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戦い

「くっ!」

 大木のようなドラゴンの腕がクレオを襲う。後ろに跳んで避けると、自分の立っていた床が目の前で粘土のように容易く抉られる。掠っただけで致命傷になることは明らかだ。死角に廻りこみながら幾度も剣で応戦するが、鱗にすら傷をつけられない。


 (まずい、このままじゃ・・・)


 度重なる斬撃に、先に限界に達したのは剣の方だった、刃こぼれが亀裂に変わり、攻撃を受けることすら難しくなってくると、自然と腰にある銀の剣の方へと意識が移った。


 ゴオォォォ・・・


 不意に頭上から不穏な音が響いた。見ると、ドラゴンの牙の隙間から青白い炎がちろちろと覗いている。

 「あぶねえ!」

  声とともにクレオの前に踊り出たのは例の兜の剣士、アークだ。ドラゴンに向けて手をかざし、叫ぶ。


 「水の護りよ!『静かなる水面』!」


 瞬間、薄い水の膜が二人を包んだ。空気中の水分を凝固させて防壁となす中級魔法だ。

神代の時代の大戦で強力な魔法のほとんどが世界から姿を消した今、これほど完璧に具現化した魔法を目にすることは稀である。


(まさか、こいつも・・・?)


クレオが息を呑むと、次の瞬間頭上から溶岩のような炎が降り注いだ。

「ぐ・・・っ!」

 アークの手の上で水の膜が音を立てて沸騰する。後ろにいるクレオにも凄まじい熱と圧力が襲い掛かった。アークが苦悶の表情で「もたねぇ・・・早く逃げ・・・」と呻くのが聞こえたが、次の瞬間無常にも水の膜の最後の一層が蒸発して消えた。

 業火の洗礼を受ける直前、クレオがアークの腰を掴んで後ろに跳んでいなければ、二人とも灰すら残らなかっただろう。余波に煽られてあちこちに火傷を負ったが、それでも壇上の床の石のようにドロドロに溶けてしまうことだけは免れた。

 「熱・・・っ!」

  床に投げ出されたアークがくぐもった悲鳴を上げた。炎を受けた兜が熱を持って顔を焼いているようだ。「大丈夫か!?」と強引に兜を外すと、中から眩い金髪が零れ落ちる。額

に火傷を追った顔は、やはり自分といくつも変わらぬ少年のもの。


 ドオォォン


再び響いた轟音に顔を上げると、炎で焼け爛れた床をものともせず踏みしめてドラゴン

が迫っていた。足元には意識の混濁したアークが倒れている。彼を抱えて避けることは不可能だ。


 (シルヴィー・・・力を・・・)


 クレオは銀の剣に手をかけた。かつてシルヴィーの持ち物であった、「風のフォルセウス」だ。余興のような武闘会で使う気にはなれなかった物だが、今目の前には恐ろしい魔物と、身を挺して自分を庇ってくれた人間がいる。僅かに迷う心を振り切り、鞘から刃を抜こうとした、その時。

 「貫け紫電!『雷の鎚』!」

 後方から響いた声とともに、落雷がドラゴンを襲った。


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