#7 影の英雄
俺は深夏を殺した後、生き残ろうと必死にもがいた。
もがいた末、レベル5になり、あの場所から脱出したが俺以外の誰も残ってはいなかった。
その後、次に俺がした行動は深夏との約束を守るために、冬樹という少年を探すことだった。
意外と早く冬樹は見つかった。何故ならば、俺に唯一残った親族、いとこの息子だったからだ。
冬樹は両親と姉を失い、12歳にして天涯孤独の身。しかも、病を患って入院中。
海外で臓器移植を受けなければ助からない。しかし、海外で治療するには多大な治療費がかかる。
そんな矢先の姉の死。既に冬樹は死を待つだけだった。
俺は軍時代に稼いだ全財産を注ぎ込んで冬樹に臓器移植を受けさせた。
病が治った後は帰化して冬樹を引き取り、俺は一生懸命働いて冬樹を養った。
勿論、冬樹には真実は告げていない。深夏は交通事故で死んだことになっている。
俺が従叔父だということは告げている。だが、それだけだ。
だからか、冬樹が高校生になった頃だったか、俺にこう聞いてきた。
「おじさんは何故僕にここまでしてくれるの?僕が唯一残った親族だから?」
「お前の姉に頼まれたんだ、冬樹を頼む、ってな・・・」
「姉・・・さん・・・!?」
それ以降は何を思ったのか、このことに関しては何も言ってこなくなった。
そして、冬樹が高校を卒業。大学には行かずに就職。
俺は遠慮しなくてもいいと言ったが、珍しく冬樹が我を通した。
約束を守るという贖罪、ただの自己満足は終わり、俺はまた生きる理由を無くした。
まだ40台前半、違う人生を模索するにはまだ余裕があったが、なにぶん、これまでに色々ありすぎた。
せめて冬樹を見守りつつ、余生を過ごそう。そう思っていた矢先に奴は現れた。
――――――――――――
―地下7階 12/23 午前7時 残り50時間―
「2回目はそう簡単にはいかないってことさ。覚悟しな、女狐」
「2回目・・・!?」
深夏を人質に取られると厄介だ。あの女を引き剥がす。
俺は弾倉に残った全ての弾を撃った。
右手のデザートイーグルから2発。撃ち終わった後は両手でベレッタに残った弾を連射。
杉崎は氷の壁を作って防御したが、能力で強化されているので、デザートイーグルの弾は貫通し、肩に直撃。その後ベレッタの弾によって氷の壁は粉々に崩れる。
俺はすかさず空のベレッタを投げ捨てて、氷の壁を貫通出来るデザートイーグルの弾を装填。一気に距離を詰める。
「うっ・・・ぐっ・・・」
杉崎は肩を押さえて傷口を氷で塞ぐ。
塞いだ後は少し後退して自分の周りに氷柱を無数に発生させる。
「お前は一体・・・!」
「そのままの意味だ。今回ばかりは負けるわけにはいかんのでな!」
「訳が分からないわ!消えろ!」
氷柱を飛ばしてくる気だ。このまま撃てば仕留められると思うが、これじゃ相討ちだ。
位置的に動けない深夏も巻き添えを喰らう。たぶん杉崎に逃げられるが、仕方がない。
拾っておいたコートで深夏の前に立って防御する。
「おじさん、ごめん・・・あたしが弱いばっかりに・・・」
「気にするな。お前は生き残って弟と会うことだけ考えてればいい。」
涙目になっている深夏を励ます。
お前は十分強い。俺なんかよりも、な。
氷柱の攻撃が終わったので、コートを投げ捨てて前方を見る。
予想通り、杉崎は居ない。
「仕留めそこなったか・・・」
絶好のチャンスだったが、仕方ない。
だが、またそう遠くないうちに対峙することになるだろう。