第2話 情報収集と冒険者登録
現在俺は異世界トリップしたと思われるこの世界の宿屋の一室に泊まっている。
今日1日で分かったことはここがシドの街と呼ばれていること、そして自分が持っていた皮袋の中にこの世界の通貨が入っていたことである。皮袋の中には金貨1枚、大銀貨9枚、銀貨9枚、大銅貨9枚、銅貨10枚入っていた。察するに、銅貨10枚で大銅貨1枚と考えればいいのだろう。通貨も昼食を食べる為に見つけた露店で、ボールラビットというモンスターの肉で作った串焼きを買ったので通貨単位はジルだと判明している。
「何より幸いだったのは俺がこの世界の言葉や文字が分かるってことだよな」
どういうことかは分からないが、明らかに日本語や英語ではないこの世界の言葉や文字を、生まれた時から知っていたかの様に理解することが出来た。おかげで露店で買い物することが出来たし、こうして宿屋に泊ることも出来た。現在は夕食を食べ終えて部屋で一息ついたところだ。
「明日は冒険者ギルドに行ってみるかな」
今日街を散策した時に見かけた冒険者ギルドと書かれた看板の付いた大きな建物を思い浮かべる。異世界転生やトリップものでは主人公がそこへ所属するのは定番中の定番だ。情報を集めるという意味でも行かない手は無いだろう。
ひとまず今日はもう寝て、明日に備えるとしよう。そう思い少々固目のベッドで夜を過ごすのだった。
翌日、朝食を食べてから宿を出て、冒険者ギルドへと向かう。中に入るとまだ朝早い時間だからか、人はまばらで閑散としている。冒険者というとゴロツキが多いイメージもあるので、内心ほっとしつつ案内板と思われるところに向かう。案内板には1階に受付、モンスターの素材や採取した薬草などを買い取る換金所、冒険者達が情報交換をすると思われる休憩所に中庭には訓練所もある。2階は図書室になっており、訓練所の様子が見れるテラスにも繋がっているようだ。
(これは僥倖、さっそく図書室に向かうとするか)
冒険者ギルドに所属していなくても、図書室の利用などは特に規制されてはいないらしくすんなり入ることが出来た。
図書室で調べて分かったことはまず、このシドはシームンと呼ばれる大陸にあるフォズ王国に属する街だということ。
街の形は円形で城壁に囲まれており、東西南北に門が設置され街の中心部にまで大通りが続いている。その中心部には領主の城が建ち、そこから広がる様に高級住宅街、商業区、一般住宅街と続いている。商業区は高級店が高級住宅街側に集中し、一般住宅街側は露店等が多く並んでいる様だ。ちなみに冒険者ギルドは商業区南の中間地点に建っている。
街の周辺には駆け出し冒険者向けのモンスターが生息、東の森は同じく駆け出し向けの狩場らしいが、奥にはもう少し強いモンスターが生息しているらしい。西、南はそれぞれ徒歩3日ほどで着く街があり、北には王都フォズが5日かかるところにある。
「ひとまず欲しい情報は出そろったかな?」
だいたい3時間くらいだろうか、街とその周辺の情報は把握出来た。あとは冒険者ギルドに登録すればこの世界で生きるためのスタートラインに立てる。
(げっ!?)
登録をしに1階に下りると、さすがに時間が経ったからかかなりの数の冒険者らしき人達が集まっている。イメージ通りのゴロツキの様な強面の冒険者もそこそこ目に入る。
(早々に登録を済ませてここを離れよう……)
今の自分の姿は『ザ・一般人』である。武器も防具も一切身に着けていない。絡まれでもしたら手の打ちようが無い。なるべく周りと目を合わせないようにしながら早足で受付に向かう。
「冒険者ギルドシド支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」
受付に着くとシャープな形の眼鏡を掛けた女性が丁寧に対応してくれた。なかなかの美人である。
「こんにちは、冒険者の登録をお願いします」
現代では出会いに恵まれなかっただけに少しドキドキするが、表面上は冷静な態度を装う。
「かしこまりました。冒険者登録ですね。登録前に冒険者とギルドのシステムについてご説明いたしますか?」
早々に退散はしたいが、この説明は聞いておかなければ色々と支障をきたす。
「お願いします。」
「ではご説明します。冒険者はギルドの依頼掲示板にある様々な依頼書を達成することが仕事となります。
依頼書には依頼者、受注可能クラス、依頼の内容、期限、報酬が主に書いてあります。
受注可能クラスについては、そのクラス以上の冒険者しか受注できません。冒険者のクラスは1つ星クラスから始まり10つ星クラスまであります。クラスは依頼の達成量、3つ星以降はギルドが提示する特定のモンスターを討伐することで上がります。
1度受注した依頼を放棄する場合は一部を除き違約金を払っていただくことになります。もし違約金が払えなくなってしまうと、奴隷身分に落とされてしまいますのでお気を付けください。
また、冒険者は長く同じ場所に留まる方が少ないので必要金額さえ渡していただければ、ギルドで代わりに税金の支払いなどを代行いたします。
依頼の内容によっては命の危険があります。死亡、怪我については自己責任となります。
その他、疑問に思ったことがあったらその都度遠慮なくご質問ください。
では、登録いたしますか?」
「お願いします」
そこから先はスムーズに事が進んだ。登録は種族、名前、年齢を渡された用紙に書くだけ、名前に関しては身分を隠して活動する人もいるとのことで偽名も認められていた。その時に苗字持ちは身分の高い人がほとんどだと知ったので、苗字は書かないことにした。種族は当てはまる個所にレ点を書けばいいだけだったので問題なく済んだ。この世界の種族を調べ忘れていたので内心焦っていたのは内緒だ。
「では、こちらが冒険者カードになります。紛失や盗難には気を付けてください。再発行するさいは300ジルかかります。これで登録は完了となります。依頼を受けるときは掲示板の依頼書を受付までお持ちください。」
そう言って、受付の人は金属製のカードを差し出す。そこには
名前:リク 年齢:16 種族:人間
と、刻まれており左下には小さな星形の穴があけられていた。これが1つ星ということなのだろう。ひとまず無くさないように皮袋中にしまっておく。
これで登録は終わった。さっそく武器屋と防具屋向かうことにしよう。