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混乱

 「ばかな、本物か・・・?」


 全身に鳥肌が立つのを感じ、ルイが呻いた。サーディンの後ろに控えていたシースは、その声を聞いて貴賓席のテラスから壇上を見下ろした。


 「・・・確かに、伝説のドラゴンの姿そのものだ・・・しかし何故・・・」

 眼鏡のブリッジを中指で押さえ、珍しく動揺を隠せない様子で灰色の目を眇める。


 ドラゴンは、アシード神族がまだこの世界に存在していた神代の頃に生息していたとされる生き物だ。とはいえ、古代の遺跡の壁画等にわずかにその姿が記されているのみで、生きている姿はおろか、化石すら確認されていない。大部分の人間が、神話の中だけに住む架空の生き物だと信じている。そんなものが突然空から現れたとあっては、動揺しない人間の方がおかしいだろう。



 「第一部隊、弓隊、魔導隊は戦闘配備につけ!第三、第四部隊は観客を避難させた後、武闘会場を閉鎖、外の警備に当たっている者と協力して市街の被害を確認せよ!」


 混乱と恐怖で支配された会場に、真っ先に冷静さを取り戻したレギオンの声が響いた。机上の策謀ではシースに遠く及ばないが、戦うべき時には誰よりも冷静に徹することが出

来るのが、レンディア騎士団長たる由縁だ。


 「ジーク、お前は一個中隊を率いて殿下達の避難を。」

 ドラゴンを凝視して固まっていたジークも、レギオンの声に次第に冷静さを取り戻す。

 「分かりました。団長はどうなさるおつもりで?」

 「私はこれより壇上の二人を救出し、あの魔物を討つ。ルイ、援護を頼むぞ。」


 「レギオン・・・!」


 玉座から良く知る声が聞こえた。

 振り向くと、不安をたたえた琥珀色の視線とぶつかる。サーディンと瓜二つの容貌に扮していても、どうしようもなく彼女自身を思わせてしまうそのまなざしから、レギオンは無理矢理目を逸らした。


 「貴方は明日の戴冠式でこの国の王となられるお方。我らレンディア騎士団が、魂と誇りにかけてお守りいたします。どうかこの場からお逃げ下さい。『サーディン殿下』」


 「・・・・。・・・分かった。どうか無事で・・・民達を頼む。」


 ほとんど攫われるかのような勢いで騎士たちに連れていかれる背中を見送ると、レギオンは感情を消し去った顔で傍らの槍を引き寄せた。


 身の丈ほどもある巨大な槍だ。円錐を長く引き伸ばしたような刃部も、それに連なる持ち手も、すべてが眩い銀色。至る所に施された緻密な彫刻のせいか、巨体でありながらどこか優美な印象だ。


 握る手に力を込める。そこから流れ込む力を、確かに感じる。


 「使うのか、レギオン。」

 緊張した面持ちでシースが声をかけた。

 「分かっていると思うが、これは罠だ。力は隠して戦うんだ。特に『失われし魔法』は。」

 「・・・伝説では神族とまともに渡り合っていたという魔物だ。人間が使える程度の魔法で倒せるとは思えん。」

 「そうだ、だから罠なんだ。ドラゴンを倒せる者は『神の子』・・つまり次の標的だ。」


 眉間に皴を寄せ、苦いため息をレギオンはついた。ごくまれに、こんな時に、自分が何の身分もない人間ではないことを恨む。


 「・・・もし私が次の標的になった時は、この国を離れればいいだけのことだ。」


 「レギオン・・・」

 「力を隠し、民を見殺しにしながら生き延びれば、いつか陛下を殺した元凶のもとへ辿り着けるかも知れん。だが、それは国を護ったとは言うまい。見捨てられた民は、二度とレンディアの土を踏もうとはしないだろう。」


 ルイに出撃の合図を送って踵を返すレギオンの背に、肩をすくめてシースが呟いた。薄い唇には諦めの色濃い笑みが浮かんでいる。



 「やれやれ、予想を裏切らない返答だ・・・。」






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