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13話 決意表明

「これで全員か。 ……妾は疲れた、もう休むぞ」


 あれから、アレックス、タダシ、サラ、ナオキの順に『祝福』を受けていき、最後のナオキが出てくるのとほぼ同時にレミーも出てきた。


「ハナコよ、全員分すませたぞ。食事の準備をせい」


「はいはい、既に作っておきましたよ」


 そう言ってハナコは、握り飯の乗った盆を運んできた。


「いつの間に……」


「みんなが『祝福』を受けている間に台所でね」


「というか、こっちの世界に米ってあるのか?」


 西洋風なファンタジー世界に見えたし、実際にあの更生施設ではパンばかりだったので、てっきりち米自体が存在しないのだと思っていた。


「あるよ。まあ、こっちの土じゃ育ちにくいらしくて結構高いんだけどね」


「うむ。妾が大枚を叩いて買い込んだのだ」


 途中でどこか自慢げにレミーが言いながら、何の躊躇いもなく、手づかみで握り飯を持ち咀嚼する。

 伯爵家の――といっても、この世界の貴族がどういうものかはまだ詳しくわからないが――令嬢とは思えぬ食事方法だ。


「レミー様、そのような食べ方をされるとまたロジー様に叱られますよ」


「ええい、あ奴は今はおらんのだ。喧しく言うなっ」


「そういう言い方はよろしくないかと。ロジー様もレミー様の事を思ってゆえの苦言でしょうに」


「大体あいつは、昔から煩いのだ。公の場では礼節を守っておるのだから良いではないか」


 ロジーとやらの事はよく分からないが、二人のやり取りから察するにレミーの教育係か何かだろう。


「それで、俺達はどうするんだ?」


 二人だけの会話を遮る形で訊ねた。


「さっそく魔法を使えるようになったのか?」


「ん。間違いない」


 ごくり、と一つ目の握り飯を完全に飲み干した。

 すぐに次の握り飯に手を伸ばす。


 が、何を思ったかそれをこちらに向け、


「食うか?」


「いや、何か食欲がないからいい」


「そうか」


 はむ、と二つ目の握り飯を食む。


「あー、これまで使っていなかった扉を無理に開いたようなものだからね。しばらくは気持ち悪いかもしれないけど気にしないでよ」


「いや、コレ結構キツイぞ」


 喉元にまで込み上げてくる嘔吐感を抑える。

 見ると、他の4人も同様らしくどこか楽な体勢で寝そべっている。


「やっぱり、今日ロジーさんを連れてきてもらわなくて正解だったね。その状態じゃすぐに魔法使えるそうにないし」


「そうよな。妾としてはその方がありがたいがな。こうして好きに食事ができるのだからなっ」


 レミーは早くも3つ目の握り飯に手を伸ばす。


「そのロジーさんとやらは誰なんだ?」


「レミー様の護衛兼教育係ってところかな。昔は、上級騎士長にまでいった方なんだけど」


「いや、だからその上級騎士長ってのを知らないんだが」


「ああ、そうだったね」


 ごめんごめん、と軽く謝罪して言葉を続ける。


「簡単に言うとこの世界での、騎士の階級だね。元の世界の軍隊風に言うと将官クラスかな」


「それってもの凄く偉い人なんじゃないのか?」


「今は隠居した爺さんだがなっ」


 レミーがふん、と胸をはって言う。


「まあ、落ち着いてていい人だよ。私達現代人に対しての偏見もないし」


 まあ、確かにそれだけでも立派な人物に見える。

 これまで出会って来たこの世界の人間の大半は、俺達現代人――彼らの言葉では異人――に対して強い偏見と差別意識を持っている。


 レミーも例外といえば例外だが、彼女の場合はよく分かっていないだけな気もする。


「話の最中にすまない」


 アレックスが割って入った。


「ハナコ、もう一度確認しておきたいんだが――」


「ん、何」


「召還魔法について本当に調査をしてくれるんだな?」 


「もちろん! そう言っているじゃない」


 しつこいな、と言わんばかりの表情でハナコはむくれた。


「すまないな。だが、重要な事なんでな」


「全力を尽くすよ。けど、これまでにそんな例はない。それだけは忘れないでね」


 予防線を張るようにハナコは付け加える。

 アレックスは何か言いたげな様子だったが、結局口を閉ざした。


 召喚魔法、か。

 確かに帰還ルートがあるのであれば、それを確保できるに越した事はない。

 まあ、俺の場合は仮にそんなものが見つかったとしても帰るのはこの世界に弟が来ていないとしっかりと確認してからだ。


 いるのなら――帰還という選択肢を後に伸ばすほかない。全ては弟を見つけてからだ。


「あ、そうだ。ユタカ君。弟君の情報教えてくれないかな」


 そんな俺に、不意にハナコが話しかけた。


「これは、君が協力する条件だからね」


 ちゃんと守る気はあるようで安心する。

 まあ、こちらから先に言う気だったんだが。


「俺の弟の(ノゾミ)の特徴は――」


 と前置きしてから続ける。


「年齢は俺よりも5つ下だな。数えで14。髪の毛は黒色で少し長め――といっても、こっちの世界に来てしばらく経っているから伸びているかもしれないけど。目はぱっちりしていて大き目。それと、身長は俺より30センチくらい下で150弱ってところかな。やさしげな風貌で中性的な顔だちだな。パッと見女の子に間違われる事も多いけど、間違いなく男の子だからな! 何度も確認しているから勘違いするなよ。肌は柔らくて、暖かくてあの儚げな感触がいいよな。気遣いができるよくできた性格で、趣味は主に読書だな。昔から体が弱い子だからな、外であまり遊ばないんだ。まあ、俺としては怪我でもしたら困るからむしろその方が――」


「……いや、そこまでは聞いていないんだけど。というか前半の情報だけで良いよ」


 どこか引いたような目で見られる。

 失礼な奴だ。


 どうやら、他の転移者達4人も同様だったらしく同じような目でこっちを見ている。

 全く、おかしな奴らだ。

 サラは「相当なブラコンだあ……」などと、呆れたように呟いているし。失礼な奴だ。

 弟を守る兄として当然の事を言っただけなのに。


「それにしても体が弱い上に、いまだ14歳か。まずいね」


 ふむ、と考え込むようにハナコは顎に手を当てる。


「まずいのか?」


「14歳――いや、15歳未満って年齢がまずい」


「年齢が問題になるのか?」


「うん。この世界では、15歳からは成人。15歳未満は子供とみなされるんだ」


「それで――?」


 本題はこれからだろう、と先を促す。


「これは、異人達にも当てはまってね。15歳以上の異人は邪な考えを捨てさせて、更生する為に更生施設――キミ達がいたところだね――に入れられる。そこで、改心したとみなされれば準市民権を貰う事ができる。でも、あくまで準市民権だ。権利は正式な市民と比べれば制限される。更生したところで、あくまで元異人であり危険人物には違いない。そういう判断なんだ。でも、15歳未満の場合は精神はまだ未熟。矯正して純粋な市民になる事もできる。そう考えられて、別の施設に入れられる」


「えっと、それって良い事なんじゃ……」


「良い事じゃないよ」


 ばっさりと切り捨てるようにハナコは言った。


「いい? その矯正施設っていうのは、本当にえげつないところでね。元の世界の教育委員会やら人権団体なんやらが見たら卒倒するような事を普通にやっている。言う事が聞かない子供がいたら、体罰は当たり前。精神的、肉体的に大きなダメージを追って中には廃人、ひどい場合は死に至るような事だってあるんだ」


「――っ!」


 ……。

 驚愕した様子でサラが青ざめる。


「……それで?」


「えっと、ね。あちらも矯正があくまで第一目標な以上、できる限りその一線は超えないように気を使っていると思うけど――」


 余計な事を言ってしまったか、と言わんばかりにハナコは首を横に振る。


「だ、大丈夫! 基本的にそういう目にあうのは、なりふり構わず逆らうような子だから! 話を聞く限り、キミの弟さんは大人しい子みたいだし――」


 とハナコは首を上下に振っていたが、


「あ、もうこんな時間か。それじゃ、私はレミー様を見送ってくるよっ」


「うむ」


 これまで会話に加わる事なく、握り飯と格闘していたレミーが椅子から立ち上がる。

 「食いきれなんだぞ!」「包んでお弁当にしますよ。帰りにでも食べてください」などといった会話の後、彼女らは部屋から出て行った。


 しん、と部屋は異世界転移者の5人のみとなった。


「えっと、その、ユタカさん」


 傍らから、サラが恐る恐るといった様子で話しかける。


「冷静なんですね。正直意外でした。弟さんの事を溺愛しているみたいでしたし、もっと怒ったりするんじゃないかと……」


 サラが、そんな事を言う。


「まだ、実際にノゾミがその施設にいるって決まったわけじゃない。決まってもいないのにそんな想像で怒ったりはしないさ」


 そんな想像したくないし、と俺は続ける。


「まあ、問題はまだ山積みだ。今は情報収集に徹して、一つ一つ問題を解決していこう」




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