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ジェシガンの魔法薬  作者: Wish
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真実の暴露

 転移装置は神殿と併設をさている。否、元々転移装置のある場所に神殿を建てたという方が正しい。ジェーンは転移装置を飛び出すと外には胡がいた。


 「お嬢様!今丁度そちらに行こうと……」

 「どうしたの?」

 「先日の地下墓地の警備と、惨殺事件の警備の責任者が判明しました!」

 「副神殿長でしょう!」

 「もうお分かでしたか?」

 「ええ。こちらが調べた内容も全てのサインが副神殿長につながった!今、副神殿長は?」

 「今、丁度神殿長選挙の最終演説です」

 「OK。胡さん。例の有翼族の少年を連れてきて。大至急。私は時間を稼ぐ」

 「分かりました。ジェーン様、それとどうやら大礼拝堂を中心に神官騎士以外の冒険者が警備についています。副神殿長の一派かと。十分お気をつけください」

 「ありがと。胡さんも気をつけて!」


 ジェーンはそのまま大礼拝堂へと走っていった。

 大礼拝堂はライン神殿の中枢部であり300名を収容できる議事堂でもある。八角形の建物でそれぞれ八方向の壁に主要八大神の神像が安置されている。人の祈りや決断を八大神が見守るようにとの事である。なお、この大礼拝堂の建築様式は他の神殿もそう変わりはない。

 ジェーンはそのまま大礼拝堂の大扉を開け放った。神殿長選挙は一般の人も立ち会いが可能なのである。最も、選挙権があるのは神官位以上だけだが。


 「その神殿長選挙待った!」


 ジェーンが大声を上げる。丁度副神殿長、ケーヒス・フンベルトの演説が終わった所だった。


 前代未聞の事態に場が一瞬静寂が訪れる。しかし、一瞬の静寂を破ったのは鉄火場に慣れているドジャーズ・マイコネルであった。


 「何者!何の資格があってこのたびの選挙に待ったをかける!」


 修羅場で鍛え上げられた怒声がジェーンの耳朶を打つ。が、ジェーンとて百戦錬磨の冒険者。決してひるまない。


 「私はジェーン・ドゥ。このたび、ケーヒス・フンベルト副神殿長に有角族の少女の殺害及びそれに関連した違法な魔術儀式を行った疑惑があります」


 ジェーンは硬質の足音を立てて礼拝席の中央を抜けると演台上のケーヒスを睨みあげた。


 「ほっほっほ、私にそのような疑惑が……。当然証拠があるのでしょうね」


 ケーヒスは禿頭で、長くて伸ばした白い顎髭が特徴的な好々爺然の老人である。事実、滅多に怒った事がない穏やかな人物として知られている。


 しかし、前からジェーンはこの老人が嫌いだった。穏やかな表情の中に目が決して笑わないのである。むしろその目は常に冷たく、信者を見下ろしていたのが気になっていた。


 「ケーヒス師!そのような戯れ言に構わず。警備騎士!その痴れ者をつまみ出せ!」


 ドジャーズが怒号を上げる。警備をしていた神官騎士が動こうとしたのを止めたのはケーヒスだった。


 「まぁまぁ、ドジャーズ師。私としても殺人者呼ばわりは看過できません。これは一つ、この小娘を大衆の前で恥をかかせましょう」

 「ケーヒス師がそう仰られるのであれば……ジェーンとやら。一つお前の主張を述べるが良い。ただし……少しでも間違えたらお主に対し神殿侮辱罪を適用をさせる。むろん神殿侮辱罪の最高刑は破門だ。良いな」


 神殿から破門をされたらもう冒険者生命を絶たれるのと同義である。そして社会的信用も全て無くなってしまう。だが、ジェーンは悠然と肯いた


 「ありがとうございます。もちろん真実を明らかにしてご覧に入れましょう」


 その時、ジェーンは見た。ドジャーズがしてやったりという笑みをこぼしたのを。


 (この狸親父。全て計算の内か)


 ドジャーズは先手を打って排除をする事を提案をする事により、ケーヒスがジェーンを排除をするのを止めたのである。


 ケーヒスにしてはライバルの発言を受け入れがたい心理があるのを見越していたのだ。万が一同意をしてもおそらく動きかけた神官騎士はドジャーズの手の者。証拠はドジャーズに手に入る。


 (喰えないわね。まぁ、いいや。助けになったのは確かだしこの機会を逃さないようにしましょう)


 「さて、先日、私はとある神殿の司祭より有角族の少女の殺害事件に絡むジェシガンの魔法薬の事件を依頼されました。その過程において私は魔術儀式の贄にされかけていた有翼族の少年の命を救いましたが、主犯格に逃げられました。

 そこで私は角度を変え、ジェシガンの魔法薬自体を調べたのです」


 そしてジェーンはポーフィリーに話した事を大衆の前で披露をした。自分がマードナル領があったとされた場所から得た違和感。当時の資料から得られた「ジェシガンが存在しない」という結論。そして「ジェシガン」という架空の人物を作り上げた北方王国王弟にして錬金術師ドーン・F・フレデリック公爵のセカンドネームと副神殿長の姓の一致。


 「以上で、ケーヒス・フンベルト副神殿長。あなたはドーン・F・フレデリック公爵の子孫ですね」

 「良くそこまで調べました。確かに私はドーン・F・フレデリック公爵の子孫に当たります。最も、ドーン・F・フレデリック公爵は数世代前のご先祖様ですが……ただ、それだけで私が犯人というにはいささか根拠が乏しいのではありませんか?」

 「ええ。最もこれは状況証拠の一つに過ぎません。では、少し角度を変えましょう。ドジャーズ師に質問です。先の有角族少女殺人事件の発生場所の警備責任者はお分かですか?」

 「……ああ。ケーヒス・フンベルト副神殿長が担当なされていた場所だ」


 今まで成り行きを見守っていたドジャーズが重々しく呟いた。


 「では、一週間程前の地下墓所の管理責任者は?」

 「……一週間前というか、元々地下墓所の管轄は副神殿長に属する」

 「偶然ですな。いやいや、この神殿長選挙に掛かり切りになって警備が疎かになってしまい不届き者が痛ましい事件を起こしてしまったようです。これは私の不徳の致す所です。その事で責められたら私は反省の言葉しかございません」


 ケーヒスは沈痛な表情で頭を下げた。が、あくまでこの事件には関係はないという立場は崩していない。

 その時、ジェーンの目はするりと中に入ってきた胡と有翼族の少年の姿を見た。


 「さて、ケーヒス師。私は最初に「魔術儀式の贄にされていた少年を助けた」と言いましたよね。どうやら、その少年が来たようです」


 ジェーンは有翼族の少年をまっすぐ見た。ジェーンの視線を辿り、会場中の視線が少年に集中をする。少年はたじろいだが、それでもジェーンの側にやってきた。


 「お久しぶりね。元気になって良かったわ」

 「うん、お姉ちゃん。助けてくれてありがとう」

 「さて、……じゃぁ君。今度は君が私を助ける番よ。……ねぇ。あなたを襲った魔術師は、この会場にいる?」


 少年は会場をぐるっと見回し、ある一点で止まった。


 「うん、いるよ」

 「どの人。指でさして」

 「あの人」


 有翼族の少年の指はケーヒス・フンベルトでぴったりと止まった。


 「本当?」

 「うん、あの長い髭は見覚えがある。それとあの冷たい目……僕ははっきりと覚えているよ。あの人が僕を襲ったんだ!」


 誰もが息を呑んだ。静寂の中、ジェーンの声のみが周囲に響く


 「さて、ケーヒス・フンベルト副神殿長。あなたはドーン・F・フレデリック公爵の子孫だと言う事でジェシガンの魔法薬の資料のありかを知っていた。多分、口伝か何かに伝えられていたのでしょう。それを何らかの方法で入手できた。多分凄腕の盗賊か、内通者がいたのでしょうね。

 そしてあなたはその資料から不死の魔法薬の資料を見つけた。しかし不死とは言え、使用をしていたら廃人になるという薬。本来なら一笑に付す物。

 だが、あなたはそれすら頼らざるを得ない状況にあった。それはこの神殿長選挙です。

 前回の神殿長選挙であなたは今の神殿長に敗れた。それでも副神殿長に採用されたれたが…あなたは高齢だ。

 神殿長が引退をする前にあなたは引退の時期を迎える。しかし、神殿長が倒れてしまった。チャンスが訪れてしまった。ぎりぎりまで考えて、あなたは夢を捨てきれなかったんだ。

 最も出馬をする事にしたけど……倒れた神殿長よりも高齢な事は否めない。健康問題は周囲が気にするよりもあなた自身が一番理解していたのでしょう。

 そしてあなたは禁断の魔法薬に手を出してしまった。最終的に廃人になるとは言え……それでも使いはじめは壮健な肉体と精神を手に入れる。あなたはそれで十分だった。

 しかし禁断の魔法薬を手に入れるなんて他人に任せられない。あなたは自分で動くしかなかった。必要な『材料』を入手する場所は自分の管轄で行えばいい。自分の管轄なら証拠を捏造した上で自分の手の者に適当な人物を捕まえさせて最終的な犯人を誰かになすりつけれるし何より今は神殿長選挙の真っ最中。対立候補は捜査を担当をする警備局長。自分を邪魔をする物はいない。


 そう。哀れな被害者の女の子の無念を晴らそうと足掻き、藁をもすがる思いで知り合いの女性司祭に頼った現場の神官達を除けばね。


 ……ケーヒス・フンベルト!あなたの失敗は事件を解決しようと、圧力にも負けず藻掻いて事件を解決しようとした神官達の意志を軽く見た事よ!!」


 ジェーンはびしっと指を突きつける


 「嘘だ!全てお前の捏造だ!!」


 ケーヒスが今までの悠然たる態度を崩した。


 「いいえ、最終的な証拠があるわ。マージ!探査魔法をお願い。ケーヒス副神殿長。私は少年を助ける際に、魔術師の腕に位置特定の魔法を施された銃弾を撃ち込みました。あなたが真に犯人ではないのなら、位置特定の魔法反応は出ません。協力、出来ますよね」


 にやりとジェーンが挑戦的に笑う。今までは全てこの布石だったのだ。背景情報を積み重ねて、証人に証言させて、動機を明らかにする。しかし、全ては状況証拠に過ぎない。

 彼女が握る最大の物的証拠、それがこの位置特定の魔導弾だった。

 しかし、単にかけてと言っても決して肯かないであろう。だからこそ、全ての布石を明らかにして相手を激情させて、肯かせる賭に出た。


 「よかろう。さっさとやれ!!」


 賭けに勝った。ケーヒスは弾丸を摘出したから反応はしないと思っている。だが、魔法弾は摘出をしても二週間は優に位置特定の魔法反応が出る。


 壇上にマージが上がる。


 「……<サーチマジック>」


 簡単な動作と共に短い呪文を詠唱し、魔法効果を引き出す力ある言葉(パワーワード)を唱えた。その瞬間、ケーヒスの腕から赤い魔法反応が空中に出現をした……。


 「嘘だ!違う!!」

 「……見苦しいですぞ、ケーヒス師」


 口角に泡を飛ばしてまで否定をするケーヒスを窘めたのはドジャーズだった。


 「……誰ぞ、ケーヒス師のお屋敷に赴け。魔法薬の資料を探すんだ。ケーヒス師。協力してくださいますね」

 「……くそ……」

 「誰か……ケーヒス師を連れて行け。後で詳しい話を聞かないとなら無い。それと、今日の神殿長選挙は中止だ。後で幹部で善後策を考える」


 ケーヒスが項垂れた。勝負があった。背後ではドジャーズが指示を飛ばしている。


 「マージ。これで事件は解決ね」


 ジェーンは顔をようやっと綻ばせて壇上のマージへと声をかけた。


 「ええ、ありがとう。これでようやっと終わるわ」

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