心優しい侵略者と、友達になる話。
タイトルのやる気の無さは目を瞑ってください…。
矛盾した表現が許されるのなら、それは…本当にゆっくりとした一瞬だった。
まるで世界中その瞬間だけ、世界中の人々の動きが止まり、時間がゆっくり流れてしまったかのように錯覚する。
そんな時に、『彼女達』は天から降りてきた。
圧倒的なまでの存在感を放つ空飛ぶ乗り物から、スローモーションの雨の様に降りてきたのは…様々な個性がありつつも、どれも儚さと美しさを放つ彼女達。そんな彼女達を見て、天使の様だと思った物も少なきなかった。
――それが人類破滅への歴史の、最初の出来事。その、ほんの触りの所だとは、誰も思いもしなかった。
『彼女達』に気をとられ、人々は上空から迫ってくる異変に気が付かなかった。
気付いたときには、良く分からないエネルギーの塊により炎、もしくは勢いよく吹っ飛んでくる瓦礫、金属片、ガラス片…様々なモノが、彼女達の周囲に居た人々を、建物を包み…そして、街一つを包み込んだ。
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「………。」
一昔前の資料を読みながら、僕は眼鏡の位置を直す。
とある筋から手に入れた、当時の貴重な記録らしいその資料には、もう僕――否、今を生きる『僕達』が既に知っている事しか、書かれていなかった。
「どうやったって、絶望へのカウントダウンが始まっている様にしか書かれていないんだよなぁ…。」
まるで、もう人類に打つ手がないみたいに書かれた資料を無造作に机に置き、僕は静かに嘲笑を浮かべる。
「大体さ…当時の人達が、こんな語り口調な資料書ける訳?」
古ぼけた様な紙に書かれ、わざとらしい古いインクと土埃の匂いをさせたその資料…捻くれた僕には、全て胡散臭く感じた。所詮、古くさく加工された作り物だろう…そういう風にしか感じられなかった。
「結局、アポストルについては全く書かれていなかったし。」
資料で『彼女達』と表され…今では何の因果か、『使徒』なんて呼ばれている彼女達は…相変わらず今もこの世界に存在している。
…いや、この表現は正しくないだろう。ある意味アポストル…その存在を感じない日は、ないのではないだろうか。
締め切ったカーテンを少し開き、ガラス窓越しに外を覗けば…イマイチ良く分からない――だけど、一応科学の原理で空を飛んでいるらしいアポストルの一人が、目に入った。
その顔は、作り物めいた無表情が張り付いていた。
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各地で起こったらしい、あの大量破壊の後…地球は大幅に人口が減り、今までの社会を保っていた諸々の主要施設が吹っ飛んだ。
世界的に大きな損害が出た人類は、アポストルの脅威に怯えながら、何とか身を寄せ合って生き、密かに主要施設を地下に移しながら、でもやっぱり人々は日の当たる地上に住みながら、細やかな生きる喜びを感じ合っていた。
そんな時もポストル達は、高度の低い人工衛星の様に、はたまた鳥の様に、僕達人類を監視していた。
生きるのに、ちょっと余裕が出てきた頃…それを知った一部の人々は、また攻撃されては堪らないと短絡的に考え、残っていた武器を使い、偶然地上に降り立ったアポストルを攻撃した。
苦戦すると思われた戦いだったが、想像以上にアッサリとアポストルは倒れた…その後、小規模ながら『あの日』と同じ現象が起こり、アポストルを攻撃した人々は消し飛んだ。
この事の資料が残っているのは…攻撃をするのを決めた一人が、回復し始めたネットを使って、何故かリアルタイムで動画を配信していて、それが後世にまで広がったらしい。
――アポストルを攻撃し、しかもそれをネットで生放送していた人達には、失礼ながら『バカじゃないの?ナメてるの?』って気持ちと、ある種の感謝しか浮かばない。
その感謝とは…アポストルを殺したら、仕掛けた奴ら全員が殺される。――今の世界共通の常識になった情報提供である。
そして今、アポストルの脅威に脅えつつも…そのアポストルが襲来する以前の姿を、世界は取り戻したのだ。
▼
僕は、スッとカーテンを戻す。
アポストル達によって失われた損害は大きい。だが、それ以上に興味深くもあった。こうしてアポストルの事を調べているのも、偏に彼女達を理解しようとする為でもある。
…この捻くれた頭のせいで全く調べ物がはかどらないのは、思わぬ障害だったが…でも、僕にはどうしても、資料に書かれている事がアポストルの全てとは思えなかった。
だって、やろうと思えば一瞬で地球を我が物に出来る程の力があるのに、どうしてアポストル達は、最初の瞬間から僕ら人類を絶滅させないのだろう。そうした方が、絶対後から楽なのに。
調べものをしていた部屋から、もう一つの部屋に移動し…大して広くもない部屋に置かれた、ごくごく普通のベッド、そのの近くに置かれて間もない小さな丸椅子に腰掛けて、僕はベッドの住人に目をやる。
「なぁ、どうして…どうして君達は、僕達を滅ぼさない?」
そこには…包帯を巻かれ、ガーゼが貼られたアポストルが横たわっていた。
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このアポストルを助けたのは、ただの気紛れだった。
たまたま、深夜のコンビニに寄った帰りに、ボロボロに傷ついたアポストルが、家の近くで倒れていたのだ。
疎らに設置された街灯の下…そこにグッタリと体を弛緩させ、人間のような赤い血や土で汚れたアポストルは…不謹慎かもしれないが、何かゾクッとする色気があった。
まぁ、当時は真っ先に、何がどうしてこうなった?と頭が混乱したんだけど。でも不思議と、放っておくとか、見捨てるとかは思えなかったのを覚えている。
人々が兵器だなんだ言っても、アポストルが美少女には変わりない。それも、ボロボロに美少女を放っておいたら、目覚めが悪いなんてものじゃないし…何をバカなと言われるかもしれないが、何故か…このアポストルに、少し惹かれるモノを感じたのだ。美少女だとか関係なく。
幸い、僕の身内はアポストル達が来た時より以前に既に居なかったから、色々と気にする事も少なかった。稼ぎもまぁ…かなり慎ましやかにすれば、一人分くらいなら大丈夫な程にはあったし。
取り敢えず、人と同じように手当てをして、床に直に寝させるのは大変気が引けたので、仕方なく自分のベッドに横たえ、視界にずっとアポストルが入るのも心臓に悪いから、僕は暫くベッドではなく、安い長座布団を二・三枚買って、それを敷き布団代わりに、毛布を被って寝ている。
それなのに、このアポストルの少女…何故か全く目覚める気配がない。外傷は、ちょっと酷い打撲や擦り傷、裂傷程度。そんな何日も寝込む怪我ではないのだけど。
こっちは、怪我の手当てをした時にアポストルに触れたのだけど…その時の感触が、捻くれた僕には余りにも刺激が強くて…打って変わって、すっかり睡眠不足だ。
「……っ。」
「お?」
お前のせいで僕は最近ずっと睡眠不足なんだけど、どう責任を取ってくれるんだ…っと、恨みがまし目線を送っていたら、アポストルの眉間に、僅かにシワが寄った。もしかしたら、起きるのかな?
「……。」
静かに長い睫毛を揺らしながら、瞼を持ち上げていくアポストルは…暫くボンヤリとしていたみたいだけど、僕の姿を見てハッとなった様だ。まるでバネ仕掛けのオモチャの様に勢い良く上体を起こしたアポストルは、キッと僕を睨みながら、ベッドの上で距離を取った。…そういう反応は、人間と一緒なんだな。
「お、おマエは!?」
微妙にイントネーションが、僕達とは…と言うか、日本とは違ったけど、どうにかこの言葉は聞き取れた。
「僕の名前?…あ〜、日本語ってか、漢字平気?」
「……イチオウ、チシキとしては…ある。」
まだ警戒しっぱなしのアポストルに、仕方ないかと思いつつ…助けたのに、まるでこっちが加害者みたいじゃないか…って気持ちを感じずにはいられなかった。
「そう…僕は文枝真人。どっちが名前か、分かる?」
「バカにするな。マコト、だろう?フミエダは、ミョウジ。」
どうやら、アポストルは一般教養は身に付いている様だった。
「ワタシは、どうしてココに…。」
「何日か忘れたけど、お前が僕ん家の近くで倒れていたんだ。見捨てるのも目覚めが悪いから、助けた。」
「…ワタシタチは、ジンルイをホロぼしかけたソンザイだというのに?」
僕の言葉に、自嘲するように言ったアポストル…自分でそれ言ってちゃ世話がないな…とは、寸での所で言わずに飲み込んだ。
「日本には、『捨てる神あれば拾う神あり』ってコトワザがあるの。今回僕は、君にとっての拾う神だったって訳じゃない?」
「そんな、テキトウなリユウで…。」
「適当で良いよ。…どうせ壊れる世界、僕の好きなようにいちゃわるい?」
「…!!」
それこそ適当に言った僕のその言葉に、アポストルは鋭く息を詰まらせ、何かに耐える様な表情をした。
アポストルのその様が余りにも痛々しくて…なんかもう、僕はこの場に満ちた緊張感に堪えきれず、静かに溜め息を吐いた。
人形の様に生気の薄いアポストルが、人間の様に苦しそうな表情を作り、人間と同じように傷付くのを…凄い違和感を感じずにはいられなかった。アポストルは人類を滅ぼしかけた、その事実は変わらないのに。
目の前のアポストルは、まるで…まるで今生きている人間より、人間みたいじゃないか。
そこまで考えた辺りで…何だか、自分が今まで調べていた事とがバカらしく思えてきてしまった。
上体をベッドから起こした体勢のまま息を詰まらせたアポストルに、僕は素朴な疑問を投げ掛けてみた。
「…アポストルにも、名前ってあるの?」
「…えっ?」
「だから、名前。君の名前。僕は名乗ったのに、君が名乗らないのはどうかと思って。」
聞いてみてから、アポストルに名前って概念がなかったらどうしよう…って思ったけど、時既に遅し。まぁ、アポストルに名前がなかったら、なかった時に考えようか。
僕がそんな風に自己完結し終わった時、少し考える素振りをみせたアポストルが、小さく口を開いた。
「……エアリーズ、だ。」
口を開いた分だけの、小さな響きだったけど…その響きは空気を震わせて、僕にしっかり届いた。
「なら、エアリーズ。」
心の中でゆっくりと、目の前のアポストルの名前――エアリーズを反芻しながら、僕は聞いた。
「…ナンだ。」
「友達になろう。」
「…………はっ!?」
「おお、溜めたねぇ。」
うっかりスルーされたかと思ったけど、エアリーズにはしっかり届いていた様だ。…まぁ、その驚き顔を見たら一目瞭然かもしれないけど。
「おま、ワかっているのか!?ワタシは、おマエらジンルイがアポストルとヨび、オソれるモノなんだぞ!?」
「さっきも思って、あえて言わなかったけど…それを自分で言ってちゃ、世話ないな。」
「うるさい!!」
「だからだよ。」
僕に体を向けて激しく言葉を言っていたエアリーズは目を見開き、また鋭く息を詰まらせた。
「壊した事に罪悪感を感じるなら、歩み寄る事も出来るんじゃない?」
エアリーズを見ていたら…少なくとも彼女は、僕達と歩んで行けるだけの力があるのではないか。そう感じさせるには十分なくらいに、彼女は人間らしかった。
「…イマサラ、オソすぎる。ワタシタチをニクんでるヒトタチは、セカイジュウにたくさんイる…。」
苦しそうに呟く声は、少し揺れている様に感じた…のは、僕の願望なのだろうか?
「じゃあ、僕が…人類として、エアリーズの友達第一号かな?」
「だからっ…………もう、バカ…バカバカバカ!!」
色々堪えきれなくなったエアリーズが、僕の顔を見てバカバカと言ってきた。…美少女が泣きそうな顔で罵ってくるのって、中々精神的に辛い物があるなぁ。
「僕の名前はバカじゃないよ、真人だよ。」
「…マコトのバカッ!!」
僕の顔を真っ直ぐ見ていた顔は俯いていき、バカと連呼していた声が、次第に小さく弱くなっていき、とうとう嗚咽混じりに泣き始めたエアリーズ。
…でも確かに、いつの間にかベッドの上に置かれた僕の手を、彼女の手はしっかりと握っていた。
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エアリーズが泣き止んだのを見計らって、僕は出来る限り落ち着いた声を出すように心がけた。
「それじゃあ、取り敢えず…自己紹介からしようかな。さっきも言ったけど、僕は文枝真人。一応お酒飲める歳で、普段はちょっとした小遣い稼ぎと貯金で食べてます。趣味はまぁ…興味を感じたモノかな。読書も好きです。」
この時点で気付いたのだが、自己紹介とか何年ぶりだろう…ちょくちょく日常会話はしていたけど、これほど深い話しは出来なかったし…やば、僕って実は人見知り?…いや、それほど今まで会ってきた人に興味がなかっただけ、かな。
「えっと…ワタシは、エアリーズ・エイプリル。ワタシタチにはトシというガイネンがウスいが…スクなくとも、あのジンルイをシュウゲキしたトキにはイたから…その、できたらサッしてほしい。シュミというのもヨくワからないが…ノにサくハナをメでるのはスきだった。」
…エアリーズの話をまとめると、つまり僕よりかなり歳上って事になるのかな?でも、決して頭が悪いわけでもないのに、実年齢を言わない所を見る限り…アポストルっていうか、エアリーズの感性も人間の女性と一緒なんだな。
「じゃあ、質問。多分名字だと思うけど、エイプリルってコッチだと四月って意味なんだ。エアリーズって春生まれ?」
「いや…ワからないな。ワタシタチがイたホシには、もうシキどころか…サイシュウテキには、シゼンのミドリすらなかったから。…ワタシがメでていたハナも、まだミドリがあったトキのハナシだ。」
…何となく、予想していなかった訳ではないのだけど…アポストルが住んでいた星はエアリーズの話ぶりから察するに、もう滅んでしまったみたいだ。
「こちらも、シツモンしてイいだろうか?」
「ん、良いよ。僕も質問したし。」
「ワタシのチシキがタダしければ…ここサイキンのジンルイは、ワタシタチがクるマエのジョウキョウにかなりチカヅいたたいたとオモっていたのだが…マコトには、カゾクはイないのか?」
…いきなり地雷踏んできたな、エアリーズ。まぁ、地雷って思っているのは周りだけで、僕の方はそれなりに折り合いをつけているんだけど。
「エアリーズが結構説明を省いてるから、多少補足しながら答えるけど…世界が大体元のの姿を取り戻したって言っても、アポストルが来る以前から人々は争っていたんだよね。まぁ、エアリーズが来る前のそのいざこざに、僕の両親は巻き込まれた訳。言い方は悪いけど、所謂不幸な事故ってヤツ。今は両親の遺産やら保険金やらで生活していて…さっき説明した貯金って、それなんだけど。」
アポストルが巻いた種ではなく、アポストルの存在で薄くなったように錯覚している、まだまだしっかり根深くある問題…今はアポストルのお陰で一時休戦みたいになっているけど、いつ再燃するか分かったものじゃないよね。一触即発ってほど緊迫はしてないけど、爆弾抱えているには代わりないし。
まぁ、アポストルが来ていなかったら、また違った未来があったかもしれないのも確かだけど…そんな『もしも』を考えても仕方がない。考えた所で、現にアポストルが居る今、その未来が訪れる事はないのだから。
「…つまり、イマのマコトには、カゾクはイないのか?」
「親戚の家に行くって話もあったんだけどね…どうしてもそんな気になれなくて、今までずっとこんな感じ。…だからエアリーズと友達になれたんだけどね。」
両親が生きていたら、絶対あり得なかっただろうなぁ…いや、母さんなんて可愛くて綺麗なモノが好きだったから、母さんは許してくれたかな?…真面目な父さんは普通に許さなかっただろうなぁ。でも、父さんは母さんに弱かったから、母さんが賛成だったら…絶対押し負けて、いやいやながらエアリーズ保護してそう。そして、次第にエアリーズに情が移っていくんだよね…僕もあまり人の事言えないけど、お人好しだよね。…まぁ、両親が『生きていたら』の話だから、絶対想像の域を出ない訳だけど。
「そうか…コみイったハナシをキいてしまい、すまない。」
「大丈夫、大丈夫。両親が亡くなったのは随分昔…って程でもないけど、でも…もう折り合いはつけたから。」
亡くなった当初は、そのあまりの現実味の薄さに戸惑い、泣いたりした事もあったけど…今は結構、両親の事を受け入れていると思う。
「…マコトは、ツヨいな。」
「どうしたの、急に。」
僕をじっと見ていたエアリーズが、ふと表情を暗くした。…そんな表情でもドキリとさせてしまうんだから、やっぱりアポストルって…いろいろズルいと思う。
「ワタシは…そんなフウにツヨくなれなかった。ウけイれられなかった。」
「…もしかして、エアリーズが怪我していたのと…何か関係あるの?」
「そうだな……あのトキのワタシはただ、ヒトのテにかかってシにたかったのかもしれない。」
ドキリとしてしまった自分を蹴っ飛ばしてやりたいくらい、そう思ってしまった自分をちょっと後悔した。
エアリーズは、しっかり悩んで悩んで…どうしようもなくなって、今気持ちを言葉にしているのに…その表情にドキリとした自分が、ただただ浅はかに思えてしまったから。
「モノをコワし、ヒトをコロしたワタシタチは…トウゼン、ヒトビトからはキラわれている。そんなコト、ワかってた。…でも、もしデアいカタがチガったら…もうスコし、ナカヨくできたんじゃとかオモったら…ナンか、ナンか…。」
エアリーズの口から溢れる言葉は、徐々に沈んでいく。涙声になっていないのが、不思議なくらい。
…今の僕には、エアリーズの言葉の意味は分からない。
でも何となく、人類とアポストルの出会いは、少なくともエアリーズの本心ではなかった…それだけは分かった。
「…エアリーズには、お姉さんとか妹とか、居たの?」
「…ナカマなら、タショウな。いろいろなヤツがイたけど、タノしかった。」
アポストルは結構たくさん居るのに、エアリーズの仲間は多少って表現するぐらいしか居ないのか…世の中いろいろあるんだね。
「ああ、ナニやらカンチガいをしているヨウだからイっておくが、ワタシみたいに…ニンゲンでイうトコロの『ジガ』があるのは、ワタシをフクめてジュウスウ…タイ?だったかな。ホカは、ワタシタチとニたようなカタチをした…ニンギョウみたいなモノだ。ワタシタチはドールとヨんでいた。」
「へぇ?…あ、じゃあ、今空を飛んでるアポストルって、そのドールの方なんだ。」
「ああ…ヒトよりカガクリョクでスグれているワタシタチも、ヒトとオナじくユウゲンのイノチだからな…ナニよりイッカイ、ワタシタチのナカマはコロされている。…だから、ミマワりとかそうイうのはドールにさせている。」
それを聞いて、少し居心地が悪い気分になった。…あの時殺されたアポストルは、エアリーズの仲間だったんだ…。
別に僕がした訳ではないけど、少し…申し訳ない様な、苦しい様な気持ちになった。
「マコトがキにヤむはなしではない。あれはどうアガいたトコロで、ワタシタチがトオらなければいけなかったコトだ。…ヒドいようだが、ワタシはそうカンガえている。」
「…そっか。」
あぁ、何かこうしてエアリーズと話をしていたら、どんどんアポストルと人間との違いが曖昧になっていく様な気がする。寧ろ人間より人間らしいと言うか、僕達より随分シャンとした雰囲気を感じる。
…でも、体から沸き上がる知りたい気持ちに我慢できなくなった僕も、ある意味人間らしいのだろうか?
好奇心は猫おも殺すとか何とか本で読んだ事あるけど、これが知れたならここで死ぬなら本望だ。言ったらあれだけど、ぶっちゃけ今の世界で生きていてもなぁ…って思うし。
「…ねぇ、エアリーズ。最後に一つ、質問して良いかな?」
「ナンだ?」
「アポストルって、何なの?どうして地球に来たの?」
この言葉を僕が口にした瞬間、エアリーズの顔や雰囲気が瞬時に強張った。…ああ、これは、エアリーズの中での地雷中の地雷なんだな。
つまり、それほどまでに込み入った話で、エアリーズと僕の今の信頼関係では、口にするのも憚られるレベルのヤバイ話なのだろう。
「ゴメン、エアリーズ。今の忘れて。」
「…っえ?」
「と言うか、エアリーズが話したくないなら話さなくても良いよ。無理矢理聞こうって気もないし。」
正直、僕は特別頭が良い訳でも、何か特別な権力や権限がある訳でも、社交的な訳でも、万人受けする性格な訳でもないから、エアリーズが口ごもる話を聞いたとしても、どうする事も出来ない。どうあがいても、僕は一介の日本国民で、物語で表すとしたら、それこそ村人その一とかそんなのなのだ。
だったらもう、エアリーズが話したくなるまで、話しても大丈夫だと思ってくれるようになるまで、待つしかないと思う。こう言うのは無理にねだるより、言ってくれるのを待つ方が、教えてくれるまでの効率が良いと言う…ちょっとした打算的な考えがあったりするけど、大体はエアリーズの判断に任せるって言うのが、僕の考えだ。
「…すまない。トキがクれば、いずれゼッタイハナすから。それまで、マってくれ。」
「ん、待ってる。」
エアリーズが思ったより前向きに検討してくれているだけ、僕的には全然マシだと思う。僕だったら、絶対答えを中途半端にぼかして、はぐらかすと思うし。
「さて、お腹空かない?何か食べる?」
「あ、いやその…。」
恐らく遠慮しようとしたエアリーズのお腹から、可愛らしいく空腹を訴える音が聞こえてきたので、ちょっと笑いをこらえるのに必死になった。
何にしても、歩み寄りや、歩み寄ろうとする姿勢って大切なんだと思う。
物理的な距離を縮めるより、精神的な距離を縮める努力をする方が、ずっと大変で、ずっと痛くて、ずっと苦しい。でもその分、一度近付いたら、ある程度は分かち合うことができる。そして、物理的には離れても、精神的には中々離れる事が出来ない。
傷付くのに慣れてしまった、心優しい宇宙人と、傷付くのに慣れてはいないけど、大分捻くれた性格をしている僕は、本当の友達になるべく、こうして少しずつ近付こうと歩み寄る事にした。