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蟻の文明

作者: 山城 庸

 帰り道。

私は蟻の行列をみつけた。

(蟻の行列なんて、しばらく見かけなかったなあ)

私はこどもの時を思い出しながら、細い行列を見失わないように辿った。

細い行列とは言いながらも、そこでは無数の蟻が規則正しく行き交っていた。

私が辿る方向へ向かう蟻も居れば、蟻と私をすれ違う蟻も居た。

それはテレビで見た、東京の交差点のようだった。

ごちゃごちゃとしていながら、それぞれの意志で人ごみの中を縫っている。

あるいは、学校にも似ていた。

同じような格好をした生徒が、同じことに取り組んでいる。

『自分が蟻に似ている』

と考えてみると、何だか妙に複雑で変な気持ちになってくる。

私は心の中で苦笑した。

蟻は小さくて白い何かをせっせかと運んでいる。

それは何かのお菓子の屑なのであろう。

私から見れば小さいものなのだが、蟻から見れば、今背負っているスクールバッグ位の大きさなのだろうか。

それらを見ていて、私の脳内にある想像が浮かんだ。


 『ここには私たちと同じような文明がある』


何故私は『文明』という単語が思いついたのか。


 ※文明ぶんめい

農耕・牧畜によって生産したものをおもな食糧とし、種種の専門職に従事する人びとが集まって形成する都市を中心に整然と組織された社会の状態。

             ――――――――新明解国語辞典 第七版


正直、蟻の行列に『文明』という単語があてはまるのか正しいのかは未だわからない。

しかし当時の私にとって蟻の行列は、そのひと時を純粋なこどもの心に戻してくれていた。

蟻の動きを観察する度に、私は好奇心を駆り立てられた。

 ふと。

「おねー」

と私を呼ぶ声があった。

父だった。

私が『そこ』を行ったり来たりしていたので、

(なにか落としたのかな)

と思ったらしい。

父は私と同様に蟻の行列をみつけると、その巣を探し当てた。

道端に生えた雑草の裏を見てみる。

そこには鳥肌が立つような、『おびただしい』という言葉に相応しい程の、蟻が居た。

気持ち悪くて、思わず「ひぃぃ」と悲鳴をあげてしまった。

父は冷静に「(この裏に)なんかいいものがあるみたいね」と言っていた。

私はそんな父の様子がこどものようでもあり、たのもしくも見えた。

 そうしていると、今度は妹が変なステップを踏みながら来た。

それは出来損ないの女走りのようだった。

先に帰宅していた妹は、この『文明』の存在に気が付いていなかった。それを知って私は、妹と私との感覚の違いや、興味対象の個人差の違いを知って、半分感動し、半分ショックを受けた。

私は純粋な妹が、『これ』の存在に気付かない筈がない、と思っていたからだ偏見的だと思うが、『純粋なヒト』は『こういうものに気が付きやすい』と私は無意識に考えて納得していたのだ。

妹は巣をみて、私と違い「おおおーーーー」と、感動した様子だった。




 翌朝、

私は学校へ向かう途中で昨日の場所で数匹の蟻を無意識に探し、見つけて、流し見た。



その後日、梅雨の時期が近づき雨が降った。

帰り道、あの場所を探したが、文明の跡は清々しいほどに無くなっている。


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