第100話 大魔王ノヴァ
ここは王都から離れた、地下神殿。
トッポさんに置いてけぼりを食らってる俺は、
こんな地下奥深くで一人孤独を感じています。
「あの、トッポさん?」
「あぁ、すまない。
これですべての辻褄があったんだよ。
ドナルがどうして僕を遠ざけたがったかがね。」
どうやらドナルさんは、
魔王になる時に理由あってトッポさんを遠ざけたようだ。
「話して、もいいかな?」
「勿論です。ぜひ、聞かせてください。」
「ありがとう。
魔王は絶望を集め力に変えることが出来る。
災厄、グウェンもね、同質の力を持っているんだ。
つまり、グウェンが食らうはずの絶望を
ドナルが先に喰らってしまおうという魂胆さ。」
「でも、絶望を食らうって。どうやって。」
「そうだね。絶望を喰らうには
まず絶望を生み出さなくてはならない。
手っ取り早いのは、今あるものを、破壊すること。
平和、安寧、幸福、生命。
希望をことごとく打ち砕くことだね。」
「それって…。」
「それが、魔王さ。
ドナルがそんな事をするなんて想像もつかないけどね。」
(賢王ドナルの乱心、古文書にはそう記されていました。)
古文書?そんなの読んだことあったっけ?
(ギルド書庫の文献や、ダンジョン、遺跡などから発見した古文書を解析して、ライブラリーに記録してあります。)
あれ、そんな指示出したっけ?
(マスターのために我々が独自で情報収集しております。)
クローンさん。 自立しすぎ!
いつの間にか、商会立ち上げて、これが今月の利益です。
なんて始まらないよね!?
(実生活に影響を及ぼす恐れのある行動は、例えそれがマスターの利益に繋がることであったとしても、許可なく行うことはありません。)
うん、優秀すぎて涙があふれちゃいそう。
(続けます。)
あ、はい。
(魔王となったドナルは、腹心たちを引連れ、
竜帝に反旗を翻しました。
反対するブルンペイの家臣や、
貴族たちをことごとく粛清。
容赦のない冷徹な行動によってあっという間に
反抗勢力をひねり潰し、竜帝に宣戦布告しました。
ブルンペイの絶望を手に入れたドナルは
魔王の能力を使い腹心たちに絶望の力を分け与えると、
各地に侵攻を始めます。
絶望を集める事により、
人とは隔絶した異質の力を持っていた
ドナルと腹心たちはあっという間に
各都市の中枢を破壊し、力を知らしめ、
絶望を集めていきます。
それほど魔王の力は強大だったのです。
その力は竜帝を遥かに凌ぐ力となり、
竜帝を滅ぼしました。
竜帝を滅ぼすことによって世界を絶望で満たし、
更なる力を手に入れました。
しかし、闇が濃くなればなるほど
光もまた強く輝く。
絶望の前に現れたのは、
希望の勇者でした。
希望の勇者は精霊の力を使い、
各地で希望の火をともし力を集め
絶望の魔王を討伐しました。)
え?!ドナルさん倒されちゃってるよ?!
物語の辻褄合わなくなっちゃうよ!
(続けます。)
あ、はい。
どうぞ…。
クローンさん、とても冷静です。
(ドナルが倒された後、
世界は人間によって治められました。
希望の勇者は人間だったのです。
世界は、絶望と希望の狭間で混沌としながらも、
人間主導で繁栄を再開しました。
しかしそれもつかの間、
絶望の魔王が復活し、
勇者は敗れさり完全な絶望が世界をつつみました。
その直後、本当の絶望が姿を現します。
グウェンです。
勇者を倒し、最大限の絶望を集めた魔王は
満を持して、グウェンの前に立ちはだかります。
まるで全てはこの時のため、とでも言わんばかりに。
激しい戦いが幾日も繰り返され、
世界は荒廃していきました。
グウェンは、ドナルが疲弊する様を、
世界が破壊されるさまを、
ゆっくりと楽しむように戦い続けました。
それほどに、力の差は歴然でした。
しかし、そこに現れたのは希望の勇者。
ドナルと協力して、グウェンの封印を試み、
見事封印することに成功しました。
しかし、その後勇者と魔王は歴史の中には
現れることはありませんでした。)
クローンの話をそのままトッポさんに伝える。
「そうか、彼はドナルの協力者になってくれたんだね。」
「トッポさんも希望の勇者を知っているんですか?」
「うん、知ってるどころか、
僕のこの体に魂を移し替えてくれたのは彼だからね。
魂魄の秘術を知り、操ることが出来る彼なら、
必ずドナルの力になると思ってね。
協力を依頼したんだよ。」
「つまり、勇者と魔王の戦いは、
グウェンを倒すための、全ては策略だったわけですね。」
「そう、そして彼らは見事にやり遂げたんだ!
そうか!そうなんだ!」
トッポさんは興奮し切りだった。
「悪いね。なんだか外の人間と話すのが久々過ぎて。
一人ではないんだけどね。
あぁ、そうだ話に夢中で、紹介するのを忘れていたよ。
彼女にもこのことを知らせてやらなきゃ!
スリ、大丈夫?紹介したいから、姿を見せてよ。」
神殿の奥には真っ白で、取っ手もない扉があった。
トッポさんが、その扉の方に向かって声をかけると、
扉は音もなく開き、
奥から全身真っ白の髪の長い美しい女性が現れた。
肌、上、瞳、衣服すべてが真っ白。
表情もなく、無機質な印象だ。
「驚いたかい?僕も驚いたよ。
まるでスリと同じような姿なんだから。」
そう、これってまるでクローンだ。
「トッポ、久々の客人に高揚するのはわかるけど、
少し、落ち着いたら?」
表情は変わらないが、呆れた声に混じって、
優しさを感じる。
見た目に反して、とても温かい声だ。
「だって彼、とても聞き上手なんだ、
普通なら、やな顔や、呆れた顔をされるのに、
嫌な顔ひとつしないんだよ。」
「…………。」
スリと呼ばれた女性の表情は読み取れないが、
何が言いたいかはなんとなく伝わってきた。
ていうかトッポさん、
話が長くて飽きられてるの自覚してるんですね。
きっと前話で相当数の読者さんが、
「うわ〜、文章長げ〜」
って思ったに違いない。
「そうそう、彼女の紹介だったね。
彼女は聖母龍スリヴァ、の精神体。
彼女も希望の勇者に救われた1人さ。
どういうわけか、魂も肉体も持たないのに
自我を持ち、目的も持っているんだ。
不思議だろ?」
「目的って?」
「彫像を作ること。
元々彼女は、魔力を垂れ流し、
そこから魔物が生まれていたようだけど、
それを利用して鉱物に魔力を宿らせていたんだ。
そしたら、いつからか彫像を作り始めてね。
止める理由もないし、僕は彼女の彫像が大好きでね。
そのまま作らせているんだ。」
「それにしても久々のお客様は奇妙な魔王様ね。」
「魔王?彼が?
なんてこった…。
なぜ、名乗らなかった?
隠していたのか、それとも、騙す気でいたのか…。」
「そんな、騙すだなんて。
そもそも、魔王って名乗る必要ありました?
というか、恥ずかしくてあんまり名乗りたくない…。」
「魔王が?恥ずかしい?
あはは、聞いたかいスリ!
魔王が恥ずかしいだって!
初めて聞いたよそんなセリフ!」
トッポさんは笑いが止まらないようだった。
「トッポ。彼は、我ら五大竜にも匹敵する
魔力の持ち主よ。
分身体とはいえ、人間が持ち得て良い能力の
限界を遥かに超えているわ。
そんな者がなんの気負いも覇気もなく
この場を訪れている。」
「それは恐ろしくも興味深い話だ」
「と言うかですね、
まだ俺名乗らせてもらってないんですけど。」
「あれ?そうだっけ?
確かに、君の名前も知らないよ。」
はい、魔王を名乗るな乗らない以前の問題です。
どっかの話好きのせいで危うく無礼者扱いされるとこです。
「トッポの悪い癖。いつも自分のことばかり。」
「悪かったよ。」
トッポさんは反省しているようだった。
「いや、興味が無いわけじゃないんだよ。
むしろ興味しかないね。
その体のこととか、ここを訪れた目的とか。
魔王のこととか、それがどうして恥ずかしいのか。
あ、あとはドナルの…。」
「トッポ…。」
「あ、ごめん。」
ほんと、話好き。
「じゃあ、自己紹介させてもらいますね。
俺の名前はヒトシです。
なんだかんだあって、魔王を名乗らせてもらってます。
名乗らされてます?
どっちていいか。
今のこの白い身体は、クローンというスキルです。」
「やっぱりスキルなんだね!
それはどう…。」
しゃべり出したトッポさんをスリさんが手で制する。
クローンについて説明していると、
2人の雰囲気が変わった。
あれ?俺変な事言ったかな?
ひとしきり説明し終わると、スリさんがつぶやく。
「始祖。」
「うん。」
あの、2人で納得されても困ります。
こんな時は、あれだ!
ヘイシリ!ゾルタクスゼイ…。
じゃなかった。始祖について教えて。
(始祖。五大竜の生みの親、
大魔王ノヴァの事かと思われます。
一時期世界を支配していましたが、
五大竜を生み出した後、
歴史からその姿を消しています。)
OKありがとう。説明不足もこれで安心。
便利な時代です。
「で、その始祖が、俺とどんな関係が?」
「始祖、大魔王ノヴァと、ヒトシの能力が似ているの。」
まさか、俺と同じ能力の魔王が存在していたなんて。
「スリが言う膨大な魔力。納得だよ。」
スキルクローンとは、大魔王と同じ能力なそうな。
めでたしめでたし。




