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10話 離脱者と残留者

 再び、皆が集まっている。

 6人の元収容者達。


 その前に立つ自称ヤマダハナコ。


「……それで」


 口火を切ったのはアレックスだった。


「大体の事情は分かったつもりだ」


「……」


「この世界で、ミー達は異人として嫌われているんだな」


「……そうだよ。というより、恐れられているといった方がいいかな。おかしな考えを持った頭のおかしな集団。元の世界でいうなら、カルト教団みたいな扱いなんだ」


 ハナコが頷く。


 来た途端にあんな更生施設に入れられたんだ。

 それはよく分かる。


「それであのムショモドキか。まるで、犯罪者扱いだな」


 吐き捨てるようにタダシが言う。


「犯罪者というより、病人のような扱いというべきかな。『異界教』ともいうべきおかしな教えに毒された被害者――私達の事をそう見る人も少なくないし」


「異常者の次は哀れな犠牲者か。どちらにせよ不愉快だ」


 けっ、とタダシは苛立った様子で椅子をける。


「まあ、そんな風にこの世界で私達がまともに生きていく道はない」


「それで何だ、ここでグチグチ言いあいながら一生を過ごせと?」


「……」


 一呼吸おいてから、ハナコは続ける。


「そうは言わないよ」


「なら何だ、革命でも起こして国を倒せというのか」


「そっちに近いね」


 タダシの答えにハナコはニッと笑う。


「あまりに無謀じゃないのか?」


 アレックスが口を挟んだ。


「ミーも、この世界の大体な事は資料を読んで知った。それによると、異人――要はミー達への――への差別は大陸を支配している『帝国』とやらの国是だし、大陸の人間の共通認識らしいじゃないか」


「ま、落ち着いて。先走らないで」


 ハナコが捲し立てるアレックスを諫めるように、片手を前に出した。


「私だって、私達だけで帝国を倒そうだなんて言っているわけじゃないよ。はっきり言ってほとんど不可能に近いし」


「当然だな。第一、俺達にそんな事をしてやる義理はない」


 コーエンの言葉を無視するようにハナコは続ける。


「でも、今はダメでもいずれは可能になるかもしれない。資金をためて、人員を揃えて武器も手に入れれば」


「ちょっと待て」


 ここで俺が口を挟んだ。


「以前にそれをやっていたあんた達の仲間は全滅したんだろう、にも拘わらず俺達にも同じ事をしろというのか」


 その指摘に、ハナコは即座に答えた。


「同じじゃないよ」


「同じじゃない?」


「うん。あの時は、魔力素質が大してない非戦闘員も多くいた。人数も多くて統制しきれないし、食料や物資だって十分じゃなかった。色々と急き過ぎていたんだ」


 だから、と続ける。


「今回は魔力素質が高い人だけで、人数も少なく少数精鋭で戦いたい。資金も十分に集めてから反撃に出たいんだ」


「――」


 その言葉に、皆は黙る。


「俺達に、それをやれというのか」


「キミ達だけじゃないよ。私も協力する」


 ハナコの言葉に、皆は顔を見合わせる。


「具体的には何をしろと?」


「当面は資金稼ぎ、かな」


「資金稼ぎ?」


「うん。この屋敷や提供してもらっているものだし、ある程度の生活費は自力で稼ぐ必要があるし、行動を起こすのにも資金はいるからね」


「……どんな手段でだ? この世界は俺達は異人法だかなんだかのせいでまともな職につけないはずだが」


「それはもう、色々とね」


「……」


 どうやら、まともな方法ではないようだ。

 それだけは伝わって来た。


「それに、私達の同胞達の救出だね」


「魔力のある同胞を、か」


 コーエンが皮肉げに付け加える。


「戦力に余裕が出てきたら、魔力素質がない人達も助けようと考えているよ」


 ハナコがそう付け加える。


「余裕が出たら、か。いつになる事やら」


「それで、どうかな」


 今度はコーエンの皮肉も無視し、皆に向き合って訊ねた。


「別に、私に協力したくないっていうならそれでも良い。ここから出て行ってくれても構わない。それは自由だよ」


「なら俺は出ていく」


 遮るように言ったのはコーエンだった。


「俺は馴れ合うのはごめんだ。勝手にやっていろ」


 ふん、と鼻を鳴らすと部屋のドアの近くまでこつこつと歩く。


「これからどうする気なんだ?」


 出ていこうとする、コーエンにアレックスが聞いた。


「俺は一人で生きていく。 ……それだけだ」


 そう言い残すと、扉を開ける。


「本当にいいのか?」


 アレックスが再び訊ねるが、コーエンの答えは変わらない。


「いいに決まっている。お前らの巻き添えで死ぬわけには、いかねえからな」


 それだけを言い残すと、今度こそ本当に立ち去った。

 シン、と場が静まる。


 それ以上呼び止めようとする声は、どこからもなかった。

 ハナコですら、そうしようとはしない。


「……あの、良かったんでしょうか」


 サラ、がおずおずといった調子でそう言うのがやっとだった。


「構わないだろ。気難しそうな奴だし、下手に引き留めても逆効果さ」


「それはそうですけど……」


 どこか納得しかねる様子のサラを無視するように、ハナコに訊ねた。


「アンタもこれで良かったんだろ?」


「そうだね。無理に協力させたって意味がないし」


「そうか。じゃ、コーエンの話はもういいとしてだ。そんな事より、一つ聞きたい事がある」


「何かな?」


「実は、俺には弟がいるんだ」


「……そうなんですか」


 不意にそんな事を言われ、少し驚いたように目を瞬かせる。


「この世界に来る直前まで一緒にいたんだ。もしかしたら、こっちの世界に来てしまっているかもしれない」


「……同時召喚、か。確かに例がないわけじゃないけど」


 考えるように、ハナコは顎先に指を当てた。


「弟がこちらに来ているか分からないのか?」


「うーん、その質問にはイエスともノーとも答える事ができないんだ」


 ……。

 そんな困ったような様子で、ハナコは続ける。


「何せ、召喚というメカニズム自体がよく分かっていないんだ。とにかく、ランダムでこっちの世界に飛ばされるって事ぐらいしか。過去に、家族や友人とセットで飛ばされたっていうケースもあるけど、その場合でも同時召喚だった事もあれば、全く違う場所で召喚されたケースもあるからね」


「つまり、来ているかどうかわからない、と?」


「そうだね」


 こくり、とハナコは頷く。


 ……一応、可能性は残るのか。


 こんな異人だから、などという理由で迫害される可能性のある世界に来てしまった可能性が。


 ……逆に、平和に元の世界で暮らしている可能性が残っている事も喜ぶべきか。


 だが、どちらにせよ俺の答えは決まった。


「では、弟の捜索と保護だ。この二点を約束してくれるなら、俺はあんたの仲間に

でもなんでもなってやる」


「ユタカさん!?」


 驚いたように声を出すサラを無視して俺は続ける。


「もちろん、やるからには全力でやる。そもそも、この世界がこのままじゃあ、弟を見つけても安心して暮らせないしな」


「……分かった、こちらも全力で弟さんを探すよ。それに見つけた場合も、魔力素質の有無に関わらず保護する」


 ハナコは俺の言葉にしっかりと頷いた。


「なら問題ないな。俺は協力する」


 俺の言葉に続くように、ず、とアレックスが前に出る。


「一つ聞きたい」


「なんなりと」


「元の世界への帰還方法というのはあるのか?」


「ないね」


 アレックスの問いにハナコはあっさりと答える。

 まあ、当然といえば当然だろう。そんなものがあるなら、俺達現代人でも安心して暮らせる世界なんてのを目指すように全員揃って帰還を目標にするべきだ。


「召喚なんて事ができているんだから、逆に送り返す召還魔法なんてのがあっても不思議じゃないと思うが」


「確かにそういう存在があるかもしれないけど、少なくとも私は知らないし、話題にもなっていない。元の世界に帰ったなんて話も少なくとも私の知る限りでは一つもないね」


「……」


 アレックスは暫く無言だ。

 だが、3分ほどの沈黙の後に口を開いた。


「ミー達を送り返す召還の魔法、それの調査を依頼したい。それを条件にするならミーも協力する」


「……ふむ」


 少し意外そうに目を見開いた後、ハナコは首を縦に振った。


「分かった。いいよ。召還魔法なんてのがあるんなら、私も興味があるしね。それじゃ、その条件で貴方もオーケーね。続いてだけど……」


「俺も構わないぜ」


 タダシが答えた。


「……いいの? 貴方は何か条件とか出さなくて」


「構わねえよ」


 どこか愉快そうにタダシは答える。


 ……ううん、この男に関してはまだよくわからない。


 少なくとも、この場から離脱したコーエンと比べればまだ協調性はありそうだが。


「後の二人は?」


「えっと……」


「そ、そうっすね……」


 サラとナオキが狼狽える。

 この場では、最年少になる二人だ。


 まだ、親の加護の元育ち、義務教育をようやく終えたばかりの年齢二人にとって今後を左右するような重い選択肢など、とても選ぶ事ができないのだろう。


 何せ、革命組織まがいの集団に手を貸すか、何のコネもないどころか、敵しかいないような世界に身一つで放り出されるかの二択を選べと迫られているのだ。

 だが。


「どっちにせよ、選択肢なんて実質一択だと思うけど」


「ゆ、ユタカさん?」


「どういう事っすか?」


「どういう事も何も、言葉通りだよ。お前達、どこか外国にでも旅行中に財布もパスポートもなくした状態で放り出されて帰ってこれるのか?」


「えっと、それは……」


「多分無理、です……」


 青ざめた表情のまま、二人は答える。 


「それよりもさらに悪い状態なんだぞ。何せ、外国なら日本行きの飛行機だってあるだろうけど、この世界じゃそれすらあるか分からないんだぞ。しかも、この世界の住民は|現代人≪俺達≫が大嫌いときた」


「……」


「……」


「年下のボーイとガールをいじめるのは良い趣味じゃないな」


 アレックスに遮られた。


「別にいじめてたつもりはないんだけどな」


「そうか。そりゃ悪い事したな。ただ、ミーにはそう見えてね。ところで、お二人サン」


 そう言って、二人にじっと向き合う。


「言い方はきつかったかもしれないが、確かに彼の言う通りなんだ」


 アレックスの言葉に、改めて二人は黙り込んでしまう。


「実質、ミー達にとれる選択肢は二つしかない。あのクレイジーのように無謀を承知で一人で行動するか、ここに留まるかのな」


 おそらくクレイジーとやらは、あのコーエンの事だろう。


「そして、さっきユタカが言っていたように外の世界に一人で行くのは危険だ。それはミーも同感だ。クレイジーのようにそれでも行くというなら、無理に止める気はない」


 しかし、とアレックスは続ける。


「ここに残るっていうならば、ミーができる限りユー達を守る。まだハイスクールに通っているような年齢のボーイやガールを守るのは大人の義務だと思うしね。危険な事にも極力参加させない」


「……」


「……」


「だから、どうだろう。残ってくれる気はないか?」


 その言葉に、しばらく二人は顔を見合わせていたが、


「えっとそれじゃあ……」


「ここでお世話になる事にします」


 そう言って、この場に残る事に決定した。



「話は決まったみたいだね」


 俺達の話し合いが終わるのを見計らった様子で言うと、ハナコは続けた。


「それじゃ、改めてこの6人で頑張っていくとしよう」

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