救援
「貫け紫電!『雷の槌』!」
後方から響いた声とともに、落雷がドラゴンを襲った。耳を塞ぎたくなるような咆哮を上げて仰け反る巨体。毒々しいまでに鮮やかな黄色の腹部が目に映る。
(!ここなら・・・!)
鱗のない無防備な腹に斬撃を与えようとクレオが身構えると、その脇を紫の影が通り抜けた。音もなくドラゴンに迫り、クレオが頭に描いていたように銀色の輝きでもってその肉を存分に切り裂く。
「下がっていなさい。」
紫の影は長身の偉丈夫だった。白銀の甲冑の上に纏った濃紫の外套にはレンディア騎士団の紋章が刺繍されている。甲冑の上に外套をつけることが許されるのは騎士団長だけであることをクレオは知る由もなかったが、先程の身のこなしや隙のない佇まいで、相当な実力者であることを悟ることは難しくなかった。
「カ、カイル王子・・・!?」
ほとんど黒に見える茶色の髪を揺らし、ルイがアークの元へ駆け寄った。
「水精よ、慈悲の輝きを。『癒しの水音』・・・」
翳した手甲の手のひらから淡い水色の光が溢れ出すと、照らされたアークの傷がみるみる塞がっていくのが見える。ふと体に力が戻ってくる感じがすると、自分の体のあちこちにあった傷も癒えていた。
「う・・・」
重たげに長い金色の睫毛をあげて括目したアークに、溜息をついてルイが問うた。
「驚きました。一体何だってこんなことに・・・?」
未だ朦朧とする頭を振り、ちらりとレギオンの方を見やってからカイルが呟く。
「・・・悪い、面白半分で、黙って参加したんだ・・・。」
苦し紛れについた罪のない嘘は、しかしルイを欺くことは出来なかった。項垂れるカイルを見つめ、背を向けたレギオンに聞こえるようにわざと大きな声で言葉を紡ぐ。
「やれやれ、この説明は後でゆっくりしてもらいますよ!先程の無様な剣術と、センス
のない偽名のわけもね!」
言うなり剣を抜き放つと、渋面を浮かべてこちらを睨んでいるレギオンの隣に並んだ。
「・・・あと、どうして病気のはずのサーディン殿下が女性になっているのかもいいかげん教えていただけませんかね。」
小声で囁かれた言葉に、レギオンは息を呑む。横を向くとルイがどこかすまなそうに笑
みを浮かべていた。
「・・・気づいてるのは俺とジークだけですけどね。なにせ俺達は筋金入りの『シェラザード様』ファンですから。」
さすがに団長には負けますが。冗談めいたジークの言葉は、ドラゴンの咆哮に掻き消された。
いつも間が空いてしまってすみません。
少しづつ見て下さる方が増えているようで嬉しいです。
色々勉強しながら書いていきますので、どんどんご意見やご感想をお聞かせいただければと思います。