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竜一の視線の方向へ直巳もつられて目を向けてみる。そこにはすでにいくつかのグループが出来上がっている女子たちの集団。
「そうね。でももう慣れちゃったわよ、この十八年でさすがに。私ってそんなに取っ付きづらく見えるのかしら…」
慣れたと言いつつも、溜息をつきながらその集団を眺める真莉亜を見て、なるほどと直巳は
思い至る。
直巳も多少強面ではあるが、異性にモテる方だ。あの兄ほどではないが、と思い出すと頭痛がしそうな相手の事を記憶の彼方に無理やり追いやる。
だからというのか、直巳はある程度『女子』というものがわかっているのだ、つまり―――。
「迫力…いや、派手目な女には近づきづらいってことか。美人ならなおさら敵認定されやすいな」
「ああ、佐原もわかるかあ。そうなんだよね、真莉亜は内面より先に外見で色々思われちゃうんだよね、キツそうとか。女子って集団で強い生き物だから…明らかな美人は自分の隣に置きたくないんだろうね」
「それだけならマシよ。悪意を持っていたとしても近づいてこないのは楽だし。厄介なのは自分に自信があるタイプ。向けられるのはあからさまな敵意で実際色々言われた事あるし、あとは利用できそうって上辺は良い人で近づいて来たりするのよね。バレバレだっての」
ふんっと何か思い出したのか忌々しそうに鼻を鳴らした。それはきっと触れるべきではない、と竜一も直巳もそっと視線を逸らした。だが逸らした視線の先を見て、竜一が「あれ?」と首を傾げた。
「どうした?」
「いやなんかひとり、グループに入ってないのか入れてないのかな子がいるなあと。ほらあそこ、ちっちゃい黒髪の子」
竜一が指差す方に直巳も、そして過去から帰って来た真莉亜も目を向けてみる。先ほどまでは他の学生に埋もれて見えなかったのだろう。それほどまでに小さな女の子が歩いていた。
「同級生、だよね?…たぶん。ずいぶん小柄な子だなあ」
「下手すりゃ中学生か小学校高学年にしか…」
思わず竜一や直巳はその女の子の後ろ姿を見て呟くが、慌てて途中で言葉を止める。聞こえないとは思うが、もしかしたらあの子が気にしていることかもしれないのだ。竜一も決まり悪そうに頬を掻き、ちらりと幼馴染を見る…が。
「ん?真莉亜、どうしたの?」
「……」
こんな時いつもの真莉亜なら「女の子の身体的特徴を軽々しく口にしない!」とでも言って脇腹に肘鉄の一発でも打ちこんでくるはずなのだが…と竜一は不思議そうに真莉亜を振り返る。真莉亜はじっと件の女の子を見つめていた。
「ちょっと真莉亜?」
「…え?あ、何?」
「いや、急に黙りこんでどうかした?」
「ううん、何でもないわ。行きましょ。竜一、直巳も」
そう言ってさっさと歩きだしてしまう。何なんだ?と直巳が首をかしげていると「もしかして」と竜一が小さく呟く。
「何だ?」
「うーん、いや…。大丈夫、大したことじゃないよ」
行こ行こ、と竜一も真莉亜に続いたので直巳も追及しても無駄かと二人の後を追った。何だか面倒な気配もしたので、口に出さない事にしたのだった。