第102話 不可視の刃
灰色の彫像に乗り込む トッポさん。
「それじゃあ始めようか!」
有無を言わさず当たり前のようにして
戦闘が始まってしまったんですけど。
この世界の人達って、みんなこういう感じなんすか?
「ワクワクするね!」
いや、しないですけど、
全然しないですけど。
まるでどこかの惑星に住む
野菜みたいな名前の戦闘民族みたいな
セリフを吐きながら
構えを取る小人族の男がいるんです。
…どうしたもんでしょうか。
「ちょ、ちょっと待ってください。
なんでいきなり戦わなきゃいけないんですか?!」
「それはさぁ。
この彫像の力をフルに発揮しても
壊れなさそうな丁度いい実験体が
現れたんだから、そりゃこうなるよね!」
いや、分かるよね?みたいに言わないで。
戦闘民族の頭の中身なんて、
全く理解出来ませんから!
「僕の彫像は美しいだけではだめだ!
強くあらねばならない。
ね、スリ?」
スリさん、否定して!
美しいだけでいいでしょ?
強い彫像って意味がわかんないし!
そうトッポさんがスリさんに語りけると、
スリさんがトッポさんに歩みよる。
「あ、ちょっと待ってね、まずは僕一人で。」
「分かったわ……。」
スリさんはちょっと悲しそうな声で呟いた。
あ、あなたもそっち側の人間ですか?
いや、人間ではなかった。
じゃあ、俺に理解できないはずだ。
納得。
納得しないで!
「ごめんねちょっとだけだから。
すぐ力が必要になると思うよ。」
スリさんは後ろに下がり見守る方針だ。
えっと、最終的に、二対一?
それとも、聖母竜を相手に二対一?
トッポさんこっち側についてくれるのかな?
力が必要になると言われて、
嬉しそうである。
何がそんなに嬉しいのか。
無表情なはずなのに、なんか俺を見る目が
新しいおもちゃを手に入れた子供のような
キラキラした目に見えるのは気のせいでしょうか?
あわよくは、スリさんに止めてもらおうと思ったのにな……。
まあ、無理だってことは薄々分かってたけどね。
これは避けられるような戦いではないようです。
戦うことは決定事項なので、
覚悟を決めて臨戦態勢をとる。
トッポさんの様子を伺うと…
滲んでいる?
ぶれている?
いや細かく振動しているのか。
ブーンという低い振動。
徐々に高い音に変わる。
そして、音が消えた。
姿までも消えた?
フン………
かすかな振動音。
まずい?!
即座に半身になり、右にずれる。
が、躱し遅れた左腕の肘から先が消える。
新たなクローンには俺のレベルが上がったおかげで、
生命力が宿った。
しかし、それによって耐久力が驚異的に増したはずの
クローンの体が、いとも簡単に消し飛んだ。
「どうやら僕の攻撃と君の体は相性がいいようだね。
まあ、君からすれば最悪だ。」
「左腕が再生されない?!」
いや徐々には再生しているけど、
何かが阻害しているようで、
いつものように即座に再生されない。
「なんだ?!」
「聖白石を使って魔力の流れを鎮め
クローンの結合を防いだんだよ。」
「じゃあこれは……。」
「最初ここにたどり着いた時、彫像に切られただろ?
でも、切られたはずなのに、
ピンピンしてるのを見てね。
だから、こういう攻撃が有効なんじゃないかって
閃いたんだ!」
よく見ている。
クローンにそんな弱点があったなんて。
こっちは再生できること前提で戦ってるから、
多少のダメージは無視して戦える。
そもそも、そこまでダメージを負う事も少ない。
そうなると、戦い方がどうしても雑になる。
さらに言えば、本体にダメージがないのだから、
ノーリスクなのだ。
そんなことで、緊張感、真剣勝負、
紙一重の戦いとは無縁。
集中。先読み。駆け引き。
どうしても相手に比べて劣ってしまう。
それにしても楽しそうだ。
「そんな防御力無視の攻撃なんて反則じゃないか!
しかも見えないなんて!」
索敵にすら引っかからないし。
打つ手がない……。
フン………
また来た。
とりあえずこれに当たっちゃいけない。
フン……
フン……
3方向?!
超高速のバックステップ!!
フーン………
いやだめだ追いかけてくる。
スキル、『不在』。
「あれ?消えた!
僕と同じ技術?
さすが魔王っていうところか……。」
ごめんなさい全然違います。
クローンのスキルです。
理屈なんか知りません。
「これはちょっとプライドを傷つけられちゃったな。
僕の長年の研究がこんなに簡単に見破られるなんてね。」
トッポさんはかなり悔しそうだ。
だから違うんですごめんなさい。
トッポさんの研究の成果がそんなに簡単に
わかるとは思ってません。
「無音旋風」
キーン
不快な高音が鼓膜に響く。
「姿を隠すことはできても、
全域を攻撃されてしまったらひとたまりもないよね。」
そういう戦法か!ダンテ理論ってやつですな。
非常に厄介です。
だって索敵にすら引っかからないから
どうしようも出来ない。
せめて索敵に引っかかってくれれば。
振動によって出来た衝撃波で
粉塵が僅かに風に舞っている。
それによって薄らと気配を感じることは出来る。
でも、攻撃の軌道を読むとか、
俺の浅い経験で、出来るはずもない。
しかも、見るからに刃は10本以上だ。
粉塵か。これは使えるかも。
邪蝕石を放り投げる。
見えない刃の衝撃に切り刻まれ
粉塵と化していく邪蝕石。
瞬く間に空間全体に広がり。
見えた!!
邪蝕石は索敵に反応する。
撒き散らしたり、囮に使ったり。
そんな敵を撹乱する使い方を考えていたけど、
粉塵を空間全体に満たすことで、
索敵に引っ掛からない空間が浮かび上がってくる。
無数の振動する刃がいくら早かろうとも、
もはや見える刃を躱すことは容易い。
無数の刃をかいくぐり本体へと接近する。
「粉々にした邪蝕石と刃の振動を利用するなんてね。
これで索敵に引っかかるわけだ。」
消滅した左腕も再生を終えて万全の状態だ!
背負ったロングソードを引き抜き切り伏せる!
が、ロングソードが消え失せる…!
「へへへ。見たかい⁉
この技術は攻防一体。
振動を全身に纏うことで、あらゆる攻撃を
防ぐことができる刃の鎧になるんだ。」
なにそれ、無敵じゃん!
気がつくと、とても残念そうに聖母竜がこちらを見ていた。
こんな僕に何を期待していたのでしょうか?
でもこのまま負けって言うのもなんだか悔しいな。
あと一息何かひらめきそうな気がするんだけど……。
「考える時間が必要かい?
でも戦いの最中にゆっくり考えさせるバカもいないけどね。」
二振りの大剣を振り回しながら、灰色の彫像が迫る。
こっちの攻撃は効かず、相手の一撃を貰ったら、
短時間での再生は不可能。
なんか、もう詰んでない?
ダメだ、諦めるな。
トッポさんの攻撃を大きく躱しながら考える。
意外と大振り。
飛んでくる刃と違い、本体は無駄な動きが多い。
その分、攻撃が読みやすい。
いや、全然早いんだけど。
ドレイクのサルバさんと比べれば、剣術の腕は雲泥の差だ。
徐々に躱す動作を小さくする。
チリッ…。
あ、剣先に触れなくても微妙に振動してるから、削られる。
と言うか、そこまでギリギリで躱せるのか、俺。
そこまで近づいている自分に驚きつつ、さらに集中。
きっとこれはサルバさんとの剣術稽古の賜物だ。
でもこのままだと勝負つかないな。
そうだな、俺と相性がいいって言ってたけど……、
トッポさんとそういう大人の関係になった覚えはない。
違う違うそうじゃない!
トッポさんの彫像の放魔石は確か魔力を取り込んで
力に変える石だったはず……。
おそらくこっちの魔力を取り込んで
それを何かの力に変えて、
こちらを攻撃してきたんじゃないだろうか。
つまり魔力を吸収させなければいいということか。
俺はもう一度ロングソードを生成する。
再び刃渡り120cmの白く輝く剣が姿を表した。
「凄いな、その体捌き。
全く当たる気がしないよ。
さすが魔王様ってところだね。
しかもその剣、さっきと同じに見えるけど、
なにか考えがあるのかな?
なんだかんだ言って全然負ける気なんかないんだから。
でもね、それを許すほどこっちだって甘くないよ。
こうなったら やられる前にやってしまえだ。」
前方からトッポさんが、そして全方向から音の刃が迫る。
とりあえずこの攻撃をしのがないと。
俺は握っていた剣を背負い、両手を地面に押し当てた。
読んで頂き、ありがとうございます。




