ライジングドラグーン
「そうか……小娘に協力を要請したのはお前だったのか」
「え?」
ケーヒスが顔を上げた。既に目が爛々と赤く血走っている。
「お前が全ての元凶か!!このままでは済まさんぞ!お前達。この場を制圧しろ!どうなっても構わん。やれ!!」
ケーヒスが声を張り上げた。その瞬間、今まで成り行きを見守っていた神官騎士の一部が同僚を殴り飛ばし、剣を抜いた。彼等は神官騎士ではない。ケーヒスの手の者だ。
女性神官の悲鳴が上がり、周囲が混乱に陥る。入り口からも数人の敵兵が乱入をしてきた。
「神官騎士達よ。神官達を守れ!」
ドジャーズが指示を飛ばすが、混乱に陥り、奇襲を喰らった正規の神官騎士達はろくな行動がとれない。
それでも一部の神官騎士は戦闘力のない神官を守ろうと敵兵と戦闘を始める。ジェーンも魔導銃を抜いた、が。
「こんな所で普通に撃ったら流れ弾で怪我をしかねない」
得意の魔導銃を封じられたまま襲いかかろうとする悪漢に立ち向かう事になった。素手よりはましとはいえ、鎧を着た相手に周囲に落ちていた物を拾って殴るのはかなり分が悪い。
「胡さん!少年をよろしく!」
「はい!!」
ジェーンは胡に少年の確保を頼んだ。年老いたとはいえ胡は豪商宋家の執事。護身術はマスターしている。少年の身を守るのはたやすいだろう。
胡は腰から一対の短棒を取り出すと両手に構え、襲いかかった敵兵の剣を左手の棒で払うと、右手の棒を顔面に叩き付けていた。
一方、ジェーンにはまっすぐに兵士が二人、襲いかかってきた。
「連携をとられると厄介ね」
ジェーンは呟くと天井に向けて銃を発砲した。敵の動きが怯む、その隙にこちらから突撃。助走をつけると肩からタックルをして一人の兵士を吹き飛ばす。
「貴様!」
吹き飛ばされなかった片方の兵士が怒りにまかせ剣を振りかぶるが、ジェーンはでのショルダータックル勢いそのままに振り向き、発砲。膝を撃ち抜いた。
「悪いわね。撃てないなら撃てないなりにやり方があるの。この距離とこの角度なら絶対他の人に当たらないから」
そしてようやく起きた兵士に銃を突きつけた。
「フリーズ」
兵士は剣を落として両手を挙げると、ジェーンは降伏した敵に銃を突きつけたまま近寄り、顔面を銃把の底で殴った。
「甘く見るんじゃないよ」
もんどり打って転倒した兵士の手から隠し持っていたダガーが見えた。隙を見てこれで刺し殺そうとしたのは明白。ジェーンは迷わずこの兵の膝も撃ち抜いた。
無力化を確認してから周囲の確認をする。そこでジェーンは気がついた。ケーヒスの手に銃が握られている事に。
ジェーンの持つ魔導銃とは違い、ケーヒスの握っている銃は現代の技術でつくられた先込め式の火打ち石銃だ。魔導銃とは違い量産が可能である。魔導銃とは違いやや大型のため護身用には向かないため通常は携帯などしないが、ケーヒスはそれを取り出した。
炸薬と弾丸を装填をして、マージを狙う。マージはケーヒスから注意を逸らして壇上に上がり、幹部を狙う敵兵三人に一人で相対をしてる。
ジェーンには仲間の危機を助けに来た敵兵二人が襲いかかってきた。今度の敵兵は冒険者上がりで、この混乱した状況には戦い慣れている。剣を無闇に振るわず、突きをメインにして離脱をする隙を見せない。ジェーンとて躱すのが精一杯になった。
「マーーーーーージ!!」
ジェーンが声を上げる。マージはまさか守っている幹部から狙われているとは思っていないため、背を向けていた。
ジェーンはせめて、マージに注意を促そうとしたのだ。だが、もう遅い。マージが気がついたときには既に撃鉄が起こされていた。
「死ね!!」
銃弾が発射された時だった。空から巨漢が降ってきた。同時に誰かが放った魔法の幕が途中で弾丸を遮り、威力を弱めた。
巨漢がマージの身を文字通り盾として守ったのだ。威力を減殺された銃弾は巨漢の分厚い鎧を貫く事は出来ない。
「ジノ!」
空から降ってきた巨漢はジノ・グレイマン。ライジングドラグーン一の防御力を誇る防御力を誇っている彼はこんな状況では一番頼りになる男だ。
「どうやら間に合ったようだな」
「メディ!」
ジェーンの目の前の敵兵が倒れ、メディ・ルダールが立っていた。森妖精の彼は錬金術を取得した魔術師でライジングドラグーンの参謀である。先ほどの魔法も彼がかけた物だった。
「ジノとメディがいると言う事はみんな来ているのね」
「ああ。イオンとアカツキが戦っている」
「ラッグスも、久しぶり」
ラッグスと呼ばれた男はジェーンに目礼をするとナイフを手に警戒の視線を周囲に向けている。ラッグス・ライターは人間で、メディの小間使いをしている。素早さではライジングドラグーンの中で最も優れている。
ジェーンが相対をしていた先ほどの敵兵はメディの魔法により一人が打ち倒され、その一瞬の隙をラッグスが急襲、倒されたのだ。会場の中には有角族と人間のハーフの女性、イオン・クリストフ・ランカスターと山妖精のサムライ、レイ・アカツキが肩を並べて戦っているのを見えた。
「それにしても、良く間に合ったわね」
「ああ。遺跡から這い出ると宋家の手の物が控えていてな。大至急ということで転移魔方陣の順番をすっ飛ばしてきた」
「そうなんだ。助かったわ。で、ジノはどうやって空中にとばしたの?」
「ああ、あれはジノに空中飛行の呪文をかけた。あの巨体だとこの混乱では引っかかっては話にならないからな。一番狙われるであろうマージを守って貰おうと、な」
「流石軍使、ね。……ところで、メディ」
「どうした?」
メディが怪訝な顔をした瞬間、ラッグスのナイフが光った。ラッグスのナイフはメディの顔をかすめ、背後から襲いかかろうとした敵兵の目にナイフが突き刺さる。
「危なかったわ、よ」
「すまない、ラッグス。それからジェーンはそう言うことは早く言え。……<アイスバースト>!」
メディの力ある言葉に応じて発生した氷のつぶてが女性神官に襲いかかろうとしていた敵兵の背中で弾けた。ジェーンはその光景を見ると一つ頷き、大きな声を張り上げた。
「さぁ、〝泣く子も笑う〟ライジングドラグーンのお通りだ!笑え!愉快に笑え」
「おお!」
ジェーンの声に場が盛り上がる。ライジングドラグーンは遺跡の街、ラインの実力派の冒険者ギルドである。伊達に実力派を気取っていない。周囲に混乱した民間人がいるという悪条件でも増援に駆けつけてきたり、奇襲から立ち直った神官騎士達とともに次々と敵を駆逐していったのだった。




