第99話 ブルンペイの研究者
-地下神殿三階層際奥-
灰色の放魔石でできた彫像から出てきた、
樹霊術でできた人形の中に魂を入れたトッポさんと
会話しているわけですが、自分で言っといて意味が分かりません。
トッポさんは竜帝が滅びたと知ると無言になってしまった。
…しばらく黙りこんでいたトッポさんが口を開く。
「ドナルは元気にしてるか?」
さっきの饒舌さとはうってかわって、
すっかり言葉数が減ってしまったトッポさんが聞いた。
「不死の体になったので病気とかはしないと思うんですけど。」
「そうか。やっぱりそうなっちゃったんだね。
彼はとても立派な王様だったよ。」
「ドナルさん王様だったんですね。長とは言ってたけど。」
「ああ、彼は自分のことを自ら王と名乗ることはないよ。
特に私的な場ではね。一度も聞いたことはないな。」
確かに、ドナルさんと話していて感じたことがある。
「うん、確かに、技術屋の臭いがしました。」
「やっぱり君は面白いね。僕ともドナルともきっと気が合うよ。」
トッポさんはさっきよりもさらに嬉しそうな声で言った。
「実はドナルさんから技術提供の約束ももらったんです。」
「そうかそうか。ブルンペイの技術を手にいれたのか。
あそこには僕の研究した技術もあるから、
わからないことがあれば何でも聞いてくれよ!」
「もしかしてあのゴーレム達は人形師のトッポさんの技術?」
「そうだよ!もしかしてまだ動いてるのかい?!」
「ダンジョンの一部としてですけどね。
それにしてもすごい合理的で、効率的な考え方ですよね。」
「そうだろ?鉱山からとれる素材を錬成して、
染み出してくる魔力を動力にする。
人間はそれをただ管理するだけ。
あれで採掘作業は安全で効率的なものになったんだよ。
なるほどなるほど、ゴーレムはそのままダンジョンに取り込まれたのか。
それはまた興味深い。」
「でもここもダンジョンですよね。
それくらいの研究はすでに済んでるんじゃないですか?」
「いや、厳密にはダンジョンではないんだ。
聖母竜の強大な精神から産み出される生命力と魔力を使って作り上げた神殿なんだよ。
彼女は聖母の名の通り神素と魔素を取り込み
生命力と、魔力を「産み出す」ことができる存在なんだ。」
「神素に、魔素?」
「あれ、知らないのかい?
竜帝が滅びて、時代も退行してしまったみたいだね。
ブルンペイが失われた時点で仕方ない話か。
そうそう、神素に魔素だったね。
その名の通り、魔素は魔力の素で、
神素は大袈裟だけど、神の力。
この世のあらゆる物質の素になる力だよ。
つまり生命力だね。これは僕とドナルが見つけたんだよ。
神素と魔素の発見によって、ブルンペイの地位はさらに高まって
まさに世界の中心とでも言うべき繁栄が訪れたんだ。
まあ、僕もドナルも技術屋だから、たいして興味はなかったけどね。
それでもドナルは王様だったから国や技術を守るので手一杯になっちゃってね。
いつも、「下らない」ってボヤいてたよ。
僕はそれに比べて自由の身だからね。
研究で手に入れたたくさんの資金でこの神殿を探し当て、
手に入れた聖母竜の精神体を使って、研究を続けていたわけさ。」
「二人ともすごい研究者だったんですね。
世界の中心人物だった訳じゃないですか。」
「うーん、そうなるんだよね。
でもね、僕達は知っていた。
この繁栄が仕組まれたものだってね。」
「仕組まれた?
まさか、誰も知らないはずの神素と魔素を
発見することを仕組める者なんて…。」
俺の頭にはある者の存在がよぎった。
「神様だと思ったかい?フフフ、違うよ。
神素と魔素は、その仕組んだやつを出し抜くために、
僕とドナルが必死で研究した成果さ。
でもね、この研究が完成したとき、ドナルは僕を切り捨てた。
お前はもう用済みだと。
わかってたよ。王としてこれから起こること全てを
一人で背負うつもりだったんだ。
王さまから言われたら従うしかないよね。
ドナルの気持ちもわかってたし。素直に従ったよ。
研究中だった、聖白石と邪黒石の資料を渡して、僕は国を去ったんだ。
煩わしいものから解放されたこともあってね。
しばらく好き放題やってたんだけど、ある時噂を聞いてね。
西にある巨人族の神殿跡地。そこに祀られていた御神体が聖母竜の亡骸だったって言うんだよ。かつての五大竜の。
科学と技術の全盛の時代。
進歩の無い巨人族がどうしてブルンペイと渡り合えたのか。
納得と同時に、恐怖したね。
大昔に滅んだ竜の、しかもただの死体が、
ブルンペイの技術力同等の力を持っていたんだから。
竜帝はそれに脅威を感じ世界を統一した後、まず巨人の討伐を命じた。
しかし、たかだかひとつの部族と世界を統べる王が対等。
それを考えるとあまりにも突出した力だ。
災厄グウェン。最強の五大竜を滅した邪竜。そう考えた時僕達は奴の力を見誤っていたと気がついた。
僕達がいくら足掻こうとも心血を注ぎ研究を繰り返そうとも、
容易くそのすべてをひっくり返す力を持っていたんだ。
僕達はグウェンの舌の上で必死に美味しく美味しく
繁栄の陰で絶望の果実を実らせていたんだ。
僕は絶望した。
もちろんドナルにも伝えたよ。何て言ったと思う?
「面白い。」だよ?
頭がおかしくなったと思ったね。
でも違った。ドナルはその先を考えていたのさ。
巨人族の謎にも薄々気づいていたんだろ。
その為にガルガドの麓にある古代龍人たちの死都。
死者の都の探索も進めていたし、古い文献も研究していた。
そして、今。聖母竜が手元にある。
意図がわかった僕は思わずドナルに飛び付いたよ。
だけどドナルは笑わなかった。
僕をそっと下ろし。お前は用済みだ。と。
聖母竜を奪われ神殿に一人取り残された僕は10年無意味な時を過ごした。
そんなある日、聖母竜が帰ってきた。役目を終えたと。用済みになった、と。
きっとドナルは災厄を倒す術をてに入れたんだと理解した。
聖母竜の力と、僕たちの力が合わさって新たな力が生まれたんだよ。」
「じゃあ封印が成功したってことは、その新たな力が災厄を上回ったんですね。」
「だったらよかったんだけどね。
結局異界に封印するしかなかったみたいだね。
多大な犠牲を払ってね。」
「ブルンペイも竜帝も滅んじゃったんですもんね。」
ああ、そのようだね。
「世界を滅ぼしたのは邪竜ではなく、絶望の魔王ドナルです。」
クローンが、思わぬ事実を告げた。
「ドナルさんが…、魔王?」
俺は驚きのあまり思わず声に出してしまった。
「そういうことかドナル…。
道理で僕を遠ざけたがったわけだ。
ドナル、君はどこまで先を読んでいたんだい?」
虚空に語りかけるトッポさん…。
一人で納得してるし。俺はおいてけぼりです。




