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ようやく式が終了すると、新入生は学部ごとに構内を案内されるらしい。それぞれ使用する教室等が微妙に違うのだ。とは言っても、キャンパスは広い。とてもじゃないが覚えきることなどすぐには無理で、当分は配布されたプリントの地図を頼りに講義の場所を探すしかない。
「どーも。始めまして」
プリントに視線を落としていた直巳は、突如降ってきた声に視線を上げた。見上げた先には、にこにこしながら直巳を眺めるメガネの男がいた。
「もう皆出ていっちゃったからさ、一応声かけたほうが良いかと思って」
「ああ悪い。助かった」
「どういたしまして」
見回せば確かに他の学生たちは、もう講堂の出入り口を通過しようとしている。直巳も立ち上がりそちらへ向かうと、隣にメガネ男子も並んできた。
「僕は森田竜一。よろしくねー」
「佐原直巳だ。…よろしく」
「佐原君ね。僕のことは森田でも竜一でも構わないから」
「じゃあ森田。俺のことも呼び捨てでいい」
オッケーと軽く笑いながら、竜一の流れるような自己紹介に、直巳もごく自然に名乗り返してしまう。よろしくの一言は一瞬言葉に詰まってしまったが。大学生になってこんなこれから友達になるぞ、というような場面に立ったことが少々気恥ずかしかったのだ。
並んで歩き出せばすぐに、同じ学部の集団を見つける。
「竜一、遅いじゃない。何やってたのよ」
集団に直巳と竜一が合流すると最後尾にいた女子がふたりに気づいて振り返る。その声に軽く手を上げて答える竜一の様子は親しさがうかがえた。
「ちょっと新たに友達になってね。真莉亜こそさっさと行っちゃうんだから」
「竜一が遅いからでしょ。ていうか友達?」
そこで真莉亜と呼ばれた女子の視線が直巳へと向く。長い睫毛に縁取られた綺麗だが妙に目力がある視線に思わず直巳の身体が引く。
「そ。さっき友達になった佐原直巳君です。真莉亜も自己紹介しといたらいいかなと」
竜一はマイペースに直巳を真莉亜に紹介する。正直、君付けなんて違和感が半端無いし、友達になるなんて表現は改めて聞くと照れくささもあったが直巳は何も言わずにいた。
「ふーん…。私は辻真莉亜。竜一の幼馴染なの、よろしく」
「ああ、佐原直巳だ。幼馴染なのか」
タイプの全く違う男女なのにやけに親し気だと思っていたが、どうやら二人は長い付き合いの様だ。
「うんそう。幼稚園から小学校、中学校と一緒だったね。高校は違ったけど、家は近かったし」
「竜一もこの大学行くって知ったの、もう高三の冬前くらいだったからちょっとびっくりしたわ」
大学で再びクラスメイトとなったらしい。本当に親しい者同士のテンポのいい会話が繰り広げられる。
「それにしても真莉亜、相変わらずだねぇ」
竜一が苦笑しながらそう言った。