第101話 以心伝心
どうやら俺は、五大竜を生み出した
大魔王ノヴァと同等の能力を持っているようです。
五大竜の一体、
聖母竜スリヴァが言うんだから間違いないのだろう。
「我らの始祖は、肉体と精神と魂を自在に操り、
我らを誕生させた。
まさに神と呼ぶべき力を持つ大魔王であった。」
「ヒトシ、その白き肉体はどうやって動かしているんだい?魂を移すのかい?」
「いいえ、この肉体には
生命力と魔力しか込められていません。操作したいクローンに意識を移すことで動かします。
それ以外のクローンは、精神と言えるかどうかはわかりませんが、
自律思考と言う俺の思考に基づいて
単独行動を自動で取るようになっています。
単独と言っても、クローン同士の思考は共有されていて、
俺の意思のもとに行動しています。
もちろん俺にもそれは共有されます。
なので自我と呼ばれるものがあるのかどうか。」
(我々に自我は存在しません)
「あ、えっと、自我はないそうです。」
俺の妙な言い直しにトッポさんが尋ねる。
「もしかして、今の一瞬でクローンと
コンタクトをとったのかい?」
「そうですね、クローンが勝手に教えてくれました。
俺の思考や知識をこうやって補足してくれるんです。
常に繋がってる感じです。
だからクローンの自律思考を沢山集めて
高速な思考も行うことができます。
いろんなことを高速で処理することができるんです。」
「高速思考、思考加速…。
聞いたことのあるスキルだね。
かつての大魔導が、そのスキルを駆使して、
大陸中を駆け回り、戦乱を沈めたという逸話もある。
君はいったいどれだけの能力を有しているんだい?」
多分、大魔道の思考加速とは根本的に違うんだろうけど…。
それでもそんなすごいスキルだったのか。
使いこなせないわけだぜ。
…はい。
頑張ります。
「他のクローンと言っていたけど、いったい何体のクローンを
使役しているんだい?」
「えーと今は6321体ですね。
もちろん全部が全部このクローンのように
大量の魔力や優れた戦闘能力を、
付加してる訳じゃないですけど。
ちなみに、最大生成可能数は20万体です。」
トッポさんとスリさんは言葉を失って呆然としていた。
おーい、戻ってきてくださーい。
「あの、大丈夫ですか?」
「…あ、あぁ。
すまない。
信じられない数だったから、
驚いてしまった。
まさかそこまで大量のクローンがいるだなんて。」
「ええ、さすがの大魔王ノヴァでも、
6000体を超える生成は行えません。
それこそどれ程の魔力が必要になるか、
見当もつきません。」
「そもそも、大魔王ノヴァと俺の能力は
根本的に違うんです。
大魔王は、生命を誕生させることが出来た。
それは、ひとつの個性を持って生まれた命。
俺のクローンは、俺の分身体。
どれだけ個性的な能力をつけようと、
俺の一部に過ぎないんです。」
「じゃあ、本当に全てが君自身なんだね。
それって、逆にすごい事じゃないかな?」
そうかな?
生命を生み出せる方が、すごいと思うけど。
「そんなことは無いと思います。
生命を生み出す能力。
そこには、自分の想像すらできない、
未知の未来が存在しているんですから。」
それに命を生み出した責任も。
「確かに!
やっぱり君は面白い。」
「ちなみにですけど、
大体このクローンと同じ力を持った個体は
2000体くらいいます。
後は探索や別の仕事に特化した、
魔力と生命力を抑えた個体が4000体くらいですね。」
ポカーン。ですか、本日2度目のポカーンですか。
「まさか…。そんなはずは…。
一体どこからそんなに大量の魔力を
手に入れてるって言うんだい?
大体にして君は人間だ。
しかもそんなに若くして、
これほどの力を持つなんて、
全く理屈が分からないよ。」
「ダンジョンです。」
この一言でトッポさんは理解したようだ。
「そうか!
生命力も魔力も吸収できるんだったね。
しかも、不死身のクローンが何千体もいて、
それが一斉に魔力を集めてるんだから。
納得だよ。」
「その通りです。
大体15ヶ所くらいのダンジョンを
所有しているので、かなりの量だと思います。
大きいダンジョンだと、
1日に1000万ほどの魔力と生命力を
手に入れることができますし。」
「は!?
ねぇ、聞いたかいスリ?
君は1日にどれくらいの魔力を生成できる?
「おおよそ100万くらい。」
「いや、聞けば聞くほど
僕らの想像の遥か上を行く答えが帰ってくる。
つまり、その魔力と生命力を使って
日々クローンを増やし続けてるわけだ。
もっと聞いてもいいかな?
もちろん答えたくなかったら答えなくても構わない。」
「はい、何でしょう?」
「君のここに来た目的は何なんだい?」
目的?
興味本位、面白そうな素材があるから手に入れたい。ってのが目的なんだけど。
それもこれも根本的には…、
「えっと、世界征服です。」
「そうか。魔王だもんね。
魔王も大変だ。」
それだけ?
「何も言わないんですか?
たとえば、ここの聖白石を手に入れることが目的。
そして古代の技術を持ったトッポさんと、聖母竜の力を
たまたま見つけて利用しようとしている。
世界征服のために。」
「ははは!
なんでいきなりそんなことを言い出したんだい?」
「いや、ここに来る目的としては、
それが一番あてはまってるし、
理にかなってますから。」
「たしかにね。
でもそれは有り得ないね。
君がこれを悪用するとは思えない。」
なんでそう言いきれるのか。
「まあ、そんな冗談は置いておいて。
それにしても興味があるのが、
君の持っているダンジョンのことだよ。
一体どういうダンジョンなんだい?」
話はサラッと流され興味は次の話題に移った。
「はい。
一番大きいのは世界樹の森ですね。
一応、攻略は済んでいて、
一日で全魔力を回収してます。」
「聞いたかいスリ!
あの不可侵の神樹の領域。
それを所有してるんだってよ!」
「ええ、ちゃんと聞こえてる。
それが何を意味するのかもね。」
スリさんの雰囲気が変わった。
警戒されてる?
「所有というか、管理。ですね。
信仰を失い弱ってた世界樹に力を与え、
その代わりに森の魔力をもらっているんです。」
「確かにそうね。
五大竜の時代、
世界樹の信仰は急速に失われていた。
信仰が失われたまま長い年月が経ち
世界樹は力を失ったのね。」
「はい。
と言っても、俺ができることなんて、
微々たるものですけどね。」
「それでも、世界樹の枯衰は避けられたのでしょ?」
「そうですね。
俺が生きてる間には、元の姿に戻ることはないでしょうけど。」
「さすが魔王ってところだね。」
トッポさんはまたも感心し切りだ。
「今は国が放置しているダンジョンも多くて、
俺がそれを勝手に拡張して
ダンジョンマスターの願いを叶えているんです。」
「ダンジョンマスターの願い?
てことはつまり、君はダンジョンマスターを
従える力を持っているってこと?」
「うーん、従えるというかダンジョンマスター
を倒して魔結晶を手に入れます。
そして、魔結晶の中に残っているダンジョンマスターの記憶から
クローンを生成して新たなダンジョンマスターにします。」
「あのね、ダンジョンの所有者は
ダンジョン生成の時に決まって、
ダンジョンが滅びるまで変わることはないんだよ。」
「でも、ダンジョンマスターを倒した時に、
魔結晶もらいましたよ?
だからその所有権を俺に移して
ダンジョンマスターになりました。」
「いや、そんな話は聞いたことはない。
僕だってダンジョンの研究くらいしてる。」
「ダンジョンはね、ダンジョンマスター固有の魔力によって生成されているの。
簡単に人に譲ったりなんてことは出来ないはずなのよ。」
スリさんも、この現象がありえないことだと言う。
「あの、俺大丈夫なんでしょうか?」
そんな話を聞くと、とたんに不安になる…、
ほら、心配性の魔王様が現れましたよ。
「今のところ問題ないんだろ?
それにそのクローンとかいう
特殊なスキルが原因かもしれない。」
「そうね。
もしかしたら、ダンジョンの謎に迫る
きっかけになるかもしれないわ。」
「でもさ、そんなことよりさ。」
若干トッポさんの声が
ワクワクしているように聞こえるのは
俺だけでしょうか?
「そうね、私もそう思っていたところ。」
以心伝心ですね。仲がおよろしいことで。
あー、なんとなくその以心伝心。
俺にも伝わってきました。
俺にとってはあんまりいい話じゃなさそうだ。
「あ、じゃあそろそろ……。」
「うん!それじゃあここで一つ、
魔王様と手合わせしてみよっかな!」
よっかな!って、とっても楽しそうですね。
「この彫像たちがただの彫像じゃないことは
分かっているよね?」
いいえ、なんにも知りません。
なんにも見てません。
私はここまで真っ直ぐにただ歩いてきました。
トッポさん達が意外と好戦的なのに驚きつつ
俺は戦いの準備を整えた。
……はぁ。




