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2話 会話

『あーあー、聞こえてる?』


 聞こえている。


 頭に響いている言葉に、どう答えるべきか迷った。

 これは、幻聴の類ではないのだろうか。


 というか、元の世界にいたのならば間違いなくそう考えた。

 だが、この世界は異世界ファンタジー。


 魔法も魔法使いもいる世界だ。

 念話などというものがあってもおかしくない。


 だが、仮にこれがそうだとして。

 どう答えればいいのだ。


『えっと、何か伝えたい事があったら、「伝える!」っていう強い気持ちを込めてみて。私の声が聞こえているって事は魔力があるって事だから、それで伝わるはずだよ』


 ……と、こちらの言葉が届いたかのような回答。


 よし、ならば試してみるか。


『――聞こえている?』


 届け、伝われ、聞こえろ。

 強く念じながら、叫んでみる。心の中で。


『あー、聞こえている。うん。何人か返事が来たね』


 何人か、という事は他にも聞こえている人がいるのだろうか。

 周りを見渡すが、同じく黒い囚人服姿の人たちが歩いているのが見えるだけだ。

 といっても、みんな前に向かって歩いている最中であり、表情まではわからないが。

 下手に止まって確かめるわけにもいかない。


『えっと、まずは自己紹介からが基本だね。私の名前はハナコ・ヤマダ。名前で分かると思うけど、キミ達の同胞だよ』


 ハナコ・ヤマダ――山田花子、ね。

 随分とベタな名前を。

 最近では、逆に珍しい気がする。


『とりあえず、騒がないでね。落ち着いて私の話を聞いて』


『……』


『えーとね。私はこの異世界に送られて来たキミ達の同胞で異人。あ、「異人」っていうのはここの世界の人たちにとっての私達の呼び方なんだけど、私達にとってはここの世界の人の方が「異人」なわけで、この呼び方変だよねっ』


 正直どうでもいい。

 早く話を進めて欲しい気がする。


『で、とりあえず私は自分達の呼び方は「現代人」って事にしてるんだけど、とりあえず、それでOK?』


『別にどうでもいい』


『……う。あー、はい、OKって事で話を進めるよっ』


 どうやら、他の囚人達からも辛辣なコメントでも返されたらしい。

 一瞬、口ごもってから話を続ける。


『とにかく! ここの世界の人達は私達、現代人の事を敵対視していてね。そんなところに閉じ込められているキミ達はよく理解しているでしょっ』


 それはまあ、確かに。

 問答無用でこんな豚箱モドキにぶちこまれたわけだし。


『それで、キミ達に聞くけど。 ……ずっと、そこにいたい?』


『すぐにでも出たい』


 心からの思いを込めて、言葉を贈る。


『うん。満場一致で出たいみたいだね。それじゃ、それを前提に話を続けるよ』


 どこか満足した様子の声で、会話を続ける。


『名前を聞いて気づいた人もいると思うけど、私もキミ達の同胞。同じ世界の出身だよ。私もキミ達が今いるような更生施設みたいなところに入れられそうになったんだけどね、運良く逃げる事ができたんだ』


 でも、と相手は続ける。


『そこから逃げる事ができても、この世界は地獄だった。どこからでも浴びせられる偏見の目。異なる常識。異なる神様。異なる政治形態。何もかもが、異質だった。私は世界から爪はじきにされたようにすら感じた』


 もしあそこで捕まらなければ……などと俺も考えた事があった。

 だが、そうだとしてもそれはそれで苦難の道のりだったようだ。


 だからといって、ここでの生活がいいとは思えないが。


『この世界にも、そんな私を受け入れてくれる人がいた。異人――私達現代人にも好意的な人がいて今は、その人のところで今はお世話になっている』


 この世界にもそんな人がいるのか。

 内心で、思わずつぶやく。


 何せ、これまであって来た人といえば、ここの管理員以外には俺を捕まえた街の騎士ぐらいだ。

 この世界の人間、などはほんの一部しかあっていない事を改めて思い知らされる。


『でも、私は私一人が助かってそれで終わりたくはない。他に一人でも多くの人を助けてあげたい。そう思って今、キミ達がとらえられている施設を調べ上げ、こうして声をかけている』


 そこで、宣言するように言う。


『――だから改めて聞きたい。キミ達は、そこから出たい?』


「出たい」


 思わずそう、口に出していた。


 一瞬、前を歩く管理員が怪訝そうにこちらを見た。

 だが、声が小さかった為か、何を言ったかまでは聞こえなかったようで、「歩行中は静かに」と軽く注意しされだけだった。


『出たい』


 改めて、心の中で強い思いを込めて言葉を送る。

 こんな刑務所みたいなところで、これ以上時を過ごしたくない。


 外の世界にまた出てみたい。


 そして何より――家族にまた会いたい。


『なら、出よう。その手筈は私が整えてあげる』


 ここから出られる……。


 昨日までは、夢にしか思えなかった事が今現実になろうとしている。

 そう思うと、奇妙な感覚が胸を支配した。


『……え? ああ、分かった分かった。質問にはちゃんと答えるよ』


 どうやら、誰かが質問をしたらしい。

 俺以外の囚人側の言葉は聞こえないので、何を質問したのかは分からないが。


『えーと、今質問が出たから答えるね。この念話を聞いているのはどのくらいいるのかって質問だね』


 そういえば、最初に魔力がある人にだけ送ったとかいっていたような……。


『あーはいはい、今この念話がつながれている相手は6人だね。魔力のない人間には、聞こえないよ』


『俺達にも魔力なんてものがあるのか?』


『あるよー。魔力とか、魔法っていうのはここにいる人達の専売特許ってわけじゃないよ。魔力さえあれば、私達旧世界人でも魔法は使える』


 ――魔法が使える。


 こんな状況で不謹慎かもしれないが、心が躍った。

 魔法なんてファンタジーなものを使ってみたいなんて願いは、子供のころに一度は抱くものだ。


『――と。だいぶ話しちゃったね。続きはまた今度。就寝時間の頃を狙ってするよ』


 それだけを言い残すと、ぷつん、と電話が切れるような音が聞こえたような気がした。


 それ以上、何も聞こえてこない。


 一方的な相手だった。

 もはや、何も聞こえてこない。


 いや、もしかして幻聴の類だったのではないか?

 そんな思いすら出てくる。


 ここでの生活も長いし、遂にそんなものすら聞こえるようになってしまったのだろうか。


 何せ、今までの会話が本当にあったなどと証明する事なんて――、



「あの……」


 ? 後ろから声をかけられて、怪訝そうに振り向く。


 少し年下の――黒1号と呼ばれている少年が、こちらを見つめている。

 何か言いたげな目だ。


 ……もしかして、こいつも?


 念話を聞いていた6人のうちの一人なのか?

 だとしても。


「今は黙っておこう。 ……なっ」


 管理員に不審に思われないよう、それだけを言うと後は黙って歩き続けた。

 黒1号もそれが伝わったようで、黙って俺の後に続いた。


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