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闇の解放

  レンディア国王、バハラム=エル=ド=レンディアは血塗られた剣を見て笑った。祭壇に祭られている鏡に恍惚とした顔を写し、この世の者ならざる不気味さを漂わせている。


 「・・・ち、父上・・・・!」


 地に伏して呻く青年・・・レンディア国王子、サーディンは背を這う恐怖に身をすくませずにはいられなかった。老いてなお賢王として名を轟かせる父が、まるで別人のように禍々しいものに見えたのだ。最近では病で床に伏しがちだったのが嘘のように、全身から生気が満ち溢れている。

 (いや・・・)

 サーディンは秀麗な眉を歪め、先刻他ならぬ父の手で無惨に貫かれた腹部を押さえた。

 (これはもはや『邪気』・・・だ・・・いつもの父上ではない・・・。)

 腹部からはおびただしい血が流れ、緋色の絨毯に黒い染みを広げていた。自分の体から、血液とともに急速に体温が奪われていくのを感じる。

 「父上・・・目を・・・覚まして下さい・・・一体なぜ・・・。」

 意識が黒い闇に包まれていくのを耐えて声を絞り出す。するとバハラムは、芝居がかったしぐさで振り向くと、濡れたように赤く光る瞳でサーディンを見下ろした。


 「哀れだな人間の国の王子よ。ずっと父親を守ってきたつもりでいたのか。」


 「な・・・に・・・?」

 愉快な玩具を見つけた子供のように、バハラムは笑っている。

 「だが、親子ごっこももう終わりだ。闇の力が最も強まるこの夜に、『神の子』の血を捧

げることによって封印は解かれた。お前は、この日のためだけに生かされて来たのだ。」

 「・・・・・!?」

 失血で弛緩していた体が強張った。その言葉に打ちのめされながらも琥珀色の瞳を見開き、なんとか目の前にいる人間が父である証拠を見つけようとした。だが見れば見るほど、それが父の姿をしただけのおぞましいものだとしか感じられない。

 「父上は・・・お前は父上では・・・ないのか・・・?」

 「あれの魂はもう消えた。」

 「!?」 

 歌うようにバハラムの姿をしたものが囁いた。サーディンの苦しむ姿を楽しむようにゆっくりと一つ一つ言葉を紡いでいく。

 「三年前、遠征先の廃墟の中で、あれは我が封印されている鏡を見つけた。その時に我が闇に魂を喰われたのだ・・。」

 窓の外で銀色の月が禍々しいほどに輝いていた。逆行に浮かぶ黒い影の中、紅い瞳だけが異様な光を宿している。


 「・・・・・長かった・・・・。」


 バハラムの唇が動いて、人ならざるものの言葉を紡ぐ。


 「幾千の時を過ごしたこの身だが、この三年ほど耐え難い月日は無かった。脆弱な人間の皮を被り、浅ましくも下賤な存在を我が子と呼び、共に過ごさねばならないとは。」


 サーディンの手が、じわじわと腰の剣に伸びる。身体の苦痛はもはや限界を超えていたが、これ以上父の姿をした者からこのような言葉を聞きたくなかった。


 (父上・・・。私は、貴方の無念も知らずに三年間も・・・。)


 「だがそれも、今日で終わりだ。さあ、用済みの家畜らしく醜く死ぬがいい。」

 サーディン琥珀の瞳が怒りで見開かれた。剣の柄を握り、自らが流した血を踏み散らすように地を蹴る。

 「貴様・・・!」

 澄んだ音を立てて鞘から抜かれた剣が青白く光り、父の姿をした悪魔の首元に迫る。

 

 

 「お兄様・・・!!」



 銀の刃が相手の命を屠るかと思われた瞬間、背後から悲痛な叫び声が上がった。視界の端に、赤いドレスが幻のように映る。その姿と声が、妹・・・シエラのものであると分かった瞬間、彼の体を鈍い衝撃が切り裂いた。



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