表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

 暗い山の中を女は走っていた。夜の森に入るなど無謀すぎる、自殺行為だとはわかっていたが、それでも足を止めるわけにはいかなかった。

 ―――早く、早く、早く…ッ!―――

 呼吸が乱れ、足は草に取られ転びそうになっても必死に走り続けた。

 「いたかッ?」

 「いやッ見つからない!とにかく探せ!」

 男たちの怒鳴り声が迫っている。

 

 女の後ろには深い谷底が広がっている。一歩後ろへ踏み出せば、たちまちその身は底の見えない闇に吸い込まれ消える事になるだろう。

 髪も服も乱れ、手足は傷だらけになり、疲労が激しいのか肩で呼吸し、立っているのもやっとの様子だ。それでも、女の瞳には強い光が宿っていた。その光は激しく、苛烈で、瞳を爛々と輝かせている。そんな眼差しで女は正面に立つ者を睨み据えていた。

 「――――ッ」

 「―――!」

 女はその者と何かを言い争っていた。そして――――――――

 「私は―――を死んでも許しはしない!」

 女は叫び、谷底へと飛んだ。闇に吸い込まれるように女の姿が消えていく。

 「っ!――!」

 誰かが獣のように吼えていた。


* *  *


(あ―…眠い…)

 直巳は欠伸をかみ殺し、眠気と戦っていた。大学の講堂。同じ年頃の男女が集められ、壇上で長々と熱弁をふるう初老の男を見ていたりいなかったり。直巳も皆もほとんどスーツ姿で、要するに大学の入学式に参加していたのだ。

 きっとあと何人かが同じような話をするのだろう。申し訳ないなという気持ちもなくはないが、正直飽いていた。

 (真面目に聴いている奴なんて、一体どれほどいるんだか)

 適度な室温、少し薄暗い空間。完全に眠り込んでいないだけ自分はマシなのでは、と直巳は思う。

 (早く終わらねえかな…)

 壇上の人物が交代するのが視界に入り、思わず溜息を吐いた。

一応主役であろう新入生のことなど置き去りだ。

あと何人続くのかと、飽き飽きした直巳は目を閉じぼんやり考えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ