天界・教会・接続
「うわぁ・・・・」
言葉にならないとは正にこの事であろう。
黒の煌びやかなドレスに身を包む最高神ミカエルから生まれし守護天使ーーロロナは譫言の様に呟いた。
「えぇ・・・・」
言葉同じくしてもう一人の守護天使ーークロロも戯言の様に呟いた。
二人の目前には紅蓮の炎、教会全体を埋め尽くし太陽までも届きそうな高さまで舞い上がる火柱が轟々と燃え盛っているのだ。
「クロロぉ・・・これ、どうしたらいいのぉ?」
ロロナは自分の想定外の出来事である「教会の大惨事」に慌ててクロロに助けを求める。
「そんなの僕だって知らないよう・・・これ、消火出来るの?」
「出来るわけないじゃない・・・こんなデタラメな魔力が篭った炎をどうやって消すって言うのよ」
「そうだよねぇ・・・ミカエル様にお任せするしかないのかなぁ」
「そうよ、全てミカエル様にお任せするしかないのよ」
「でも、ミカエル様は・・・」
二人揃って目の前にある火柱を見つめた。
「「あの中だもんねぇ・・・」」
「いきなりの不意打ちは卑怯なんじゃなぁい?とかげちゃん?」
燃え盛る炎の中、天使と竜がお互いに目を合わせる。
メタトロンに転送された竜
彼はここが『自分の知る天界』では無いと知ったのだ。
そもそも『天界』は少なくとも数億人の天使達が住む世界。
人世界で死んだ人間は魂が天界で選定される。
一定の魂の練度があれば天使に転成出来る。
それが此処の繁栄に繋がるシステムだと、竜は友達のフィオナから聞いていた。
しかし、ここはどうだろう?
先程上空から見た景色には天使一人居ないではないか。
さらに騎士メタトロンの存在も竜の疑問に拍車をかけていた。
天使に戦闘種族ーー剣技を扱える者などいない。
そこで竜はある程度の『賭け』に出たのだ。
「先程、生きの良い若者に出会ってな、不意打ちの真髄を見せてもらってのう・・・少しやってみただけじゃ」
悪びれる様子が欠片も無い竜が今一度自分の口で炎を溜める。
「さて、いろいろと聞きたい事があるのじゃが・・・先ずは貴様よのぅ。一体何者だ?」
先程からのお喋り口調とは打って変り、殺気を込めた言霊となりミカエルへ話す。
「最高神?・・・馬鹿にするな。天界に最高神を名乗る者は我が友以外には居らぬ!!」
今一度、溜めた炎を球体と化し、ミカエルと名乗る者へ高速で放つ。
「あらあらぁ、先ほども名乗って差し上げたでしょお?私はミカエル。最高神ミカエルだって・・・ね!!」
自身の翼に魔力を込めたミカエルはその翼を上から振り下ろし、火球を切断して両端に逸らした。
そのまま竜の方向へと速度を増して飛んで行き、竜の腹部へ両手を突き出した。
「星光形成」
正に星の輝きとも言える光彩の波が翼から放射、手のひらを目掛けて形を成す。
「星屑之槍!!」
両手をから前に向かって巨大な光の槍が突き出され、竜の腹部へと突き刺した。
「ぐぅっ!・・・おおおおおおお!!!!」
咆哮とも言える悲鳴をだした竜は堪らず後ろへ下がる。
腹部に刺さる巨大な槍が赤い血と共に抜き出された。
「ハァ・・・ハァ・・・貴様・・・我が友を、ガブリエル・フィー・フィオラはどうした!!」
腹部から流れ出る血をも気にせず竜は両手の爪に炎を灯し、ミカエルへと斬撃を繰り出した。
「そんな500年も前のお話なんて・・・覚えていないのですよ!!」
キィン! キィン!!と金属がぶつかる音を奏でつつ、紅蓮の爪と光の槍が上下左右と重なり合う。
「ならば・・・思い出させてやろうぞ!!その分厚い仮面を剥がしてのぉ!」
真ん中から突き出される槍に自身の翼を前へと出した。
「・・・なっ!」
槍が刺さる瞬間に翼を前から横へと移動させ、ミカエルの手から槍を奪った。
まさか自身の翼を生贄にするなどと、同じく翼を持つ天使であるはずのミカエルには想定外である。
「その仮面、さぞかし息苦しかろう。我が溶かしてやろうぞ、ミカエルとやら」
槍を無理に取られた衝撃で手が上がったミカエルに、正面からの攻撃を防ぐ手段が見当たらない。
「獄炎」
竜の口から先程の火球よりも遥かに高い温度を保つ黒い炎がミカエルに襲った。
「ぁぁぁぁあああああああああ!!!!!」
「さぁ、貴様は何処ぞの王だ。その顔・・・拝ませて貰おう」
黒い炎に包まれたミカエルは絶叫を上げる。
しだいにぼたぼたと焼け爛れ、その身に包む翼やローブが焼け崩れていった。
「ぎざまぁっ!!殺す殺す殺すぅっ!!!」
その身は黒煙が上がり翼も片方しか存在せず、両手で顔を抑えながら呪詛の如く竜へと叫んだ。
「接続ぉお《コネクト》!!!」
「お待ちください!ミカエル様!!」
ミカエルが魔法を放つ寸前、周囲の炎が掻き消された。
その瞬間、外から三人の天使がミカエルの周囲に降り立った。
「現状での『接続魔法』は危険過ぎます。ここはロロナとクロロに任せ、御身は一度引いてください!」
二人の少女が竜へ立ちふさがり、一人の男ーーメタトロンがミカエルに肩を貸す。
「ミカエル様!早く!」
「ミカエル様!!早く早く!!」
メタトロンに担がれたミカエルは手で顔を覆い尽くすも、竜の方向へと顔を向ける。
「熱い、熱いよぉとかげちゃん・・・許さない。絶ぇ対に許さないんだからねぇ。」
激昂した時の口調は戻っているが、その言葉には冷たいものを感じる。
指の隙間から見える金色の瞳が竜を貫くが如し視線であった。
「・・・・・あなたにはぁ、今から神罰を降します」
ーー此奴は何を言っている。
竜は訳も分からず先程受けた腹部の傷に手を当てて、異様な雰囲気を出す目の前の天使達に目を向ける。
「これはぁ、神罰。」
その言葉と共に、ロロナとクロロは互いにドレスのポケットから種の様な物を取り出した。
「貴方は罪をーーー償いなさい。」
「ぐ・・・・ぉぉおおお!!!」
種から光が漏れ出して、周囲を明るく染め出した。
その時、竜は自身の身体が何も動かない事を理解する。
「貴方を完全に殺すには些か準備が必要なのです。なので・・天界《この世界》からひとまず消えて貰いましょう。」
メタトロンが淡々と竜に告げる。
「竜さん竜さん!一人の少女を見つけてね!」
「見つけてね!!」
ロロナとクロロは種を竜の側へ置き、健気な少女を装って囁いた。
「貴様達・・・一体なんの・・・ぐぉおあああああああああ!!!」
「ひとまずはぁ頑張ってくださいねぇ、とかげちゃん・・・この火傷の怨み、必ず返してやるからなあ!!」
種から発する光が集まり、帯となって竜に巻きついて行く。
巻きついた帯は段々と増えて行き、最後には巨大な竜の全てを包み込んだ。
「「接続!!!」」
楽しそうな少女達の声がーーー
「「創造世界・輪廻転生!!!」」
ーーー竜の聞こえた最後の言葉となった。