人世界・各所・プロローグ(仮)
人世界ーーー北の王国「霧の国」王国騎士団駐屯地。
「聞け!!戦士達よ!!勇敢なる不死の戦士よ!!」
凛とした美しさを表現する澄んだ声が北の雪原に群がる数万の兵士達の耳に届く。
「時は満ちた!幾度となく耐え忍ぶ戦いも終わりにしようではないか!!」
ガヤガヤと喋る兵士達全員が白馬に跨る幼い外見をした少女に注視する。
その視線に幼子を見つめる甘さなどは無く、尊敬と畏怖が交わった視線であった。
「昨今、先王イシュバルは死んだ!!平和を誰よりも愛した王・・・そんな駄王が今、死んだのだ!!」
ーーーォォォォオオオオオオ!!!!
そこに悲劇などは無い。
有るのは喜劇とそこから始まる劇的な変化である。
「今一度言う・・・時は満ちた!!我ら不死の騎士と成りて大陸全土を支配し、ここ人世界を収めようではないか!!」
少女は剣を抜く。
我らが民の為、我らが国の為に。
少女は決意する。
たとえそれが茨の道であろうとも、突き進む以外の道など無いのだから。
「さぁ勇敢なる不滅の騎士達よ!!我に続き、己の意を示せ!行くぞぉぉぉおおお!!」
ーーーオオオオオオオ!!!
先頭に少女を据えた「霧の国」の兵団は国から南下し、他国へと向かう。
戦争を生きがいとした戦闘種族「幻想世界」の住人達はその先頭の少女ーーー女王アンリ・アン・ブリリアントに頭を垂れてただ只管に。
「・・・さぁ、戦争の始まりだ」
誰の言葉だったのか。
一人つぶやくその声は、士気を上げる兵士達の咆哮に掻き消され誰の耳に入ることも無く消えて行った。
人世界ーーー南東の帝国「帝都ステア」
「うむ」
私は自分自身を水面に写すことで身だしなみを整える。
「人っぽい。物凄く人っぽいのぅ・・・これでよし」
(動きにくいのぅ、人間はなぜこのような布で身を包むのじゃ)
そう思い、少年ーーシンは最後にベルトを腰に据えた。
「シン!準備できた?とっとと行くわよ・・・って貴方、何その格好?馬鹿じゃないの?」
「はて、何か間違えたかのぅ?」
「逆よ、逆!・・・なんで上着を前後反対に着れるわけ?背中、見えてるわよ」
「なんと!」
慌ててシンは上着を羽織り直す。
「そもそも、ただでさえその黒い髪は目立つんだから!これ以上に目立つ真似は控えてくれないかしら?」
「うむぅ・・・好きでこんな姿になった訳じゃ無いのじゃが・・・」
「なんか言った?」
「いや、なんでも無い」
青筋たてて怒る少女にシンは即座に謝った。
(しかし、何故この娘・・・フィーと言ったか?何故、わしに構うのじゃろう?)
人間とは不思議なものじゃな。などと今日何十回と漏らす感想と共に、シンは少し前の時間を思い返した。