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11話 異人の血

「さて、方針が決まったところで――」


 コーエンが去り、5人と1人になった部屋。

 そんな中、ハナコが切り出した。


「まず、私達を支援してくれる人に会って貰おうと思うんだ」


「それがさっき言っていた、俺達現代人に好意的だっていう貴族か?」


「そうだよ。その人の協力がないとこの屋敷だって、確保する事ができなかったんだ。この屋敷は名目上、その人の別荘って事になってるからね」


 それに、とハナコは続ける。


「皆には『祝福』を受けて貰う必要があるからね」


「その祝福っていうのは確か、魔法を使えるようにする儀式だったか?」


「概ねその認識で間違っていないね」


 ハナコはうん、と満足気に頷く。


「とにかく、高い魔力があっても魔法が使えなければ意味がないからね」


「それで祝福とやらか」


 アレックスが腕を組んで頷く。


「ま、いいだろう。受けてやるよ。その祝福とやらを」


 タダシも同意する。

 サラ、ナオキも頷いた。


「みんな、『祝福』を受ける事には問題はないみたいだね」


「それで、俺達はその『祝福』とやらを例の貴族から受ける必要があるのか?」


 俺が訊ねた。


「そうだね。本当はそれが望ましい。 ――だけど」


「だけど?」


「この辺りの領主――イツキ伯爵という方なんだけどね。その方が例の支援者なんだけど――」


「何か問題があるのか?」


「うん。かなり多忙な方でね。それに、敵も多い。足を引っ張る材料を探している貴族も多いって話だよ」


「ミー達はその絶好の餌ってわけか」


 何せ、この世界で異人とやらは蛇笏の如く嫌われているのだ。

 そのイツキ伯爵とやらにとって、アキレス健になりかねないだろう。


「じゃあ、誰から受ければいいんだ?」


「三女の、レミー様がいいかな。彼女は他の貴族からもほぼノーマークの状態だし」


「……いや、俺達はそのレミー様とやらの事が分からないんだけど」


「そういえばそうだったね」


 ごめん、と軽く誤ってからハナコは続ける。


「レミー様は、まだ13歳。15歳で成人扱いのこの世界でも、未成年―—子供なんだけどね」


「子供だと『祝福』とやらに問題が出るのか?」


「いや、別に問題はないよ。『祝福』っていうのは、いわば魔法を使えるようにする為の扉を専用のカギを使って開けるようなものだからね。カギを持っている人間ならば、誰が開けても同じってわけさ」


「なるほど」


 分かるような分からないようなハナコの説明にと頷いてから、


「ところで」


「ところで、何?」


「イツキ伯爵、だったっか。何か、日本人名っぽい響きなんだな。もっと西洋風な名前かと思ったが」


「いや、一般的には西洋風な響きの名前が多いよ。この国で力があると言われている二大公爵家の、アルビオン公爵とかアークランド公爵なんて完全にまさにそうだし」


「じゃあ何でイツキ伯爵とやらは、そんな名前なんだ?」


「んー、詳しくは知らないけど異人――それも、日本人の血が混じっているとは聞いた事があるよ」


「日本人の? 大丈夫なのか、それで」


 この世界で俺達現代人は差別対象だ。

 にも関わらず、その血が混じった相手が貴族とは。


「いや、別にそういうケースは他にもあるらしいよ。そもそも、この黒の帝国の初代皇王の母親は異人――それも日本人だって話だし」


「そうなのか?」


「うん。初代皇帝アルスターの側室の一人」


 意外なその言葉に、俺だけでなく他の4人も驚いたような表情を浮かべる。


「でも、異人狩りに熱心な人だったって話だし、今の異人管理に関する法律を定めたのもその人だって話だよ」


「そうなのか……」


 はたして、同じ世界出身のその人がどういう考えで元同胞達を露骨に区別するような法律を作ったのか分からない。

 それを知るには、決定的なまでに情報が足りなかった。


「まあ、はっきり言って血そのものは大して問題にされていないんだよ」


 やれやれ、とハナコは肩をすくめ、


「異世界人だとか、異世界人の血だとかそんな事よりも、私達の思想やら行動の方が問題らしいからね。実際、出生そのものは大した問題にならないんだ」


「憎むべきは人ではなく、異人の思想――という事か」


 アレックスの言葉にハナコは頷く。


「そういう事だね。実際、この世界での生活を受け入れて暮らしてさえいればそこまで問題にならないんだ。例の更生施設で数年。そして、あそこを出れば仕事先も斡旋して貰える。あの施設の出身者――『更生異人』っていう言い方するんだけど。そういう人たちは割と受け入れられているんだ」


「逆に、あそこを脱走なんてしでかした不良異人は別なのだな」


「まあ、そうなるね」


 タダシの言葉もハナコは肯定して見せた。


「一度脱走なんてやらかした以上、俺達はその道には戻れない」


「私の事恨んでいる?」


「まさか。あそこで朽ち果てるよりかはよっぽどかマシだ」


 ふん、とタダシは鼻を鳴らす。


「それじゃ、この他に何か質問はあるかな?」


 皆は黙っている。


「それじゃ、次に行動を移すのは『祝福』を受けてから。それまでは、ここで疲れを癒してね」


 その言葉で、いったんは話会いに幕が引かれた。

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