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天界・草原・其々の思惑

「はぁい、みんなぁてきぱきと動いてねぇ〜」


聞く者全てが「甘ったるい」と表現するであろう声がこの教会に響き渡る。

入り口から祭壇まで純白と言えるであろう外壁に包まれた教会。

そこで動くは三人の天使であった。


「ミカエル様、中央で腕を組むのは良いのですが、流石に邪魔ですよ。邪・魔」


白銀とでも言うのだろうか、白く光るローブに身を包む翼の生えた白髪の少女ーークロロはこれから行われる【審判】に向けて様々な準備を行っていた。


「クロロ、最高神であるミカエル様に向かってそんな口の聞き方は良くないのでは?・・・っと、机の形はこれで良いのかしら」


先ほどのクロロの発言に多少は思うところがあり、口を挟むもう一人の黒髪の少女ーーロロナが

誰かが使うであろう机の位置取りを考えながら呟いた。


「ロロナ、僕はミカエル様を尊敬しています。例え天界が滅んでも僕はミカエル様と共に滅びますね」


「あのォ〜、物騒な事を仰る前にぃ〜とっとと終わらせてくださいなぁ。トカゲちゃんが到着しちゃいますよぉ〜」


ロロナやクロロと違い、金の枠取りされた白いドレスに金色の髪を左右に結ったミカエルと呼ばれる少女ーーミカエル・フィー・アンフィが多少の苛立ちを込めた言葉で少女達に呟き、少しだけ少女達の動きが円滑になる。


「今頃ぉ、メタちゃん達がトカゲちゃんを捕まえてると思うのでぇ〜あと少しでこっちに着くと思いますよぉ〜」


日の傾き具合で時間を見ているのであろうミカエルは教会の丸窓を覗き込むかの様に太陽を見つめた。


「メタトロン様でしたら、教会ここへ着く前に連絡を頂けると思いますわ。あの方はしっかりしてらっしゃるもの。ねぇ?クロロ」


「あぁ、そうともロロナ。兄様は誠実でしっかり者だからね、何処かのいい加減な戦闘狂とは大違い・・・と、噂をすれば?」


クロロ達の会話を遮るかの如く、天使達の脳に響き渡る鐘の音。

これは天使間で使う連絡の魔法【音伝レター】の音であると誰もが知っていた。


「ほらほら、みんなぁメタちゃんが着いちゃったよぉ?さっさと支度してくださいなぁ」


いち早く内容を理解するミカエルがクロロとロロナを急かして煽る。

それはそうだろう、今から行う【審判】は天界の、いやーーミカエル自身にとても大切な事なのだから。


「「はぁい、ミカエル様」」


最後の確認なのだろう少女達は周りを見渡して頷く。

後は自分達の服装だけだとお互いに目を合わし、奥に控える小部屋に入って行った。


「さぁ、おいでトカゲちゃん。これで終末の魔法は使えない。可哀想ぉ、あぁ可哀想なトカゲちゃん。誰にも救われず、利用されて終わる儚い人生を貴方にあ・げ・る」


一人で嘆く様に笑うミカエル。

その姿は恋する乙女にのそれに近いーー拒絶と憎しみの表情であった。

そこは草原だった。


視界を埋め尽くす緑の色は、千年の間「荒野」と呼ぶ茶色を視界に捉えていた竜にはかなりの「刺激」であった。

真紅の瞳が悲鳴を上げ始める前に瞼で景色を遮り守りたい思いが確かに有るのだが、また別の思いも込み上げて来る。


ーー微々たる生命の一本一本すら愛おしくすら感じる、この景色を瞳に焼き付けたい。


他の者には決して理解を得ぬ葛藤を胸に竜は辺りを見渡した。


天界ヴァルハラ。無事にここへ来れたと言う事は現世の我もまた、無事に己を殺せたと言うことか」


何をもって「無事に」なのかと自身の発言に多少の笑いを含みつつ、竜は翼を大きく広げ、空に舞う。

先程までは大きく傷ついていた翼も今では傷一つ無い漆黒の翼である事は自身で承知の上だ。


ーーこれはそういうものだ。そう言う現象だ。


傷ついた体は現世【人世界ミズガルド】での傷であり、此処でその影響を受ける事は【世界の法則】に従ってあり得ない。

竜はこの法則を生まれた頃から知っていた。


人知れず淡く浮いた心を静かに抑え、目的の為に竜は飛ぶ。

待っているであろう友人と会う為に。

かすかに感じる【神】の気配を辿り、竜は風の如く加速する。


「さて、待たせたの・・・天界ヴァルハラの騎士よ」


草原から舞い上がり、遥か上空ーー雲の上まで登った竜はそこに感じる気配に語りかけた。


「お気付きでしたか。上手く隠れてたつもりでしたが・・・」


などと言いつつもそこに自身の失敗を反省する色は無く、むしろ自身に気付いて欲しかったかの様に青年ーー大天使メタトロン・ウー・フーバーは背中に背負う蒼剣に手を伸ばす。


「ならば致し方ありません、教会にて最高神がお待ちです。出来ることなら素直にご同行をお願いしたいのですが・・・」


ーー拒否するならば、手足の一本、頂きます。


空中で全身鎧フル・プレートに固められた身体を低く落とし、そこに地面が有るかの様な立ち振る舞いを竜へ構える。

これが彼の戦闘体制だ・・・とでも言うような構えの前で竜は灼熱の炎では無く、言葉を吐いた。


「これこれ、そう生き急ぐでは無い。我は抵抗も反撃も虐殺も行わぬ。さぁ、連れて行ってくれ・・・天界の騎士よ」


青年の覚悟を前に竜は静かに語り掛ける。


「そもそも我の用事は最高神にしかないのだ、そこへ連れて行ってくれるのだろう?致せり尽くせりではないか。感謝こそすれ、そこに刃向かう意思など生まれるものか」


かっかっか。と笑う竜に青年ーーメタトロンは毒気を完全に抜かれその構えを解いた。


(争い好きと聞いたのだけど・・・なんかやる気無くなったなぁ)


背中の大剣に伸ばす手を放し、完全に興を削がれた騎士は己の主に聞いた話と何か違う事に多少の怒りを覚えたが、そんな怒りさえ虚空の彼方に消え去る言葉を竜は静かに吐いた。


「しかしその独特な構え、見事なものであった。先手必勝・・先手必殺の構えであろう?最初の特攻と見せかけて目の前で後ろに下がる・・・ある程度の者ならその突撃を予測、否、条件反射とでも言える動きが出てしまうからのぅ。その振りの隙を襲う・・・どうじゃ?」


言葉にすると簡単にーーー不可能な行動にしか聞こえない竜の戯言にメタトロンは驚愕の表情を浮かべる。


「足に込めた必要以上の力、翼をやや前に突き出した後退の姿勢。腰を落としたのは癖かのぅ?・・・いや違う、歩幅の調整であるか?なるほど納得した。だから肩の向きが右半身ちょっと前にのめり込む仕様となるわけじゃ。成る程成る程」


すでにメタトロンは聞いておらず、また竜も自身で独り言をブツブツと呟いていた。


「いや、あのぉ・・・?」


「ん?・・・おぉ、すまんすまん、つい先程の戦闘術に関して考えておったわい。いやはや若い者の考えなどとは、まさに甘味よのう」


「はぁ・・・とりあえず御同行してくださるのでしょう?最高神は既にお待ちの様子なので魔法を使わせて頂きますね」


指先で天界独特の魔法である「魔法印」を宙に書きながらメタトロンは先程の竜の戯言に少しショックを受けていた。

特に流派など無いが、メタトロンは戦闘の天使だ。

騙し討ちから決闘に至るまで「勝った方が正義」を信念に置いていた。

結果、一番効果のある「初対面で一度目の騙し討ち」を使い相手を屠る事にしているのだ。


(まぁしかし、初見であそこまで見破られるとは思いもしなかったなぁ・・・)


最後の印である文字を宙に書き、今だにブツブツ言っている竜に声をかけた。


「さて、これで転送の準備は整いました。それでは行きましょうか」


最後の確認・・・などと必要ないかもしれない。

しかし聞いておかねばならぬのだ。

事実ーーこれが最後の会話となるのだから。


「うむ、行くとしよう。・・・最後にお主の名前を聞いても良いかの?」


「僕は・・・メタトロン。メタトロン・ウー・フーバーと申す者です。」


以後お見知り置きを・・・などとは言えるはずもなく

メタトロンは最高神にもらった名前を誇る訳でも無く、名乗りを上げた。


「メタトロン。騎士メタトロンよ覚えておこう、そして我が名を申せぬことを許せ。我が名は破滅の名が故にな」


深く首を下げる竜

その姿は人間の「礼」として酷く酷似していた。


「さらばだ騎士メタトロン、最後に良い者を見れた・・・いずれまた会おうぞ」


メタトロンは何も言えず、何も発せず魔法を発動させた。


天界ヴァルハラ転送アヴゲート


そして目の前に居た黒き竜は光となってメタトロンの目の前から消える。

最後に話す、メタトロンの言葉は聞こえずに。



「悲しいですよ、ミカエル様、竜は破滅を呼ぶ者だって教えてくれたのは貴女じゃないですか。」


空を見上げながら誰かと会話するように話すメタトロン。

計画は順調だと報告する。


「いま、そちらに向かいました。・・・えぇ、首輪も付いてます。しかしーー」


ただしその表情は決して良い顔では無く、雨が降るかの様な曇り空を見ている表情であった。


「ミカエル様、十分にお気をつけください。」


先程の会話で唯一、竜の言葉に濁りを感じた言葉。

同行すると嘘をも見破り、一人で向かうと理解した上で放った言葉。


終末竜シン・カタストロファーはそこが罠だと気付いております」


その言葉を伝えた直後ーーー



ーーー教会のある方角に紅蓮の炎が炸裂した。







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