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猫族スコティッシュフォールドの冒険譚

作者: 大福介山

 私は猫である。

 

 種族は猫族、二足方歩行型。毛の色は灰色。つぶらな瞳は紫色。身長体格は30㎝のぬいぐるみ体型。随分とまあ小柄ときたもんだ。ちなみに白魔法が使えるのだが、力の発信源は耳にある。この耳には目のような模様があり、我ら一族の特徴だな。この耳は普段は力のコントロールのため折りたたんで塞いでいる。丸まった耳が可愛いと周りからは評判だ。照れくさいものだな。


 おっと、申し遅れたが、私の名はスコティッシュフォールド。略称はスコット。普段はビースト・ザ・キングダムと呼ばれる秘境の国を治めてる王だ。皆からは王様と言われているからそう呼んでくれ。



 この国を治める王として日夜精進している。帝王学、経済学、武術、処世術、礼儀作法。文化交流、政治力と、挙げたらきりがないな。

 そして、宇宙が生まれる遥か昔から存在していると言われている伝説の神器「聖剣」を使いこなすために偉大なる魔法使いグランドニャザー様から修行をつけてもらっている身でもあるのだ。


 王や修行の身と聞いて、武骨な外見を想像し誤解している紳士淑女やお子さんもいるかもしれないからあえて言おう。



 私の外見はすこぶる可愛い猫であると。


 人間達の住む街をこの小さな二本足でトコトコといった具合で歩いていたら、大抵のマダムやキュートなガールたちが黄色い悲鳴を上げる。カワイイ、とな。



 だが、もう一つあえて言おう……。



 私の声は超低音ボイスであるとな。


 ニャッパパパパパ!!


 そう、初対面の者たちは皆私の愛くるしい外見を見て、カワイイ子猫ちゃんと油断するわけさ。

この間バーに飲みに行った時だ。カウンターに座って一言、


「ミルクを頼む」


 と言ったのさ。


 するとどうだ。周りのテーブル席から一斉に笑い声が上がった。愛らしい見た目、酒場なのにミルク、見た目に反して声が低いの三拍子でツボに入ったらしいな。しかし、次に私が言った言葉でその場は静まり返った。


「今笑った奴全員手を上げろ」


 ドスの聞いたかなりの低音で言ってやったさ。おまけに瞳孔を縮小させてな。客たちは全員ビビッて

手を上げなかった。だが、私の心は大宇宙のように広く寛大だ。おまけに慈悲深い。仕方がないのでこう言ってやったのさ。


「笑ったと思う奴を指差せ」


 あの光景は実にシュールだぞ? 客全員が該当しちまったんだからな。私はすかさず肉球に魔力を込めて――――



「死に晒せやゴラアァ!!」


 派手にぶっ放し続けてやったさ、ニャパパ。店とマスター、店の備品、商品には結界魔法を掛けておいたから問題ないぞ? 遠距離魔法攻撃により肉球から放たれた白い光球は次々と無粋な者達を追いかける。いや~逃げ惑うあいつらは実に愉快だった。ニャッパパパパパ!!



「へえ~そうなんだ~?」


「パニャー、パニャパニャパニャ~、フニャフニャ、ニャパー!」


「そっか~そっか~」


「フニャフニャフニャニャ~ン! ニャパニャパパ~」


「えへへ~すごいね~ねこちゃん」


「パニャー!」


 ここは、芸術と美術のメガロポリス、否。スリの都パーリィーシティの路地裏。


 スコティッシュフォールドこと王様は、修行の一環としてこの惑星に降り立ち、中心都市となっている街に来た。だが、彼は今路地裏で間の伸びた、たどたどしい喋り方の少女と会話していた。


 否。


 正確に言えば会話はしていない。と言うよりも、コミュニケーション事態成立していない


「パニャパニャパニャ~!(そうかそうか面白いかお嬢さん!)」


「えへへ~えらいね~よしよし~」


「ニャパー、フニャニャフニャ~ン、ニャフ~(おお、私の毛並みを好きなだけ実感してくれたまえ)」


「あ~よろこんだ~かわいいね~」


 そう、王様がどんなに武勇伝を高らかに語ろうが、人間であるこの少女にはすべて「パニャー」、「ニャパー」「フンニャニャー」にしか聞こえていない。彼女からしたら、スコットは自分に向かってカワイイ鳴き声で反応してくれる、二足歩行で歩くただの変わった猫にしか見えていない。


 並行宇宙空間(マルチバース)に無限に広がる大宇宙。

 宇宙樹(ユグドラシル)銀河系を含めた数多くの銀河系には、多種多様な種族が存在しているが、元は一つの宇宙だったため、大抵(・・)の種族は、文字はわからなくとも共通の言語を話している(無自覚)。

 だが、言葉が通じない種族も多く存在している。今の王様と少女のようにだ。


 王様の種族は、他種族、特に人間の話している言葉は理解できるが、こちら側からの言葉は、テレパシー能力を使わないと通じない。そのことを十分理解して星を巡る修行の旅に出たわけだが、路地裏で休んでいたら、この少女が自然に話しかけてきたので、王様は言葉が通じると誤解して今のような状況になっている。普段は毅然としている王様だが、意外と天然で抜けてるところがある。


「あたしはね~? マチェ=エルっていうんだ~よろしくね~、ねこちゃん」


「パニャパニャパ。ニャパパパ~、ふんにゃにゃ~(私はスコティッシュフォールドだ。よろしく)」


「ねこちゃんのなまえは~、う~ん、そうだな~」


「ふにゃにゃ? (いや、私はスコティッシュフォールドて……)」


 王様は、ここでようやく気が付いた。自分の会話が全く成立していなかったことに。

 そして、肌は見えないが真っ赤になって恥ずかしくなり、急いでテレパシーで本来のコミュニケーションを図ろうとしたが……。


「え~とね~? はだかだから、おうさま!」


「にゃぱ!?」


 一歩遅かった。毛が生えているのに、普段呼ばれている名称と同じく「おうさま」と命名されてしまった。と言うよりも裸だから王様っていうその変な理屈は何だとツッコミたかった。彼の友人兼家臣たちがこの場にいたら、全員腹を抱えて笑い転げてもんどり打っていただろう。

 タイミングをしくじったせいで、王様はテレパシーで会話をするのを躊躇ってしまった。彼女からしたら、自分は路地裏に迷い込んだ、かわいい猫なのだから……。


「ちょっとおさんぽしよっか、おうさま?」


 そう言うとマチェ=エルは、王様を抱きかかえて立ち上がり、路地裏から表通りへ歩き出した。王様は精々抱きかかえているがいいと、ふんぞり返って彼女にされるがままでいることにした。


「おうさまはいくつなのかな~まだこねこだよね~?」


「ニャッ……ピャー……」


 さっきと同じように話そうとして、寸前で躊躇したため、変な鳴き声になった。


「わたしはね~たぶんじゅ~ろくなんだ~」


『なっ「ニャッ」パ、なんだとお!?』


「え?」


 おうさま、もとい王様は思わず自分の口を押さえて焦った。彼女の年齢を聞いて、言動と見た目のあまりのそぐわなさに驚いた拍子に、塞いでいた耳を開けてテレパシー能力が漏れたのだ。


 ちなみに、王様は30㎝しかないため、彼から見た彼女はかなり大きい。ヒトの子供でも大きい。故にいつも外見で年齢を推理せねばならず、彼はヒトの歳を図るのをかなり苦手としているが、マチェールの言動がかなり幼かったので、先入観で幼女と思い込んでいた。


 しかし、彼女の口から出た数字は16。ハイスクールに通う歳だ。

どうしてこんなにも幼稚っぽく、間延びしていてたどたどしく、知性の欠片もない話し方なのか、非常に気になって仕方がないが、王様は漏れたテレパシーをごまかす方を優先した。


「ぱにゃ、ぱにゃ、ぱにゃ、ぱにゃ~♪」


「あれ~? おうさま、おさんぽたのしい?」


「パニャパニャフッシャ~♪」


「あたしもたのしいよ♪」



 もう、どうにでもなれ。彼はそう思った。

これも何かの縁、修行の一環だ。今は取り敢えず、このマチェ=エルという謎の少女に猫扱いされることにしよう。それに、彼女が妙にみすぼらしく、服が少し薄汚く所々修繕の箇所があるのも気になったからだ。この少女に家族はいるのだろうか? 友達はいるのだろうか? 考え始めると止まらなくなった。どうやら、彼女の話し方に自然と和み、心を奪われたらしい。自分を見つめてくる眩しいくらいの純粋な笑顔も好きになった。


 王様は、マチェ=エルに抱かれたまま、しばし、煌びやかな街並みの景色を楽しんだ。

※王様の声のイメージは竹中直人

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