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6話 6人の脱走者

「よ、アンタも例の声で脱出した口かい?」


 そう、流暢な日本語で聞いてきたのは2メートル近い巨漢の白人だった。

 外国人のように見えるが、それを言ったらこの世界の人間も皆外国人に見えるが。白い肌に金色の髪の毛、それに青い瞳の持ち主だ。


「そうだけど、えーと、あなたもですか?」


「その通り! ミーはアレックス・クレントン。よろしくな。ここじゃあ、黒14号なんてゆー味気ない名で呼ばれていたぜ。後別に敬語じゃなくても構わないぜ」


「俺は黒野大です。あ、いや黒野大だ。 ……というか外国人?」


「あー、れっきとしたアメリカ国籍のアメリカ人だぜ。日本には旅行で来てたんだけどよ、とんでもない目にあったぜ。これがカミカクシって奴か? 日本の伝統の」


「神隠し、ねえ。これが」


 神隠しに遭った人間が異世界にたどり着いた、か。まあ、言われてみればその手の話は昔からあった気がする。

 いや、それよりも気になる事がある。


「そういえばアンタ、今日本語で話しているのか?」


「ああ、その件か。それはミーも気になっていた」


 そういうと、不意に真面目そうな表情になり腕を組んだ。


「ミーとしては、英語で話しているつもりも日本語で話しているつもりもないんだけどな。なぜか言葉が通じるんだこれが」


「って事はやっぱり、翻訳魔法みたいなもんが働いているのか?」


 新たな事実に、軽く驚く。

 が、それを遮る声が入った。


「そんな事より、俺の紹介にうつらせろ」


 苛立った様子で、肌の浅黒い男が口を挟む。


「おー、ソーリー。悪かったなタダシ」


「なら勝手に名前を出すな!」


 タダシと呼ばれた男が勝手に憤っている。

 が、そんなタダシを見てソーリーソーリー、と朗らかにアレックスは笑っていた。


「……ったく。俺は佐々木正(ささきただし)。ここでは黒16号と呼ばれていたブラジルとのハーフだ。国籍は日本だがな」


 妙に顔だちからして日本人らしくないと思っていたが、どうやらハーフだったようだ。


「呑気に自己紹介なんてしていないで、こんな陰気なところとっとと出ていった方が良いと思うがね」


 嫌味ったらしく言うとふんと鼻を鳴らした。

 そんな悪くなった空気のところに、


「あ、次は自分っすね。自分は黒1号と呼ばれていた、新居直紀(あらいなおき)と言います。確か、黒野さんとは何度か会ってましたよね」


「……ん、ああ確かに」


 脱獄前に俺同様に『声』に話しかけられ、動揺していた少年だった。


「あ、自分は別に外国人でもハーフでもないですよ。れっきとした、高校2年生っす」


 背はさして高くないが、筋肉質の体つきだ。

 もしかしたら運動部か何かにでもいたのかもしれない。


「よろしくっす」


「えっと、じゃあ次は私ですね」


「あー、女の子なんていたんすか」


「何言ってんだナオキ。確かに男性比率の方が高かったとはいえ、全体の2割くらいはいたぜ」


 ナオキの言葉に、アレックスが突っ込んだ。


「そんなにいたっすか。にしても、男女で同じ屋根の下で暮らさせてたんすか」


「まあな。刑務所だって男女は別にするぜ」


「奴らの言葉を借りれば、ミー達異人は『人間未満』って事になるんだろ。男だろうが女だろうが、人じゃないから配慮する必要はないって事ね」


 やれやれ、とアレックスは肩をすくめて見せる。


「あ、あの私の自己紹介の途中なんですけど……」


 ……と、勝手に脱線した俺達にサラが割って入った。


「おー、ソーリーソーリー。続けてくれ、ガール」


「えっと、それじゃ。私は白井沙良、です。砂じゃない方の沙漠の沙に良い悪いの良です。よろしくお願いします」


 これで全員の自己紹介が終わった……かに思えた。


「おい、お前がまだだぞ」


 じろり、とこれまで黙っていた男を見やる。


 たぶん、年齢は俺と同じくらいか。

 当然ながら着ているものは俺達と同じ黒い囚人服。


 目つきは悪い。

 年齢は俺達と同じくらいか。


「……」


 黙ってこちらを薄い目で見つめている。


「おいおい、黙ってちゃわからないぜ。へいボーイ、名前を」


「黙れ」


 リラックスさせようとするアレックスを、遮るように言った。


「俺はお前らなんかと馴れ合う気はねえ。勝手にしていろ」


「……ずいぶんと勝手な物言いっすね」


 いら、とした様子でナオキが言う。


「一応は、この管理施設(地獄)から脱出した仲っすよ。もうちょっとフレンドリーになってくれたっていいんじゃないっすか?」


「それがどうした。俺は俺だ。今回は利害がたまたま一致したに過ぎない。これ以上は馴れ合う気はねえ」


 やれやれ、団体に一人はいる一匹狼を気取るタイプか。

 厄介な事だ。


「あー、とりあえず名前くらいは言ってもいいんじゃないか? 減るもんじゃないし」


神崎紅炎(かんざきこうえん)だ」


「こ、こーえん?」


「紅の炎と書く」


 思わず聞き返してしまう。

 「公園」という字を連想したが、どうやら違うらしい。


「か、かなり個性的な名前ですね」


 かなり珍しい名前に、サラも困惑している様子だ。


「ま、全員の自己紹介も終わった事だし――」


 次の話題に進もうか、と言いかけた時。



「あー、いたいた。皆無事に成功したみたいだね」



 不意に声がした。

 一瞬、警戒しかけるが今の声が例の頭に響いた声と同じだという事にすぐに気づいてその警戒を解いた。


 現れたのは、若い女性。

 おそらく、少女と呼ばれる年齢を最近終えたばかりと思われるあどけなさが消えかけた顔。

 短く切り揃えられた髪の毛と、170を超えていると思われるその背の高さとボーイッシュな雰囲気の声は男性にも思えるが、服越しにもわかる豊満な胸がそれを否定していた。


「私が貴方達に呼びかけた相手――ヤマダハナコです。とりあえず、話を聞いてもらえるかな?」


 女――ヤマダハナコはまずそう切り出した。

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