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ジェシガンの魔法薬  作者: Wish
7/13

失敗

「ああ、ジェーン。依頼されていた情報が入っているよ」


 「本当?」


 「もちろん。三日後、地下墓地区域にて亜人の取引を行う。他の顔役にも声をかけていない取引だから潰しても誰も文句を言われる筋合いはない。むしろ潰してくれた方が良い見せしめになる。うってつけの条件だよ」


 「これほどの好条件はそうそう無いわね。バーゼットの紹介じゃなかったらむしろ罠を疑いそうなくらい。OK,ではバーゼット。その取引の詳細を教えてちょうだい」


 ジェーンは懐から銀貨の入った布袋をカウンターに置きながら取引の詳細の情報を入手した。


 ラインの街は遺跡の上にある。当然地下には遺跡が広がっており、冒険者が探求をしているが全容は解明をされていない。


 それでも地表に近い部分は既に探検が済んでおり、初心者の冒険者が腕試しに挑んでみたり、比較的安全な区域ではラインの市民が活用をしているのである。


 地下墓地は土地問題に悩みがちな都市国家の住人が考えついた地下遺跡の活用方法の一つである。墓地を普段から人が入らない地下におく事でその分居住可能空間を広げる事が出来る。


 問題は治安面にある。地下墓地が犯罪の温床になる可能性がある。ラインはその問題を地下墓地の管理を神殿騎士団に置き、定期的に巡回をさせる事で犯罪の温床になる事を防いでいた。


 当然地下墓地の管理は選挙期間中とはいえ滞る事はなく、騎士団が選挙の警備にかり出されて騎士の人手が薄くなっているとしても、神殿の仕事として信頼のおけるギルドに一時委託などがされているはずである。


 大手の組織はその事を把握しており、正攻法を好む神殿騎士よりも邪道、奇襲何でもありの冒険者の方が手強い場合が多いため、ギルドに一時委託をされている期間の方が下手な動きをしづらいという側面もあるのであった。


 そしてその事はジェーンにこの事件に大手の組織が関与をしていないという確信を強くさせた。


 ジェーンは大至急戻るとマージに連絡を取り現場周辺の地図を神殿騎士団から入手をする一方装備を調えた。


 ライジングドラグーンのメンバーはまだ遺跡探索から戻っては来ていない。彼等がいるのなら叩き潰す事も視野に入れられるのにとジェーンはほぞを噛んだが、いない者はしょうがない。


 三日後、現場の取引の影にジェーンの姿があった。いつもの漆黒の衣装に落ち着いた色のマントを羽織って、口元を隠している。その姿で気配を殺し、影の中に潜むとよほど注意していないと見破る事が出来ない。彼女の影の技の師匠であるニンジャ直伝である。


 潜伏をして小一時間経った頃、足音が聞こえた。足跡は複数。武装をしている男が三、四人。非武装が二人。内、一人は素足。


 (どうやら彼等が『商品』を持ってきたみたいね)


 ジェーンは物陰からそっと伺う。武装している男達の得物はそれぞれ剣やナイフ程度。見た目では飛び道具はない。剣も閉鎖空間を意識してか小振りだ。鎧は柔らかく鞣した皮鎧。武装をした男達は剣呑な視線を周囲に走らせ、目を光らせている。


 武装をしていない高級そうな衣服を着ている明らかに彼等の主っぽい男が、有翼族の少年の首につながれた首輪から伸びている鎖を握っている。少年の両手には枷がはまれている。多分、彼が人身売買の商人なのだろう。


 (救助をするには困難ね)


 ジェーンの技量的に鎖につながれた少年を助けながら四人の武装をした男を退けるのは困難がある。男達を退けるか、もしくは鎖から解き放つかどちらかに専念をするのなら出来ない事もないが。


 一行はジェーンから少し離れた地点で止まった。そこが取引の待ち合わせ場所なのだ。


 しばらく後に別の方向から新手が現れた。護衛は同じ四人。武装は同じような小剣とナイフを持っているが、一人が長銃を持っている。


 (銃手か。厄介ね)


 現状を確認をする。こちらの武装は魔導銃が二丁。光源は彼らが持っているカンテラのみ。こちらはいくら暗い所に目が慣れているとはいえ戦闘をする分には心許ない。距離はこちらに到達するまで一二、三歩とみている。


 相手は武装をした男が八人、しかも銃手もいる。技量的にはこちらよりも格下なのは一見して分かるが、数の暴力を埋めることは不可能だ。


 最大限うまくいっても最初の奇襲で二人、いや、三人倒す事はできる。そして到達するまでの間に二人倒す事が出来る。しかし、その後殺到する残り三人はどうしようもない。ましてやこちらがしくじったらその分生存確立が落ちる。これではどうしようも出来ない。


 今は少年の救出より犯人の尾行に専念をしようと決めた。


 新手の中央にはいかにも魔術師風のローブを着て杖を持った人影がある。顔は見えない。フードによって隠されている。もちろん性別も不明だ。


 それぞれ合流をすると、なにやら会話をしている。少し離れているせいかジェーンには聞こえない。


 だが、商談がついたのだろうか。魔術師風の人影は懐に手を伸ばすと、袋を主に向けて放った。主は袋を受け取ると鎖から手を離し、有翼族の少年を魔術師風の男へと追いやる。


 有翼族の少年は戸惑ったように魔術師風の男の元へと歩き寄った。


 (え?)


 その時、ジェーンは目を疑った。魔術師風の男は懐からナイフを取り出したのである。


 (こいつ、まさかここで儀式魔術を発動させるつもり!?)


 ここでは儀式をしないだろうとジェーンは甘く考えていた。


 (どうする)


 わずかに逡巡をする。彼女一人ではこの場を切り抜けるのは非常に困難である。しかし、任務は「次の犠牲者を出さない事」


 ……困難でもやるしかない。彼女は決断をした。


 ジェーンは懐から魔導銃を引き抜くと、弾倉を抜くと一番上の弾丸を外し、代わりにポケットから特殊な弾丸「魔導弾」を押し込んで、弾倉を装填した。遊底をひいて弾丸を薬室に叩き込む。腰にある銃を抜いて今度は特殊な弾丸を装填することなく、遊底を引いて影から慎重に狙いを定めた。


 (狙いは魔術師風の男と……銃手!)


 「<マークブレット>!」


 魔導弾の効果を引き出す「力ある言葉(パワーワード)」と共に引き金を引くと周囲に銃声の轟音が響く。弾丸はそれぞれ魔術師風の男の腕と銃手の胸に当たった。


 完全な奇襲である。敵が浮き足立ったのが分かった。ジェーンは影から飛び出すと走りながら再び引き金を引く。


 走りながらという不安定な姿勢での射撃だったが、一人が崩れ落ちたのが分かった。これで残りは五人。


 「畜生、敵か!何やつだ!!」


 奇襲による混乱から立ち直った商人が声を上げる。ジェーンは走りながら腰に銃をしまうと空いた手で有翼族の少年の手を掴み、強引に引っ張った。


 「死にたくなければ走りなさい!!」


 有翼族の少年は最初、戸惑ったかのようにたどたどしい走り方だったが、すぐに状況を掴んだのか全力疾走に移った。


 「追え!殺せ!!」


 メンツを潰された商人が激昂をして配下に指示を飛ばした。その声にて全員が衝撃から立ち直り、ジェーンを追いかけ始めた。


 ジェーンはそれを見てくるっと振り返ると、再び銃撃をした。今度は狙いはろくにつけないため当たらないが、それでも相手は突然の銃撃に怯んだのが分かった。ジェーンは少年の手を引いて疾走をする。


 男達が鬼のような形相で追いかけてくる。時折ジェーンは追撃者達に銃弾を放ち、牽制をするが、徐々に怯まなくなってきている。


 (だけど、もうちょっと行けば階段がある)


 階段から地上に駆け上がると、そこは旧市街地区だ。隠れる場所はたくさんある。暗闇の中で気配を殺して潜むのは自信がある。


 (見えた!)


 階段が見えてきたのだ。階段を駆け上がると扉を閉めてつっかえ棒をする。男達が複数人で体当たりでもしたら簡単にはじけ飛ぶだろうが時間稼ぎにはなる。


 ジェーンは近くにある手頃な廃墟に入り込むとそこの影に少年と共に潜んだ。少年の口を手で塞ぎ、自信も気配を殺す。


 男達は幾度か体当たりをして強引に地上に出てきた。


 「どこだ!巫山戯た野郎に目の物を見せてやれ!俺たちを舐めると高くつくのを分からせるんだ」


 男達は周囲の探索を始めるが、暗闇の中カンテラの明かりだけで探すのは困難になる。


 「畜生!お前ら。分かれて探すぞ!」


 彼らは数に物を言わせて、ばらばらの方角に散っていっく。分散して探索をするのだ。


 しかし、一刻もすると探索に諦めた男達が集まってきた。彼らは再び地下墓地へと下がっていく。しかしジェーンはまだ油断をしない。そのままもう一刻ほどまってからようやく移動を開始したのだった。

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