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7話 状況説明

「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


 6人は無言だった。

 あの管理施設から脱走した後、その手引きをした相手であるヤマダハナコ(自称)に連れられ、奇妙な車に案内された。

 車といっても、エンジンのようなものがあるわけではない。

 馬車というべき代物だ。


 だが、馬車と決定的に違うところはこの車を牽引している生物が馬ではなく竜というべき生物なところだ。

 ハナコの言うところ、岸まで連れてきたくれた竜は海竜と呼ばれる水中で暮らす種族であり、この竜は陸竜と呼ばれる陸で暮らす種族らしい。

 そして、その陸竜によって牽引される車は、陸車と呼ばれる存在らしい。


 ……と、まあそれはともかく。


 この陸車の御者台にいるハナコ曰く、


『色々と言いたい事、聞きたい事があるだろうけど、とりあえず今はこれに乗って。追手が来るよりも先に』


 その言葉に、皆は顔を見合わせていたが、結局のところ全員が――協調性のなさそうなコーエンも含めて――この陸車に乗った。


 だが、皆口を積極的に開こうとしない。

 無言のままだ。


 カタカタと、眠るには心地よい揺れ具合だし、未だ明け方だというのに睡魔は襲ってこない。

 未だ安心できないこの状況が、眠る事を拒んできた。


 あのハナコの事を信じて良かったのだろうか、という気持ちもなくはない。

 だが、彼女を信じる以外に選択肢がないのも事実だ。


 ここは異世界。

 それも、異人と呼ばれる俺達の事を毛嫌いする異世界人ばかりの世界だ。

 そんな中、他に頼るものはない。


 この世界で味方といえる存在であり、頼りになるのがこの脱獄劇の手引きをしてくれたハナコという女以外にいないのも事実だ。

 おそらく、他の5人も同様なのだろう。

 だからこそ、いかに信用できなくてもこの陸車に乗るしかなかったのだ。


 どれくらいの速度で走っているのか。

 今はどの辺りにいるのか。


 それすら分からない。 


 結局、誰もが一言も口を開かない状況が続いた。


「……あの」


 そんな中、サラが口を開いた。

 この陸車の室内は広いとは言えない。

 そんな密集した状態だが、ちょうど俺の正面の位置にサラがいる。

 たぶん、俺に話しかけてきたのだと思う。


「何だ?」


「えっと、ですね。大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫? 何がだ」


「あの女の人を信じてしまって……」


「別に信じたわけじゃないさ。けど、他に頼れるものがない。違うか?」


「それはそうですけど……」


 どこか納得しかねる様子でサラは頭を抱えた。


「ううっ……」


 不安そうに、爪をかんでいる。


「えっと、でも貴方は落ち着いているっすね」


 傍らから、ナオキが話しかけてきた。


「そうでもないさ。俺も不安でいる事がある」


「へえ……何っすか?」


「弟の事だ」


「弟さん……っすか?」


 間抜けそうに――といっても、室内は暗くてしかも表情は正面にいるサラしか見えないが――ナオキが聞き返す。


「ああ、ノゾミ――希望の望と書いてそう読むんだが――この世界に来る直前まで一緒にいたんだ。けど、こっちの世界に来て以来見ていないんだ」


「それって」


 サラが今度は口を挟んできた。


「はぐれちゃったって事ですか……?」


「もしかしたら、こっちの世界に来たのは俺だけで、弟は元の世界に残っているのかもしれないがな」


「それならいいっすね」


 ナオキは気軽そうにそんな事を言う。


「何を言っている!」


 そのナオキを強い口調で怒鳴りつけたやった。


「へ!? な、なんすか?」


「あの儚くて病弱なノゾミだぞ! 俺がいない状態でおかしな奴に騙されでもしていたどうするんだ!」


「いや、儚くて病弱だなんて言われても俺達分からないっすよ……」


「――というか、ユタカさんって相当ブラコンなんですね」


 何を言う、弟を愛でるのは兄として当然だ。

 失礼な年下二人だ。


 これで空気が弛緩する事もなく、この後もゆっくりと陸車は動き続けたが会話は弾まなかった。




「到着したから、みんな降りて」


 前の御者台から、声がした。

 どれくらい時間が経ったのだろうか。

 1時間は過ぎていたと思うが、時計すらないこの状況では時間も分からない。


「……俺から降りる」


 まず、タダシが外に出た。

 これは、危険そうな役割を自ら買って出てくれたおか。

 それとも、単に外の様子がまるで見えないこの薄暗い荷台の中からいち早く出たかっただけなのか。

 付き合いの短い俺では判断がつきかねた。


 続いて皆は、顔を見合わせてから一人ずつ降りて行った。


 目に入ったのは、屋敷と形容すべき建物だった。

 日本では、よほどの金持ちでなければ土地代すら払えないであろう巨大な敷地。その中に、城とでも評すべきほど大きな屋敷はあった。


 だが、かなりのオンボロだ。

 あちらこちらの塗装は剥げているし、派手に破壊された箇所もあるのにまるで修理された様子はない。

 かろうじて、門の部分のみが無事だったが。


「皆、降りたみたいだね。屋敷の中に先に入ってて。入って正面の部屋が来客用の応接室になっているから」


 ハナコはそれだけ言うと、これまで車体を牽引してきた竜をどこかに連れていってしまう。

 おそらく、馬小屋のように竜を繋ぎ止めておく場所があるのだろう。


「……行こう」


 俺がそういうと、皆も屋敷の中へと入っていった。


「うわ……」


 広大な玄関ホールが目に入る。

 シャンデリアがなぜか落下しており、通行の邪魔にならないであろう位置に移動されてはいるが、それ以上片づけられている様子はない。


「応接室ってここっすかね?」


 ナオキの言葉の示す通り、入ってすぐのところにそれらしい部屋がある。

 巨大な机が部屋の中心に置かれ、対峙するように座り心地の良さそうな椅子が置かれている。

 だが、この屋敷の他の家具同様、かなりボロボロの状態だが修理された様子もない。


「……座るぞ」


 ここでも、タダシが先陣を切るかのように腰を下ろした。

 それを見て、無言でコーエンも椅子に座る。

 他の3人もそれに倣うかのように椅子に座った。


「それじゃ俺も」


 6人全員が座ったのとほぼ同時に、ハナコが部屋に戻って来た。


「おお、ちゃんと揃ってるね」


 そう言いながら、向かい側の椅子に腰を下ろす。


「それじゃあ、色々と聞かせてもらうぞ」


 口火を切るように、タダシが言った。


「お前は一体何者だ? なんで俺達の脱獄の手助けをした。そもそもこの世界はなんなんだ?」


「ちょ、ちょっと一度に聞き過ぎっすよ。せめて質問は一つにしましょうよ」


 タダシを窘めるようにナオキが言うが、ハナコは苦笑した様子で、


「んー、一つずつ答えていくね。とりあえず、私はキミ達同様の旧世界人。この中には話した人もいるよね。ここまではオーケー?」


「オーケーだ。それならば、ユーはどうしてここにいる。ミー達のように、あの異人更生施設のようなところに強制的に入れられるわけなんだろう?」


「運が良かったんだよ」


「運?」


「うん。ここに来た時、他にも何人か元の世界の人達と合流できてね。この世界が私達旧世界人に優しくない世界だって事が分かったから、とにかく協力して逃げ回ったんだ」


 当時を思い出すかのように、どこかなつかしそうな表情でハナコは言う。


「でも、頼れる人なんてどこにもいなかったわけですよね?」


 サラが、疑問に感じたであろう事を口にした。

 現代日本に近いような世界に放り出されるのとはわけが違う。

 価値観からして、何もかもが違う世界なのだ。


 国や警察を頼る事もできない。

 いや、それらの存在もこの世界では敵なのだ。

 国も警察――に近いような存在も、俺達を異人として身柄を拘束しようと追いかけまわす敵。

 そんな中、彼女は。いや、彼女達は逃げ回っていた事になる。


「敵ばかりってわけじゃないよ」


 ハナコは、ふふ、とどこか穏やかな笑みを浮かべる。


「この世界の人間にも、今みたいに露骨に異人差別をする風潮を好ましく思っていない人もいてね。そういう人に保護して貰ったんだ。この屋敷も、その人の所有物だし」


 そんな人もいるわけか。

 まあ、俺はすぐに捕まってしまい、あの管理施設に入れられたのだ。

 そんな限られた世界だけじゃあ、この世界の全てを知るなど無理な事だったのだろう。


「それで、ここを拠点にレジスタンス活動、とでもいうべきかな。何とか捕まった人達を少しでも助けようと色々と活動を始めたわけだよ」


「俺達を助けたのもその一環ってわけか」


「まあそうなるね」


 俺の言葉にハナコは頷いた。


「分かった。理解した」


 ガリガリと頭をかきながら、タダシが言う。


「あんたの言う通り、ここは俺達転移者達の反乱グループのアジトのようなものだとして。だとしてだ。疑問が一つある」


「疑問?」


「あんたの話じゃ、他にも面子がいたんだろ。そいつらはどうしてる」


 その言葉に、ハナコは一瞬だけ表情が固まるが、


「――したよ」


 最初、言葉が小さくてよく聞き取れなかった。

 だが、すぐに先ほどより大きな声で。

 続けるように言った。



「私を除いて全滅したよ。だから、今残っているのは私だけ」


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