に、茂みの周囲に気配が。右にも左にも、後ろにも回り込まれてしまったようだ。
あ~、完全に包囲されたわ、これ。
「いいか、そこを動くんじゃねぇぞ!動いたらぶん殴って黙らせるぞ!
おお、ひげのおじさん、そんな物騒なこと言わないで。
って、城の魔導士の命令?
この人って山賊じゃなくて、依頼を受けた冒険者か何かかな?
それなら少しは安心なんだけど。いや、魔物扱いされてる時点で不安心です。
「いいか~、動くなよ~。
おじさんは、手斧を構えこちらに近づいてくる。
いやいや、怖いから。お願いだから刃物こっちに向けないで。
動きたくなくても動いちゃいますよ。
ここは威圧の出番か?
「おいおいお前達、隊長に何の報告もなしにいきなり捕獲作戦か?
仮にも魔力の異常の原因かもしれないんだぞ。
もし彼が、魔力異常の原因で、あの白い亡霊を操っていたり、
火の玉を放ったヤツだったら、お前達…。
俺は、大事な可愛い部下たちを一瞬で失うことになるんだぞ。
俺にそんな悲しい思いをさせる気か?
声がして、後ろを振り返ると、短髪に、整えられた口髭のイケメンさんが現れた。
まるで海外の有名俳優を思わせるすらっと背の高い隊長さんだった。
「何気色悪いこと言ってやがるんだ。
大体、あんたがモタモタしてるからいけねんだぜ。
「おいおい、俺の話を聞いてなかったのか?
これは、原因の調査だ、魔物の討伐が目的じゃない。
そもそも、あのスタンピードの原因だとしたなら、俺達だけじゃ勝ち目があるわけないだろ…
「あのぉ、一体あなたたちは誰なんですか?
「あ、あぁ。済まない。突然驚かせてしまった。俺は王国軍第7軍3番隊隊長の
ロズウェル・グロウムントだ。
そしてこいつらが俺の可愛い隊員たちだ。
かわいい?このひげモジャのおっさんが?このイケメンは、少し変わった趣味をしているようだ。
「へぇ、王国軍なんですね、てっきり山賊かと。
「なにっ?!
おっと、つい口が滑った。ひげモジャ親父に睨まれた。
「ははは、確かに。いきなり森の中で出くわしたら山賊と間違うかもな。
「隊長まで、ひでぇな!
「おっと、口が滑った。
ところで、こんな所で何をしているのかな?
オークの肉を食っていたとか言っていたようだが。
「えぇ、森に迷い込んでしまいまして。オークの肉を食べて、何とか生き延びていました。
結構いけますよ。あ、ハイオークですけどね。ハイオークの方がうまいです。
ハイオークの方がジューシーで旨味も濃厚でうまいのだ。
「!?
ハイオークを、一人で?
いや、この森に一人で入れる時点で、相当な実力を持っているんだろうが。
そうだな、ちょうど腹も減ったし、そのうまそうな肉でもごちそうになろうか。
「はい、どうぞどうぞ。一緒に食べましょ。
「隊長?!正気か?オーク肉だぞ!魔物になるぞ!
「マジか、敵が増える前に全員で、殺しちまうか?!
「そうだな、それがいい。いいか、全員で一斉にだ…
「おう、手柄は全員で山分けだ、行くぞ。
「おいおい、お前達はなんでそんな物騒な考え方しかできないんだ?
それに、俺に勝てるヤツがこの中にいるのか?
「うぅ、それは。
山賊さん、じゃなかった。ひげモジャさんのテンションが一気に下がった。
山賊さん、じゃなかった。ひげモジャさんドンマイ。
「どれどれ、となり、失礼するよ。
イケメン隊長は、丸太に座っている俺の隣の空いている場所に座った。
いきなりそんな距離のつめ方。これは、女子だったら惚れてまうやつやな。
こやつ、出来よるな。
「どうぞ。
俺は、木の枝に一口大に切って刺した丁度良く焼けた肉を差し出した。
「うん、美味そうな匂いだ。では一口。
隊長は肉にかぶりついて、枝から肉を引き抜くと、もぐもぐと噛んで、
「!!!
う、うまいぞっ!なんだこの肉は。
一度王都の高級料理店に連れて行かれた事があるが、そこのになんかよりも何倍もうまい!
この溢れる油と、噛むほどに出てくる旨味が最高だ!
どうやら気に入ってくれたみたいでよかった。
なんの味付けもしてない、ただ枝に刺して焼いた肉が高級料理店の料理よりも美味いとは。
確かにめちゃめちゃうまいんだけど。
「おい、お前たちも食ってみろよ。すごいぞこの肉!
隊員たちはお互いに顔お見合わせ。困惑の表情をしていた。
しかし俺は見逃さなかった。口の端からこぼれそうになっている唾を、その唾をゴクリと飲み込む様を。
「まだまだたくさんありますから、皆さんもぜひどうぞ。
焚火で焼きあがった、香ばしい湯気と肉汁が出ている串肉を匂いが届くように大きめに振りながら。
悪魔の誘惑をした。いや、ただのおいしい肉なんだけど。




